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幕間その四 彼は踏み台転生者(弟視点)


 『悪夢の迷い森』から帰ってきた僕の元に一通の手紙が届いた。

 差出人は魔王。宛先はアランさんへだった。


 驚きはさほど無い。魔王側としても圧倒的な力を見せてミリヤを撃退したアランさんを無視出来なくなったのだろう。直ぐにでも動くだろうと予想はしていた。

 それに、あの人ならば例え何があっても大丈夫だろう。


 故に、僕は今アランさんと相対していた。彼にこの手紙を届ける為に。

 こちらから声を掛けるよりも早く、アランさんが僕の事に気付いたのには流石に驚いたが。


 ずっと一緒に行動してきたテーネも大概底知れない人物だったが、この人の場合は彼女と比べても更に底知れない。恐ろしい程までの実力の高さ。()()()()()()()()。やはりこの人はあの頃から変わっていない――――否、あの頃よりも更に洗練されたのだろう。


 そんな事を考えていると、彼に僕にも魔王の元へとついてくるといいと言われた。

 僕になら任せられるのだ、と。僕の胸中は彼に必要とされている事に対する喜びで満たされる。当然だ、僕はずっと彼に必要とされる事を望んでいたのだから。

 だけど、駄目だ。僕がついていけば、彼の足を引っ張る結果になってしまう。



「しかしっ、僕は先の件でもミリヤに無様に敗北して……! 僕が行けば、貴方の足を引っ張る事になってしまう……!」

「心配する事はないさ」

「何を…………?」



 それでも彼はまるで当たり前のように言うのだ。





「お前の事は信用も信頼もしている。もし、どうしてもお前が自分自身を信じられないのであれば、お前を信じる俺を信じるといい」

「っ…………!?」

「これでも俺は人を見る目はある方だと自負している。だから、安心してくれていいぞ?」





 昔にも、似たような事を言われた事を覚えている。

 忘れる筈が無い、忘れられる訳が無い。だってそれは、何も無い僕に生きる意味を与えてくれた言葉だったから。





 ――――――アレンが自分自身を信じられなくなっているのならば、俺の言葉を信じろ。





 あの時の言葉と目の前のアランさんの姿が重なる。

 だからだろうか。彼の言葉につい頷いてしまったのは。





 * * *





 アランさんと二人で魔国『ノックス』へと到着した僕達は潜伏魔法(ハイド・マジック)で気配を消しつつ、魔王の待つ魔王城を目指して歩いていた。遠く離れた魔国まで正確に転移してみせた彼に驚きもあったが、同時にこの人ならばおかしい事でもないと納得もした。


 彼とこうして歩く事なんていつぶりだろうか。決して多かった訳では無いが、昔、誰からも要らない者扱いされていた『忌み子』である僕を連れ出しては外の世界を教えてくれたのもこの人だった。


 と、僕が過去の大切な思い出を思い返していたのも一瞬だけ。魔王城へと辿り着くまでに彼と話していた内容は驚きの連続だった。



 人類の希望として人々を救う彼が魔族の人々まで救いたいと言っていた事。

 彼はただの綺麗事だと言っていたが、敵対関係にある人類とは別の種族の幸せを本気で願える人間がこの世に何人居るのだろう。ましてや彼は今日の昼に魔族、それも魔王の右腕である少女に襲われたばかりだというのに。


 そしてその夢物語を叶えるのに相応しいのはアランさんではなく僕なんだと、彼はそう言った。


 この人から頼られる。僕はそれを昔からずっと夢見ていた筈なのに、実際に言われてみれば信じられない程に重たい。

 僕には彼のような才能は無い。無属性魔法という特別な魔法は使えるが、その程度の事がこの人に出来ないとも思わない。幼い頃から六つの属性魔法を全て使いこなす彼ならばきっと無属性魔法も僕より余程使いこなせるに違いない。


 それに何よりも、僕は彼が言うような英雄の器なんかでは決してないのだ。

 才能が無いというのも勿論そうなのだが、それ以前に人間としての懐の深さが全然違う。


 僕に魔族を心の底から救いたいと、幸せになって欲しいと思う事は出来るか? 答えは「絶対に無理」だ。実行が可能かどうかの話では無い。それ以前の問題なのだ。


 アラン・フォン・フラムスが『英雄』たる所以はその有り余る才覚では無い。勿論それもあるのだが、一番は彼のその優しさであり、心の広さだ。

 彼は昔から人間離れした天才だったが、その上で人間性までも常人よりも遥かに備わっていた。だからこそ人々は人間離れした彼に怯える事無く、彼を『英雄』と呼ぶのだ。



 だから僕は『英雄』になんて相応しくない。折角彼から頼りにされているのに、その重みで潰れてしまいそうになるのだ。



 だというのに。それでも彼は、彼だけは僕の事を認めてくれる。その底無しに深い懐でありのままの僕を受け入れてくれる。


 昼にミリヤに手も足も出ずに完敗したばかりだというのに、ミリヤの相手を僕に任せてくれると。彼はもう一度僕にチャンスをくれたのだ。

 色々な理由をつけて僕にミリヤの相手を任せてくれた彼だが、きっとそれは建前だ。だって、彼ならばそのくらいどうとでもなるのだから。

 だから、不甲斐なく敗北した僕に挽回の余地を与える為、それだけの為に僕をこの国まで一緒に連れてきたのだろう。本当に優しい人だ。


 もしもまた敗けたら。女々しくそう食い下がる僕に対し、彼はその心配はしていないと言う。僕なら大丈夫だと言ってくれる。


 何を無責任な事を、とは思わない。だって彼が言う事が間違っていた事など一度も無いのだから。

 彼が大丈夫と言うなら、僕は大丈夫だ。自分の事はまだ信じられないけれど、彼の事は信じている。


 覚悟を決めて頷く僕を見た彼は少し驚いたような、そして昔僕を認めてくれた時のような優しい笑みを浮かべてくれた事がやけに印象に残っていた。





 * * *





 アランさんの言う通り魔王城に踏み込むと僕の潜伏魔法(ハイド・マジック)は看破され、城内の兵士達が集まってきた。

 兵士達を殺してしまわないように薙ぎ払うアランさんに倣い、僕も加減をしながら兵士達を蹴散らし奥へと進む。


 そして、遂に彼女がやって来た。ミリヤだ。

 多くの兵士達を率いる彼女は、まるで僕など全く眼中に無いかのようにアランさんへと話し掛ける。いや、実際に僕は眼中に無いのだよう。昼に彼女に手も足も出ずに敗北したばかりなのは事実なのだから。



「済まないが、俺はお前達の主『魔王セラフィーナ』に呼ばれているのでな。故に、ミリヤ。お前達の相手は――」

「君達の相手は僕だ」



 僕はアランさんの言葉を遮り、自ら名乗り出る。

 もうそこに迷い等は無い。あるのは目の前の彼女を倒すという覚悟だけだ。



「ん? 確かお主は…………あぁ。あの森で我の前に立ち塞がってきた身の程知らずの雑魚ではないか」

「…………確かに僕は、アランさんと比べれば雑魚――――いや、それ以下かもしれない。だけど、この前の様に行くとは思わない方がいい」

「ふん。お主は確かに珍妙な魔法を使うようだが…………それだけだ。アラン様、正気か? あまり我を、魔王軍幹部のミリヤを舐めるでないぞ」



 それでも尚僕を見下しているミリヤ。だけど――――





「あまりグレン君を侮らない方がいい。グレン君は――――強いぞ?」





 ――――彼がそう言ってくれたから。



「むっ……。さてはアラン様は我の実力を疑っておるな? ならば、さっさとこやつを倒して我の――――っ」



 まだ何かを話していたミリヤに向けて思いっきり魔法をぶつけてやる。

 砂埃が激しく舞い、その姿が見えなくなる。が、この程度で倒せたとは思っていない。実際、砂埃の中から彼女の闘気が痛いくらいに噴き出ている。

 確かに彼女は強い。僕では手も足も出なかったのだから。でも、もう敗けるつもりなど一切無かった。

 彼がそこまで言ってくれたんだ。後は僕が行動で示すのみ。





「無駄話は好きじゃない。僕はアランさんみたいに優しくはないからな」

「度胸だけは一人前のつもりか? お前のそれは称えられるべき勇気ではない、愚かな蛮勇と呼ぶべきものだ」





 砂埃が収まり、互いを視認出来るようになった。一触即発、今にも戦闘が開始されそうな空気が辺りに漂う。

 そんな中闘気をぶつけ合いながらミリヤと睨み合う僕に、彼は言うのだ。





「この場は任せたぞ、グレン君」

「っ! はいっ!」





 最早、彼に頼られる事への重圧は感じなかった。

 ただ純粋に、心の奥底から力が湧いてくる感覚。



 ――――――負ける気がしないッ!


 これにて、第一章部分は終了です。書ききれずに説明不足になってしまった部分や逆に冗長になってしまった部分等まだまだ至らぬ点の多々あるこの作品ですが、本当に沢山の方々がここまで読んで下さり嬉しいです。皆様ありがとうございます!


 これまでの反省点を活かし、今後も精一杯執筆していこうと思いますのでどうかお付き合い下さいませ。

 ブックマークや感想、評価やレビュー等々も勿論お待ちしておりますよ。


               清水彩葉

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