第19話 婆さん・愚痴・資格制。新しい仕組みを考えろ
「それがムムの実を使ったポーションかい」
「知らないか?」
ルティの連れてきたお友達の薬師さん。
ちょっと年上の友達かと思ったら、おばあだった。
婆さん薬師にビーナスポーションの元になるムム水を作ってもらおうという段取りだ。
「ムムの実だと、ムムジュースになってしまうわね」
「それでもいいから、作ってみてくれ」
持ってきた道具を使って作業をはじめた。
すり潰して、濾して、煮詰める。
ムムジュースというより、ムムジャムぽいのになった。
それをポーションの瓶に詰める。
「どうかしら?」
「うまそうだな。しかし、それはムムジャムだ」
「それはそうよ。これがポーションになるわけないわ」
「魔力を注いでもダメか?」
「レシピがないもの」
ムムジャムを詰めた瓶を両手で包んで魔力を注ぎこむ。
おっ、ちゃんと光った。
「できた」
「すごいわ。なんか知らないポーションになったわ」
ビーナスポーション。
ムムジャムを素材にすると、注ぎ込み魔力が半分で済む。
これは、いいことを知ったな。
☆ ☆ ☆
ルティがムムジャム瓶詰の作り方を覚えて、俺の横で作っている。
そのために、ちょっと広いアトリエに移った。
ロザリアに依頼したら、すぐにアトリエを用意してくれて、薬師の道具をそろえてもらった。
こういうことをやらせるとロザリアは本当に優秀だな。
いままでは、素材からいきなりポーションを作っていたから、アトリエが不要だったのだ。
ルティに手伝ってもらうことで、さらに多くのポーションが作れるようになった。
だけど、ビーナスポーションのノルマは5本以上にはしないけどな。
☆ ☆ ☆
ルティが連れてきた婆さん薬師から、薬師の事情を聞かされた。
別に聞き出すつもりではなかったが、勝手に愚痴を言ったというのが正解だろう。
「とにかく、ひどいんじゃ」
この街の薬師はすべて、アルフォン商会の専属契約を結ばされている。
作ったポーションをたとえば、通りがかりの行商人に売るのも禁止だ。
当然、買い取り価格はアルフォン商会が決めており、販売価格の1/5だ。
その買い取り値段の中には、素材費も入っているからポーションを作っても、大したお金にならない。
だから、婆さん薬師が住んでいるのは、貧民地区。
ルティと友達になったのは同じ貧民地区に住んでいるからだ。
「ポーションを作って自由に売買できたら生活が楽になるのにね」
そんな話をするが、この街にいる限り不可能だ。
さらに、他の街にいけば生活が変わるかというと、どこでも同じだという。
可能性があるのが街から離れた村ならば、薬師は歓迎されるという。
ただし、そのような村ではポーションを買うだけの余裕がないので、無料奉仕に近くなるという。
それは薬師に限らないという。
街のすべての生産活動はすべて資格制で、資格を発行する権力を持った人が好き勝手にコントロールできる。
権力はたいがい貴族に集まる。
この街にいる貴族は、7人。
公爵が2人、伯爵が3人、男爵が2人。
この7人がそれぞれの権力を分け合って、自らの収入のために利用している。
「そうか。だから、ポーションの質が低いのか」
アルフォン商会のポーション売り場を見にいったことがある。
アルフォン商会のマークが入ったポーションが並んでいるけど、どれも品質がいまいち。
俺が作ったポーションは間違いなく、この店の一番いいポーションより高品質だ。
俺のポーションスキルがすごいのかと思っていたが、ポーションの生産管理が悪すぎるのが原因だろう。
もっと、品質の良いポーションを売り出したら売れるだろうが、販売の権利はアルフォン商会にしか認められていない。
これはアルフォン商会のやり方が下手だということか。
生産職をちゃんと扱わない貴族なんてなんの価値もないな。
だからと言ってもこの街というか、この都市国家は貴族中心の国だからな。
この都市国家には国王がいない。
いるのは、執政官と呼ばれる、いわば大統領みたいな役割の人。
執政官は7人いる貴族から選ばれて3年交代で政治を行う。
どういう選ばれ方をしているのかは、貴族にしかわからない。
たぶん、持ち回り制だろうといわれている。
貴族はそれぞれ商会をもっていて、ほかの商会に出資もしている。
ロザリアさんのビーナス商会はカターニャ伯爵が出資をしていてオーナーになっている。
他の都市国家だと、ギルドの力が強いところが多いのだが、この都市国家ではギルドは冒険者ギルドだけだ。
他の職業のライセンスを与えているのは、貴族たち。
貴族は職業のライセンスを発行する権利を持つ株をもっている。
アルフォン男爵は、ポーションを作り売買するポーション株をもっている唯一の貴族だ。
本来、ポーションを作り販売するなら、ポーション株を持つ貴族にライセンスを発行してもらわないといけない。
しかし、アルフォン男爵はアルフォン商会の専属契約をしている人にしかライセンスを発行しない。
例外が俺で、委託契約をしているように書類を作ってあるからライセンスがあるように見せかけている。
もっとも、誰に見せる訳でもないから、また逮捕されたときの保険としてだけだけど。
さて、どうするか。
これはロザリアに相談しないといけないな。
日間ランキングがファンタジー転生で51位に入ったぁ。
やったー。ずいぶんと200位くらいを上下していたんだけどね。
当分、1日2話更新の予定です。




