まおうとゆうしゃのうらおもて
太古の時代、邪神と呼ばれる存在は己が眷属を繁栄させるため、『魔王』と呼ばれる存在を生み出しました。
邪神の信託に従い『魔王』は数多くの魔物を生み出し、瞬く間に人間の国々を征服していきました。
人々は怯え、逃げ惑い、ただひたすらに女神様に祈りを捧げることしかできませんでした。
それを見かねた女神様は、人間の中からひとり、神の加護を授けることに決めたのです。
その者は仲間を集め、ともに成長し、あらゆる困難を乗り越え、ついには『魔王』を打ち滅ぼしました。
そう、『勇者』の誕生です。
人々は『勇者』を称え、王に祀り、そして世界には平和がまた訪れました。
しかし、その時はまだ『魔王』の魂が転生することを、誰も知りませんでした。
やがて時が経ち、『勇者』が年老いたころ、再び『魔王』は現れました。
いかに女神様の加護があれど、すでに年老いた『勇者』には『魔王』を滅ぼす力はありません。
故に『魔王』は『勇者』を簡単に殺害せしめ、再び人の世は混沌に包まれたのでした。
混乱の中、人々はまた女神様に祈り、助けを乞いました。
女神様もそれに応え、再び一人の人間に『勇者』の加護を授けたのです。
そして『勇者』は『魔王』を打ち滅ぼしました。
しかし、邪神の加護を持つ『魔王』の魂は不滅です。
今の『勇者』が年衰え、衰弱し亡くなった時、三度『魔王』は復活しました。
女神様もまた、三人目の『勇者』を選び、それに対抗しました。
やはり三人目の『勇者』も『魔王』を打ち滅ぼすことでしょう。
『魔王』が現れ、その度に『勇者』が生まれ、そして『魔王』は倒され、また復活する。
それ以降も『魔王』と『勇者』の戦いは終わることなく、数百年もの長い間続けられていきました。
ある時、女神様はふとした考えに行きつきました。
『魔王』が現れるその都度、短命な人間に『勇者』の加護を与えるのではなく、寿命が限りなく永遠に近いアールヴに加護を与えてみるのはどうかと。
不老の者が、永遠に成長し続けられるのであれば、この戦いに終止符が打てるはずだと気が付いたのです。
そしてまたもや『魔王』が復活したとき、女神は一人のアールヴに『勇者』の加護を与えました。
アールヴの『勇者』は今までの勇者に比べ、ずっとひ弱でした。
種族が違うためか、最初は加護の恩恵が小さかったのです。
それ故、途中何度も何度も死にかけましたが、多くの仲間に導かれ、辛くも『魔王』の討伐には成功しました。
そして数十年の時が経ち、また『魔王』が現れます。
周りの仲間たちが年老いていく中、ただ一人アールヴの『勇者』だけがひたすら研鑽を重ねて成長していました。
当初ひ弱だった『勇者』も、数十年を経た今、かつての『勇者』達を超えた力を得ていたのです。
アールヴの『勇者』は、二度目の『魔王』を余裕をもって打ち倒すことができました。
女神様の思惑は見事に当たったのです。
もう、三度目の『魔王』は敵ではないでしょう。
それから何度目かの討伐の後、アールヴの『勇者』はあることに気が付きました。
『魔王』は現れた瞬間から『魔王』としての強さを持っているのではなく、『勇者』と同じく成長を経てから『魔王』として名乗りを上げることを。
つまり、『魔王』が『魔王』として成長しきる前に倒すことができれば、もっと楽に勝てるのではないのかと。
アールヴの『勇者』は、まだ若い『魔王』を探して世界中を旅して周ることにしました。
しかし、『魔王』はどこで生まれ、どこで育つのかも分かりません。
それ故、アールヴの『勇者』は世界中を数十年かけて探す羽目になりました。
当てのない旅路は、さぞかし困難を極めたことでしょう。
ですが、その努力は実ります。
長い旅路の果てに、ついに若い『魔王』を見つけ出したのです。
しかし幾ら若い『魔王』と言っても、捜索からすでに数十年経っています。
その個体は、『魔王』としての力をほぼ備えていました。
アールヴの『勇者』の企みは、半分失敗していたのです。
ですが、アールヴの『勇者』はあきらめません。
次こそはもっと早く見つけてやる。
血まみれで横たわる若い『魔王』を見ながら決意を新たにします。
そうしてアールヴの『勇者』は、また旅立ちました。
次の旅では早く、その次の旅ではより早く、その次の次ではもっと早く見つけられるようになりました。
その度に、どんどん若い『魔王』にたどり着きます。
ついには、年端もいかない幼い『魔王』にまでなりました。
ですが、『勇者』には関係ありません。
相手が『魔王』である限り、ことごとく打ち滅ぼさねばならないのです。
それが例え、生まれたばかりの赤子の『魔王』であっても。
それが例え、赤子の『魔王』を孕む母親ごとであっても。
そんなことを続けているうちに、アールヴの『勇者』はついに『魔王』の魂そのものにたどり着りつきます。
不滅とされていた『魔王』の魂を滅することができれば、長きにわたったこの戦いも終りを迎えることができるでしょう。
アールヴの『勇者』は迷うことなく剣を振るい、そして『魔王』はついに滅んだのです。
『魔王』が滅びると、今度は邪神までもが滅びました。
『魔王』の魂は邪神と繋がっていたのです。それは、最初からありったけの加護を『魔王』に与えるためでした。
それ故、半身を失った邪神は形を保てず、たちまちのうちに消滅してしまいました。
女神様は、たいそう喜ばれました。
自分の考えは間違っていなかったと、そしてようやく邪神との争いに勝利したのだと。
しかし、その喜びは束の間、一瞬のうちに消え去ることになります。
ふと見れば、アールヴの『勇者』がみるみる枯れ落ちていくではありませんか。
『勇者』の加護が不要となった途端、その加護は行き場を失い、アールヴの『勇者』を一気に蝕んだのです。
【神から与えられたものは、神に返さなければならない】
女神様は、喜びのあまり、そんな基本的なことすら忘れていたのです。
かつて、人間の『勇者』達に与えられた加護は、その死後回収されるものでした。
ですが、アールヴの『勇者』は、アールヴであるが故に永遠の寿命を持っています。
しかし『魔王』という存在が完全に消滅した今、もはや『勇者』の加護を使うことはありません。
役目を失った加護が、回収という機能を暴走させた結果、無理矢理アールヴの『勇者』を滅ぼしたのです。
それだけではありません。
『勇者』の加護を得てからすでに数百年、長命であるがゆえに、長きにわたり人の世に関わってきたアールヴの『勇者』は、数多くの子をなしていました。
それこそ、今の世の人間の大半が彼の子孫といっても過言ではありません。
親から子へ、子から孫へ、血の繋がりとともに魂の繋がりもまた受け継がれていきます。
そうです、『勇者』の加護は魂の繋がりを経て逆流し、彼の子孫に襲い掛かったのです。
疫病とも呪いとも違うそれは、血の濃い薄いにかかわらず、ことごとく彼の子孫の命を奪っていきました。
そうして死んでいった人々は、多くが女神さまを信仰する者たちでした。
女神様にとって、人々の信仰とは日々の糧、それすなわち己が力の源なのです。
女神様はたいそう焦りましたが、もはやどうすることもできません。
信仰する人々を一気に失った今、女神様は奇跡を起こすほどの力は残されていませんでした。
滅びゆく世界を愕然と眺めながら、女神さまは思いました。
何が間違っていたのか、と。
邪神と争ってしまったことでしょうか?
それとも『魔王』を滅ぼす『勇者』を作ってしまったことでしょうか?
はたまた、アールヴを『勇者』にしてしまったことでしょうか?
そして、女神様は気付きます。
邪神と女神様、そして『魔王』と『勇者』の関係性はとどのつまり、
光と闇、月と太陽、コインの裏表でしかなく、どちらが片方が滅べばともに滅びるしかないのだと。
そう、女神様の半身は邪神だったのです。『勇者』の半身が『魔王』であるのと同じく。
失ってから初めて気が付いた事実に、女神様は大いに嘆き悲しみ、七日七晩泣きはらしました。
そしてようやく涙が枯れ果てたのちに、女神様はある決断をします。
自らの滅びと引き換えに、最後の力を振り絞り、御身を二つに分かつことを。
その後、女神様から生れ出た二柱の神様は、それぞれ善神、悪神と名乗りました。
二柱の神様は、生まれた時からとても仲が悪く、互いを疎ましく思い、常に争うことを忘れませんでした。
ある時悪神は、滅びかけの世界を見て善神にこう問いかけました。
この世界の覇権をかけて争わないかと。
善神はこの提案を受け、また悪神に問い返しました。
ならば、我らが半身を写したものを駒とし、争い合おうではないかと。
そして、どちらがより世界を豊かにするかの勝負と銘打ち、二柱の神様は相対する存在を作り出しました。
そう、それは『魔王』と『勇者』でした。
こうして世界は再び、『魔王』と『勇者』によって廻っていくことになりました。
二人は、世界をめぐり幾度となく激しい戦いを繰り返し、また生まれ変わります。
ですが二人は決して、互いを滅ぼし尽くす戦いはしませんでした。
相対するものの戦いはやがて循環を呼び、世界は新たに塗り替えられていきました。
『魔王』の国と『勇者』の国が生まれたのです。
二つに分かたれた世界はそれぞれ別の信仰を産み、二柱の神様はかつての女神様以上に信仰を集めることができるようになりました。
それでも、この世界の戦いは永遠に終わることはないでしょう。
ですがもう二度と、この世界が滅ぶようなこともないのです。
うん、まぁ、どこにでも転がっているお話です。自分が忘れていたり知らなかったりするだけで、似通ったお話もありそうで怖いです。
その時はパクリスペクトということで。
『魔王』と『勇者』が題材ですが、【勧善懲悪】というよりかは【二元論】に根差す問題です。
別に【必要悪】を認めているわけじゃないですよ?
ただの習作なんでね、許してください。
なろう小説的には、クッソ気に入らないクラスメイトと二人で一緒に死んで、
最高神にこっちの世界で神様やってくれないかと頼まれて、神様に転生した後も対立を交えて物語が進んでいくといった感じに
アレンジするべきなんだろうな~とは、思ったり思わなかったり。
あとはそうですね・・・、この物語の【世界】を【なろう小説】に置き換えてみたり。
女神が書き手なら邪神は読み手?まあ、逆でもいいのですが。
読み手がいなければ、書き手は生きてはいけませんし、書き手がいなければそもそも読み手も存在しません。
今後も、読み手と書き手の衝突はあるでしょうし、その都度新たな『魔王』と『勇者』の物語が紡がれていくでしょう。
えぇっと、なんだぁ、つまり、なろう小説は永遠に不滅です!(錯乱