第22話 粗悪・流通・直売。品質が低い理由はなんだ?
「困ったわ。品質が低いの」
ロザリアが俺に相談してきた。
雇った薬師が作るポーションが粗悪らしい。
元々、俺とほかの薬師では、ポーションの作り方が全然違う。
参考にはならないから、俺は専用の部屋でポーションづくりをしている。
だから、薬師の作るポーションが粗悪だと気づかなかった。
「ね。あなたが指導することはできないの?」
「俺が?」
「だって、あなたのポーションはなんでも最高品質だから」
「お、おう」
うーん。俺にわかるのか?
薬師の作るポーションの品質のあげ方が?
「まぁ、役に立つかどうかはわからんが、やってみるか」
☆ ☆ ☆
「まずは、薬草をすり鉢でするのよ」
薬師おばさんがポーションの作り方を解説しながら、やってみせている。
毎日ポーションを作り続けているから、慣れたものなのだろう。
「ちよっと待て。入れる薬草は6本くらいなのか?」
「えっ? 6本と決まっている訳じゃないわ。薬草の状態にもよるから」
薬草の束は10本で1束だ。
一番最初に薬草を集めてくれた猫看板娘は1束でポーション1本だと言っていた。
「普通は10本だと聞いたことがあるんだが」
「あー。それは初心者の場合よ。熟練すれば2/3くらいでポーションになるわ」
「悪いが、10本使って作ってみてくれ」
「それじゃ、赤字になるわ」
「どういうことだ?」
ポーションの買い取り価格は大銅貨2枚。
それに対して薬草は今の相場で、一束大銅貨1枚と銅貨2枚。
他にガラス瓶が銅貨3枚で、ラベルが銅貨1枚。
「だから、薬草1束使うと大銅貨1枚と銅貨6枚が原価になるの」
「それを大銅貨2枚で買い取るというのか」
「でしょ。たった銅貨4枚にしかならないのでは、赤字よ」
品質が粗悪になるのは、実に簡単な理由だった。
熟練した薬師でも、1日にポーションだと十数本しかつくれない。
1本銅貨4枚だと15本作って、大銅貨6枚だ。
機材や作業場所の固定費もかかるし。
これでは生活できる金額ではない。
だから、薬草の量をぎりぎりまで減らす。
最後の魔力を注ぐときに、その魔力を受け取れる最低限の薬草しか入れない。
品質が粗悪になるはずだ。
「すると、アルフォン商会の売っているポーションはそんな品質のポーションなのか」
「そうね。評判悪いわね」
「ちょっと待ってよ、おふたりさん。これくらいが普通のポーションよ」
薬師おばさんの考えるポーションと、俺とロザリアの考えるポーションは品質が違うらしい。
まずは、俺たちが考えるポーションを見せるとするか。
「これがヒーリング・ポーションのお手本だ」
俺が作った傷回復ポーションを取り出した。
濃い緑の綺麗な液体が入った瓶だ。
薬師おばさんの作ったものを比べてみると、色が薄いしちょっと濁っている。
「何、これ? これがポーションなの?」
薬師おばさん、びっくりしている。
彼女が知っているポーションと全然違うものだ。
「これは俺が作った。作り方は秘伝だから教えられないがな」
「これって薬草どれだけ入れているのよ」
「薬草1束だ」
嘘である。
本当は薬草3本で作ったから、薬師おばさんの半分しかいれていない。
もっとも、そんな話をすると混乱するから、俺が知っているポーション知識で話した。
「入れる薬草の量でそんなに違うものなのね」
「もちろん、秘伝の作り方の影響はある。しかし、色の濃さは薬草の量の違いだろう」
「でも……そんなに入れたら……」
「よし。うちでは買い取り金額を倍にしよう」
「嘘っ。本当!?」
まるで転生前の女子高生みたいな言い方だな。
本当にびっくりしている。
「ポーションの販売価格は銀貨1枚だ。買い取りが大銅貨4枚であっても利益は出せるよな」
「それは、売り方によるわ。直売でやれば十分可能よ」
お店に卸すとなると、利益がでなくなる可能性はある。
直売すれば、問題ないだろう。
「では、うちのポーションは直売にすることにしよう」
「そうね。だけど、どうやって売ったらいいのかしら」
ロザリアも、従来のポーションを取り扱っている店には期待していなかったらしい。
ガッチリとアルフォン商会が押さえているからな。
「ポーションと言えば冒険者だろ。冒険者が集まる場所で売ればいい」
「だけど、冒険者ギルドは無理よ」
「それはそうだ。アルフォン商会とべったりだろうからな」
冒険者が集まる場所、いろいろあるな。
居酒屋、道具屋、武器屋。
「武器屋はどうだ? アルフォン商会とつながりはあるのか?」
「武器屋は大丈夫。武器の売買ライセンスをアルフォン商会は持たないから」
「そこで、ポーションを売らせてもらうことはできないか?」
「難しいわ。だいたい武器屋に売らせようとすると、仕入れは半額だ、なんていい兼ねないわ」
そうか。無理か。
それなら、武器屋の外ならどうだろう。
ビーナス商会のスタッフを派遣して売る。
「それなら可能かもね。ただ、武器屋の店長がオッケーだすかがポイントね」
それに関してはロザリアが対応することになった。
街にある4軒の武器屋をロザリア自身が交渉に赴くことにした。
粗悪品は認めません!
楽しく生産職の話を書いています。
楽しく読んでもらえたら、うれしいです。




