第17話 社畜、締切、腹筋割れた。男だってビューティに
第2章 ビーナス商会の躍動がスタートです。
「分かったわ。1日5本。ビーナスポーションを作って。それで手をうつわ」
おいおい。
ビーナスポーションはスキル2なんだから、そんなに簡単に作れるはずないだろ。
「1日5本。それを完成するまで何もさせないわよ。もちろん、寝ることもね」
うわ、それって奴隷よりひどい扱いじゃないか。
まだ、アルフォン商会の専属契約のほうがましだったかも。
「私だって、伯爵との約束を守れなければ女奴隷になるんだから。死ぬ気で作ってよ」
結局、奴隷と似たような立場に落ちてしまったらしい。
社畜ってやつだな。
☆ ☆ ☆
「ふう。やっと5本目」
今日1日、ビーナスポーション作りで終わってしまった。
ポーション作りには魔力を使うらしく、たくさん作るとふらふらになる。
一度ふらふらになったら、横になり魔力がたまるのを待つ。
魔力がたまったら、ビーナスポーションを作る。
その繰り返しで日が暮れてしまった。
「できたかしら」
きっと、締め切り間際の漫画家はこんな感じで缶詰にされるんだろう。
机の上に並んでいるビーナスポーション5本を見て、ロザリアはにっこりと笑う。
「よくできました。もらっていくわね」
「あの……さすがに1日5本はきついので、3本くらいに減らすというのはどうでしょう」
「冗談じゃないわ。ビーナスポーションを待っている顧客はたくさんいるのよ」
「えっと」
「本当は2倍に増産したいくらいよ」
「ごめんなさい。増産だけはご勘弁を」
そんなやりとりがあって。
ロザリアさんがなにやら、懐から取り出した。
3本の長細くて赤い果実だ。
「それは?」
「あなたのために持ってきたのよ。バハチの実」
バハチ? どうみてもバナナだな。
色は黄色じゃなくて赤いけど。
「バナナじゃないの?」
「バナナはこんな色じゃないわよ。黄色ね」
バナナはバナナで別にあるらしい。
「このバハチの実は精力アップの効果があると言われているのよ」
「あー、それで」
「これでもあなたの身体のことを考えているのよ」
本当か。
俺が過労で倒れてビーナスポーションが作れなくなることが怖いんじゃないかとか思えんが。
「まぁ、少しでも精力が付くなら食べておこうか」
「そうよ。また明日もってくるから、全部食べていいのよ」
「・・・」
「どうしたの?」
バハチをもらってから、俺は無言になった。
実は、バハチに触れた瞬間。
ポーションスクリーンが開いたのだ。
このバハチの実がポーションの素材になるらしい。
それも新しいポーションで名前が『マルスポーション』。
『マルスポーション』の効果はと。
「男性の逞しさを増進させるポーション。1瓶で1カ月効果が持続する」
おおー、ビーナスポーションの男性版みたいだ。
『マルスポーション』の四角枠は『ビーナスポーション』の隣だし。
やった。
このバハチで新しいポーションを作れるぞ。
「あ、今日は疲れたからバハチを食べて寝るぞ」
「そうね。また明日5本ね」
ロザリアは帰っていった。
しめしめ。
新しいポーションを作るなんて話をしたら、ビーナスポーションのノルマが確実に増える。
こっそり、作らないとな。
同じのをたくさん作るのはつまらないけど、新しいポーションとなったら別だ。
ちょっと休んで魔力がたまるのを待つ。
よし、そろそろ、大丈夫だろう。
いくぞっ。
『マルスポーション』
右手にはバハチの実と空き瓶。
掛け声とともに光りだした。
しばらくすると、左手にポーションができた。
「おおーっ、新しいポーションだ」
ポーションの色は、銀色。
ふつうの銀色というより、プラチナ色かな。
すごくキラキラしてきれい色だな。
で、これを飲むと逞しくなれる、か。
よし、飲んじゃえ。
おおー、筋肉が盛り上がったきた。
うわっ、腹筋割れた!
なんか活力がすごく上がった感じがするぞ。
もしかして、これって剣士が使ったらステータス爆上げとか?
やばい。
そんなポーションができてのがバレたら、これも沢山作らなくていけなくなりそう。
きっと高ランクの剣士に需要があるだろうから。
苦しい訓練しなくても、逞しくなれてしまうポーション。
このポーション、やばいかも。
☆ ☆ ☆
「あら、新作ができたの? 素材がバハチ? これ量産できるかしら」
「無理です!」
ロザリアさんにマルスポーションを見せたら案の定、量産依頼してきた。
即座に断りを入れたが。
「だけど、サンプルは欲しいわね。あと3本作ってくれるかしら、毎日」
「では、ビーナスは1日2本だな」
「あら、それは減らせないわ」
やっぱりな。
そうくると思った。
「1日で1本だけだ。それ以上は逆さにして振っても出ないぞ」
「やったわ。これでまた、商品がふえるわ」
ふう。
これくらいで収まってよかった。
と、言うのは。
マルスポーションの効果がポーションづくりにも影響を与えているのだ。
どうも、魔力が1.5倍くらいになったようだ。
今なら、追加で3本くらいは作れそうだ。
1本増やされたから、あと2本は追加で作れるくらい余裕がある。
「それとポーションの素材になりそうなものをたくさん持ってきてくれ」
「それいいわね。どんどん新しいポーションを作りましょう」
ここはロザリアと一致するとこだな。
同じポーションだけ作るのはつまらないが、
新しいポーションづくりは面白い。
ゲームでも、新しい素材を手に入れると寝ないで生産しまくってたなぁ。
その日は、ビーナス5本とマルス1本を作り上げてから、新しいポーションづくりをするためにいろんな素材を調べてみた。
ロザリアがもってきた素材は多種多様だった。
果物や野菜、穀物に木の実。手に入る種類を網羅しているんだろう。
それも、まだ青い果実や、熟れ切った果実のように、同じ種類でも成熟度によって別にしている。
さらに、葉っぱが100枚以上。たぶん、全部違う種類のようだ。
それらを竹のトレイにきれいに並べて持ってきてくれた。
「これは今日の分ですね。植物だけです」
「すごい数だな」
「新しいポーションを研究するのなら、このくらいは最低ですよ」
こういうことをさせると本当に優秀だな。
自分で探していたのでは1/10も集められないだろう。
「それでは私、仕事がありますから」
よしよし。
楽しい新作ポーションづくりの時間だ。