表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/31

幕間その一 彼は踏み台転生者(父・弟)

 これで序章(プロローグ)は終わり。次回から第一章に入ります。


 今回は幕間ということで、父グランと弟アレンから見たアランの姿です。


 グラン・フォン・フラムスはフラムス家の当主である。

 そんな四大貴族が一つ『フラムス家』を束ねるグランには悩みがあった。それは自分の子供達の事である。



 グランには三人の子供がいる。長男・長女・次男の内、悩みの種となっているのは『忌み子』である次男アレン・フォン・フラムス…………ではなく、『英雄』である長男のアランであった。



 アラン・フォン・フラムスは並び立つ者など他に居ない程の天才だ。

 それは疑う余地もない事実だろう。誰もが彼を認めるが故に、彼は英雄と呼ばれている。


 無論、グランから見てもアランは特別な存在だった。

 アランの天稟は常軌を逸した正しく英雄たるものであり、既にこの王国中の人々が彼を崇め奉っていると言っても決して過言ではない。何せ、彼は人類史上最高の英雄であり、人々に希望の光をもたらす勇者になる存在なのだから。


 当然、グランとしても我が息子がそれ程の傑物であるということを大変誇りに思っており、感謝すらしていた。自慢の息子である。

 元々強大な権力を持つ『フラムス家』であるが、アランのような傑物が生まれてきてくれた以上これまでとは比べ物にならない程の力を手に入れられるだろう。それこそ、王族や他の四大貴族であろうともひれ伏さざるを得ない程の絶対的な力を。


 アラン・フォン・フラムスの影響力というものは計り知れない。

 彼には一騎当千など生温いと言える程の武力がある。ありとあらゆる分野に精通する知力がある。そして何より、人々からの圧倒的な支持がある。


 正直な話、彼一人居ればフラムス家の将来は安泰と言えるだろう。彼がフラムス家の人間である以上、成功は約束されているのである。


 だからこそフラムス家の現当主であるグランは諸手を挙げて喜んだし、今では『忌み子』を差し置いて一番の()()()()となっている。


 そう、グランの悩みとはアランの力が()()()()()という事だ。


 確かに、アランが居ればフラムス家の将来は間違いなく成功するだろう。フラムス家の繁栄は約束されている。だが、『フラムス家』ではなく()()()()()()()()()どうだろうか。

 勿論グランもその恩恵は十分受けられるだろう。しかし、近い将来には間違いなくアランがグランに変わって『フラムス家』を引き継ぐのだ。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。


 つまりグランは、将来的に自分という存在が必要とされなくなる事を恐れていた。


 アランが幼い今はまだいい。だが、アランが成人した頃にはもう既にグランなど居なくても問題がなくなる。むしろ、自分の代よりもアランの代の方がフラムス家は発展していくに違いない。

 それが自己顕示欲の高いグランには耐えられなかった。



 勿論グランとて最初はアランを利用し自分の力を増そうと考えたし、行動にも起こした――――否、起こそうとした。

 だが、しかし。グランが利用しようとしているのはただの子供ではない。人並外れた才覚を誇る稀代の傑物なのだ。

 アランはまるでグランの思考を全て読んでいるかのように、グランが行動を起こす前に全ての策を叩き潰してみせ、釘を刺してきたのだ。

 いや、実際にアランにとって自分の考えなど簡単に見通していたのだろう。全てがアランの手のひらの上。そんな確信がグランにはあった。


 直接グランを潰すのではなく釘を刺して見逃したというのはまだグランに利用価値があると判断しているからなのか、もしくは親へ情けを掛けたのか。


 そこまで考えて――――グランは息子の考えを理解するのを諦めた。そして、最終的にグランの胸中に残った感情は恐れと畏れであった。



 アラン・フォン・フラムスはグラン・フォン・フラムスでは決して勝てない存在である。



 それを理解したグランは思わず身震いした。



 果たしてそれは、将来自分が必要とされなくなる事への恐怖からか。

 それとも、この英雄に秘められた底知れぬ可能性への歓喜からか。



 あるいは、その両方なのかもしれない。





 * * *





 アラン・フォン・フラムスは並び立つ者など他に居ない程の天才だ。

 彼はありとあらゆる分野において人並外れた才覚を持っている。



 例えば、魔法。

 基本的には一人に一属性、もしも二属性を扱える者が居たのならばその者はエリートとして一生安泰と呼ばれるようなこの世の中で、彼は当たり前のように()()()の魔法を扱えた。

 火・水・風・土の基本の四属性だけではない。驚くべきことに、王族や魔族にしか使えないはずの光・闇の属性魔法までをも彼は完全に使いこなしてみせたのだ。

 しかもその上でどの属性もこの上なく極めており、例え一属性を生涯磨いた大魔法使いのようなスペシャリストであろうが、彼の扱う魔法の足元にも及ばない。

 彼のオリジナル魔法や魔法理論などは多々あるし、その全てが公開されてもいるのだが……それを扱える者など誰一人居ないというのが現状である。



 例えば、武術。

 天性のものとしか言い表せないような身体能力。筋力も瞬発力も俊敏性も持久力も、動体視力や反射神経にその他諸々必要なもの全てが正しく桁外れ。常識では測れぬ規格外。

 しかも、それだけで留まるような才能ではない。模擬の木剣を初めて握った日には教官を倒していたのだ。

 その教官も凡百の剣士ではないのだ。フラムス家の専属の剣士であり、この国でも有数の使い手である。だというのに当時三歳の彼は初めて模擬戦にも関わらずさも当然のようにそれをねじ伏せてみせた。

 そしてそれは剣術だけに収まらず、槍術でも棒術でも無手でもその他のどれであっても同じことであった。



 例えば、学問。

 これについては最早語ることすら難しい。何故なら彼は既に殆どの分野に置いて追随する者も居ない程の功績を残しているからだ。

 新説を次々に発表していく様は、最早神童という言葉だけでは言い表せない程のものである。

 彼が生まれてからあらゆる分野が著しい発展を遂げた。彼よりも頭の良い人間など、初めから誰一人として居なかったのだ。



 アラン・フォン・フラムスは並び立つ者など居ない程の天才だ。

 これは周知の事実である。


 そしてその評価は血の繋がった腹違いの弟、アレン・フォン・フラムスにとっても変わらぬ事実である。





「やっぱり、兄さんは凄い……」





 アレンにとって、アランとは憧れの存在であった。


 アレンは兄とは違い、何の才能もなかった。

 武術はどれも弱いし、頭だって良くない。魔法に関しては使うことさえ出来ない。見た目だって、暗闇でも輝く黄金の髪に紅く煌めく瞳を持つ容姿端麗な兄とは似ても似つかぬ、薄汚れたような曇った灰色の髪と瞳になよなよしい女のような顔つき。


 愛人の息子であるという生まれも相まって、アレンの立場はとても弱く、周囲の全ての人々から酷く冷遇されていた。

 実の家族からでさえ、ゴミのように扱われる。そんな日々は確実に幼いアレンの神経を削り取っていき、とてつもない程辛く苦しい毎日だった。


 人気のない場所で泣きじゃくる日々。そんなアレンにとっての唯一の心の支えこそが、兄だったのだ。





「アレン、こんな所でどうしたんだ」

「兄、さん……」

「……また泣いているのか」

「ごめんなさい……っ」

「いや、責めている訳じゃない。辛い時に涙が出るのは当たり前のことだろう」

「ぼくは……っ、ぼくは、兄さんみたいに、つよく、なれないんです……っ」



 まだ幼いアレンの悩み。それはアレンに無いものを全て持っている兄へのコンプレックス。こんな事を言っても仕方が無いのは分かっていたが、それでも漏れ出た本音。

 そもそも本来兄は『忌み子』であるアレンなんかが話しかけていいような存在ではない。だが――――



「アレン、お前は俺のようにならなくてもいいんだ」

「だって! だって、兄さんみたいにすごいひとにならないと、ぼくはだれにもひつようだっておもわれないから……」

「それは違うぞ」



 それでも、兄はいつだってアレンを受け止めてくれた。真摯に向き合ってくれた。



「いいか、アレン。お前は強い男だ。俺よりも、誰よりも強い、俺の自慢の弟だ」



 そんな筈がない。そう言おうと顔を上げると、兄の真っ直ぐな双眸がアレンの目を射抜いていた。吸い込まれるような、燃え盛るような、そんな紅瞳と視線が絡まり離れない。思わず喉まで出かかった否定の言葉を飲む。



「お前は俺にとって絶対に必要な人間だ。俺だけじゃない、世界だってお前を必要としている。もしも今の境遇でアレンが自分自身を信じられなくなっているのならば、俺の言葉を信じろ」



 誰もがアレンの事を『忌み子』として扱う中、唯一アレンの事を『アレン』と呼んでくれる。家族と、呼んでくれる。英雄()は何も無いアレンに生きる希望を与えてくれる。



「お前は誰がなんと言おうと英雄になる偉大な男だ」



 なんせ、俺の自慢の弟だからな。そう言って微笑む兄にアレンは流れる涙を止めることが出来なかった。



「おいおい、男がいつまでもめそめそと泣くんじゃない」



 困ったようにアレンの灰色の髪を少し乱暴に、それでも確かに愛情を感じるように撫で付ける兄に対して、さっきまでとは全く別の感情から溢れる涙を拭いながらアレンは言うのだ。



「ありがとうございます、兄さんっ!」



 普通の兄弟とはとても呼べない二人だが、兄も弟も幸せそうに笑っていた。

 きっとそこには、お互いを想い合う深い家族愛があったに違いない。





 アレン・フォン・フラムスにとってアラン・フォン・フラムスは憧れの存在である。

 アレンは兄が持っているものを何も持っていないが、兄はそんなアレンを自慢の弟だと言ってくれた。

 アレンに生きる希望をくれた兄は、正しく自分を絶望から救ってくれる勇者であり英雄だ。



 誰もが認める勇者の自慢の弟は、今日も生きる。

 いつの日か、憧れの兄と並び立つ日を夢見て。

 ※我らが踏み台転生者ことアランを含め、この小説の登場人物の主観には多々勘違いが含まれております。



 ・登場人物からみたアラン像


 父→最早天才というより天災。怖い。この前アランを利用しようと入念に計画を立てたけど気付いたら何故か計画が始まる前に全て頓挫してた。こんな幼い子供がいとも容易く自分の計画を叩き潰したのを見て、コイツ本当に人間か? って思った。というか、神かそれに近い存在くらいに思っている。故に無意識的にアランを絶対視している。隠れ信者。


 弟→自分に無いものを全て持っている兄がおかしいのではなく、兄が持っているものを何一つ持っていない自分がおかしいのだと思っている。実際はどちらも普通ではないのだが……。

 コンプレックスはあるし自分の才能の無さを恨んだ事も良くあるが、才能溢れる兄を恨んだ事など一度も無い。兄を絶対視している。

 兄さんは常に正しい。いつだって助けてくれる兄に対してはとても感謝してる。兄さん大好き。ブラコン。同性愛者ではない。

 決して同棲愛者ではないんだけど兄さんにキスしろって言われたら普通に出来るし、多分ちょっと喜ぶんじゃないかな。才能の片鱗はありそう。かなりブラコン。



 アラン→所詮自分など物語が始まればただの噛ませ犬。自分がちやほやされて調子に乗れるのは今の内だけ。今となってはもう将来への不安は一切ない。一流の踏み台になる為に日々自分磨き。しょうじきちょっとあたまがおかしいんじゃないかな。



 ちなみに、無自覚隠れ信者の父親はアランの手のひらの上とか釘を刺されたとか言ってますがアランには一切心当たりがありません。どういう事でしょうか。

 誰も悪くないんです。強いて言うならタイミングとかが悪かったんですよ、きっと。


 読了誠にありがとうございます。次回も是非とも宜しくお願い致します。



 ・蛇足

 作者(清水彩葉)から見たアラン像→実力は本物だし悪いやつじゃないし決意はもう揺らがないけど根本的な中身はポンコツ。この物語の主人公は普通にお前だから、って言いたくなる。

 そして兄弟での禁断の関係展開だけは絶対にないから安心してください。兄弟は二人ともちゃんと普通に女の子が好きです。


               清水彩葉

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宜しければワンクリックお願い致します!→小説家になろう 勝手にランキング ↓こちらの方もよろしくお願い致します!→cont_access.php?citi_cont_id=879252013&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ