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魔王城、そして

 ここ最近ずっと執筆時間が全然取れていない日が続いており一話一話のクオリティが落ちてしまっているように感じるので、もしかしたら近々改稿するかもしれません。


 魔王城。それにみんなはどんなイメージを抱くだろうか。俺も前世ではそれなりにゲームや漫画、アニメ等を楽しんできた。

 魔王城というものは色々な作品内で見かけるものであり、故にそれぞれに思い浮かべる別のイメージがあるだろうが、どれもがその名の通りにただ魔王が住んでいるだけの普通の城では無いということだけは確かだ。

 もしかしたら中には魔王城を一目見てみたいという人も居るかもしれないし、実際に今魔王城を目の当たりにしている俺がどんな物か教えてしんぜようではないか。



 まず、超デカい。めちゃくちゃデカい。正直ちょっと引くくらいデカい。普通にクリスティーナ達が住んでいる王国の城と比較しても二回りくらいデカい。

 その大きさたるや、前世の建物では物理的に建てられないのであろうなと確信するほどである。そのくらい規格外……というか最早これちょっとした山くらいの大きさである。こんなにデカく作っても逆に暮らしにくそうだ。


 そして何より、禍々しい。めちゃくちゃ禍々しい。正直ちょっと引くくらい禍々しい。なんか黒々としたオーラのようなものが出ているし、上空の雲は紅黒く魔王城を中心にするかのように渦巻いている。なんかこうして近寄るだけでも身体に悪そうである。


 …………ぶっちゃけ入りたくない。べ、別にビビってる訳じゃねぇし! 俺は一流の踏み台転生者を目指す者、こんなチンケな城なんて怖くも何とも…………入りたくないなぁ。

 しかし、魔王から名指しで呼び出された以上は無視し続けるわけにもいかない。それで俺の周りの人間や何の罪もない人々が傷付きでもしたら一生後悔する。故に、俺が魔王と一対一で戦わなければならないのは確定事項なのだが…………。


 そもそもどうしても俺が魔王と戦わなければいけないのだろうか。負けるつもりは毛頭無いが、こういうのは踏み台転生者じゃなくて主人公の仕事なのでは…………? ちらりとグレン君の方を見ると丁度向こうもこちらを見ていたのかバッチリ目が合った。そして、些か緊張気味に言葉を紡ぐ。



「…………アランさん、ここまで来てもまだ気付かれている様子はありません。やはりこのまま潜伏魔法(ハイド・マジック)を使用しながら侵入すれば安全に魔王の元へと辿り着けるのでは?」

「いや、良く見てみるといい。城から黒い瘴気の様なオーラが立ち上っているだろう?」

「は、はい。しかし、あれは……?」

「あれは闇属性の探知魔法(サーチ・マジック)系統の物だ。見たところかなり高度な魔法のようだな。一歩でも門の中に踏み込めば俺達の潜伏魔法も見抜かれてしまうだろう」

「僕の潜伏魔法を見破る程の魔法……今代の魔王が優秀だというのは疑いようのない真実のようですね」



 グレン君がゴクリと唾を飲み込む音がハッキリと聞こえる。しかし、ここまで来たのだからもう覚悟を決めるしかあるまい。

 俺は先程まで全力でビビっていた自分を棚に上げて緊張しているグレン君を安心させるように言葉を紡ぐ。あ、いや、俺本当は全然ビビってなんかなかったけどね!



「ああ、お前が恐れる気持ちも分かる。しかし――――」

「いえ、恐れてはいません。先程までは貴方の足を引っ張ってしまうのではないかと臆していましたが、貴方の人を見抜く瞳は信用していますから。貴方が大丈夫だと言うのであれば僕は大丈夫です」





 それに、と続けるグレン君はこちらを真っ直ぐで強い光を宿した瞳で見つめ返しきた。





「他でもない貴方が負ける訳がありませんから!」





 その表情には、言葉には、瞳には。確かに俺への強い信用と信頼が伺えて。


 物語の主人公が踏み台転生者に――――否、誰よりも苦しい思いをしてきた強い弟がお前を救ってやれなかった無力な兄に対してまだそんな風に思ってくれていたということが嬉しくて。


 今なら魔王だろうが、例え誰が相手だろうが負ける気がしなかった。


 気付けば先程までの城へ入ることへの躊躇は完全に無くなっていた。





 * * *





「侵入者め! このっ――――ぐっ!?」

「おい! そいつらを止めろ! それ以上進ませ――――がっ!?」

「だっ、誰かっ! 誰か増援をっ! こいつら強過ぎる――――ごっ!?」



 グレン君と二人、正面から堂々と侵入した俺達は次々と群がってくる兵士達を殺さない程度に薙ぎ払いながら魔王の元へと突き進んでいた。

 そして、粗方の兵士を戦闘不能に陥らせいよいよ城内に入ろうとした瞬間に横合いから闇の魔力弾が飛んできたので叩き落とす。

 魔力弾が飛んできた方向へと目を向けると、そこには――――



「ふむ。我が鍛えた兵士達をものともせぬ骨のある侵入者が現れたかと思ったら…………そこに居られるのはアラン様ではありませんか!」



 ――――黒髪黒瞳の幼気な少女、多くの兵士達を引き連れたミリヤが紅潮して蕩けた表情でこちらを見ていた。

 だが、それも一瞬。ミリヤはどうしようもないドMの変態だが魔王の右腕なのである。魔王城への侵入者である俺達に対して直ぐに強烈な敵意をぶつけてくる。



「いや、この場ではいくらアラン様と言えど見逃しはせぬ。…………だ、だからご主人様に逆らうダメなペットである我の事は後できっちりと躾てくれ!」



 魔王の右腕は随分と自身の欲望に弱いらしい。

 しかし、その敵意は本物だ。その言葉の通り、俺だからといって見逃すつもりはないようだ。率いられている兵士達も統率の取れた動きで臨戦態勢に移り、ミリヤの号令が掛かり次第侵入者を排除せんと動くだろう。

 しかし、彼女等の相手は俺ではない。



「済まないが、俺はお前達の主『魔王セラフィーナ』に呼ばれているのでな。故に、ミリヤ。お前達の相手は――」

「君達の相手は僕だ」



 俺の言葉を遮り、隣のグレン君が一歩前へ出る。その足取りに迷いや怯えはなく、力強いものだった。



「ん? 確かお主は…………あぁ。あの森で我の前に立ち塞がってきた身の程知らずの雑魚ではないか」

「…………確かに僕は、アランさんと比べれば雑魚――――いや、それ以下かもしれない。だけど、この前の様に行くとは思わない方がいい」

「ふん。お主は確かに珍妙な魔法を使うようだが…………それだけだ。アラン様、正気か? あまり我を、魔王軍幹部のミリヤを舐めるでないぞ」



 ミリヤはグレン君の事を見ることすらせずに俺に話しかけてくる。が、それは違うな。



「あまりグレン君を侮らない方がいい。グレン君は――――強いぞ?」

「むっ……。さてはアラン様は我の実力を疑っておるな? ならば、さっさとこやつを倒して我の――――っ」



 ミリヤが視線を俺からグレン君へと移した瞬間、グレン君は何の属性でもない魔力の奔流を隙だらけのミリヤへとぶつけた。砂が舞い視界が悪くなる中で、二人の闘気が急激に膨れ上がる。



「無駄話は好きじゃない。僕はアランさんみたいに優しくはないからな」

「度胸だけは一人前のつもりか? お前のそれは称えられるべき勇気ではない、愚かな蛮勇と呼ぶべきものだ」



 まさに状況は一触即発。この場はグレン君を信じるしかあるまい。





「この場は任せたぞ、グレン君」

「っ! はいっ!」





 嬉しそうに返事をするグレン君の声を背に、俺は魔王の元へと歩き出した。


 ――――――頼むぞ、主人公。





 そして踏み台転生者は魔王の元へ――――――

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