表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

魔王の右腕、そして


 俺は抱えていたグレン君をアイラ達に任せ、目の前の少女と対峙する。


 歳は十五くらいだろうか。黒い髪と瞳が印象的だ。光を飲み込む深淵のような闇色の髪と瞳を持つテーネと比べると少し薄い黒色で、光を反射してどこか艶やかに輝いている。

 気の強そうな顔立ちと表情が彼女の雰囲気にマッチしており、髪の毛も肩口に掛かる程度のテーネとは違い腰元まで真っ直ぐと伸びるストレートだ。



 魔族、と呼ばれる種族が存在する。魔族とは、人間よりも遥かに高い身体能力や魔力を持つ種族である。繁殖能力が低いためその数は人間と比べると少なく、魔族の国の近くまで行かないと出会うことは滅多にない。実際、俺もこうして見るのは初めての経験だ。

 何故目の前の彼女が魔族だと分かったか。それはやはり彼女の特徴的な外見が理由である。

 テーネという例外こそいるのだが黒い髪や瞳とは基本的に魔族の特徴である。魔族は現状人類と敵対状態にあるので、目の前の少女も俺の敵と看做してもいいだろう。





「ふん。この魔力、そして炎。お主が先程の転移魔法の使い手か」

「む。転移魔法だと? 確かに使ったがそれがどうした」

「我が主の支配下であるこのダンジョンに踏み入った人間が古代魔法(ロスト・マジック)を使ったのを感知したのでな。態々こうして我が確認しに来た訳だ」

「そうか。それは済まなかったな」



 やべ、なんかつい謝ってしまった。こちらを責めるような言い方するから……。

 つーか支配下ってどういうことだ。ここは王国の領地なんだけど……。

 詳しく聞きたい所ではある。しかし生憎、彼女も俺も呑気に話に来た訳ではないのだ。その証拠に、彼女は早々に敵意をぶつけてくる。



「さて、無駄話はここらで良いだろう」

「ああ。分かった」



 対話による和解などは端から有り得無いと言わんばかりに前置きを無駄話だとばっさり切り捨て魔力を高め臨戦態勢に移る彼女。それに応えるように俺もいつでも戦えるように構える。





「我は偉大なる魔王様の側近、ミリヤ。精々楽しませてみせろ、矮小な人間共」

「アラン・フォン・フラムス。何時でも掛かって来るといい、魔族よ」





 高まっていた二つの魔力は軈て収束し――――轟音を響かせて衝突した。

 相手から目を離すことなく思考する。先程の魔法を見るに彼女――――ミリヤの魔法は広範囲に影響を及ぼす事が出来る代物だと考えていいだろう。そして、それは俺としてはかなり困る。

 というのも、俺を排除さえすればいいだけのミリヤとは違い、俺は後ろにいる皆を守りながらミリヤを倒さなければいけないからだ。大規模な魔法にはこちらもそれなりの魔法で対応しなければならない。そんなことをすれば周囲への被害は甚大な物になってしまうだろう。


 つまり、俺が取れる選択肢は――――速攻。





「【我が名の元に命ずる。絶えず燃ゆる、我が魂に宿りし炎よ。何人たりとも寄せ付けぬ、原初の火よ。この身に纏いて、覇を為せ】!」

「消し飛べ、人間!」



 都合のいい事に、ミリヤはその手に闇の魔力を纏い俺の元へと突っ込んできた。近接戦闘(インファイト)ならば望むところだ。

 身体強化の魔法でも使っているのであろう。途轍もないスピードでこちらへと詰め寄るミリヤに、俺も魔法を使い迎え撃つ。



「【属性付与:炎(エンチャントフラムス)】!」

「なっ!?」



 衝突の寸前、俺の魔法の発動が間に合った。その瞬間俺は全身に炎の魔力を纏い、その余波がミリヤを弾き飛ばす。


 今俺が使ったのは付与魔法(エンチャント)。身体や武器など、任意の物にいずれかの属性の魔力を纏わせる魔法である。

 付与した属性によって様々な効果があり、例えば今俺が使用した炎属性ならばその莫大な熱量だろうか。攻撃面だけでなく、こうして全身に纏うことで防御面でも活躍してくれる。先程も身体から溢れる熱波が最早衝撃と化してミリヤを弾き飛ばしたのだ。


 普通の相手であれば人間であろうが魔族であろうが魔物であろうが、この一撃で決着するだろう。莫大な熱波の衝撃をあの至近距離であびたんだ、全身が焼失してもおかしくないし衝撃でバラバラになっているかもしれない。



 ――――だからまあ、まだ立っている彼女は普通ではないのだろう。





「……やって、くれるじゃないか」

「そちらこそ、これでも倒れないとは大したものだ。先程の攻撃も鋭かった。もしもお前が俺の事を所詮は矮小な人間だと侮る事が無ければ結果は分からなかったかもしれないな」



 しかし当然彼女も無傷という訳にはいかない。その身は至る所が焼け爛れており、骨も折れている。まさに満身創痍、立つのがやっとといったところだろう。


 先程のは攻撃ではなく、あくまでも発動の余波だ。俺の付与魔法(エンチャント)の本領はここから発揮される。故に、相手が弱っている今こそすぐに追撃をと考えた俺だが、当のミリヤを見てみるとどうやらもう戦意がないようだ。

 一瞬立ち止まりどういうことかと相手の意図を考えていると、ミリヤは微かに諦念を滲ませながら口を開いた。





「我も馬鹿ではない。誠に遺憾だが、この場でお主を仕留める事は厳しい。降参だ。もう帰らせて貰う事にしよう」

「逃がすと思うか?」

「この傷だらけの身体でお主から逃げられるとは思っとらん。だからこそ、取引をしようではないか」

「む。取引か」



 ミリヤのもう戦意がないという言葉に嘘はないだろう。現に先程まで纏っていた闇の魔力も霧散し、それどころか戦闘態勢も解除しているようだ。

 少し考えて、俺も同じく戦闘態勢を解除する。



「アラン・フォン・フラムス、だったか。お主が賢い人間で良かったよ」

「なっ、お兄さま! この者を逃がすおつもりですか!? 相手は弱っています! 今なら――」

「ふん。人間も考える事が出来るのかと感心していたが、どうやらアラン・フォン・フラムスが特別なだけのようだ。引っ込んでいろ小娘」

「あ゛ぁ!? 誰が脳筋だ! 調子に乗ってんじゃねぇぶっ殺すぞお前ェ!」



 俺がミリヤの話に乗ろうとしたところに、アイラが待ったの声を上げた。確かにアイラの言い分は正しい。しかし――――



「落ち着け、アイラ」

「お兄さま! でもっ」

「俺の目的はミリヤの排除では無い。お前達の安全だ」

「ふふっ、お前はよいなアラン。気に入ったぞ」



 妖艶に微笑むミリヤに対して俺はだが、と続ける。

 え? アイラ? アイラならそこで恍惚の表情を浮かべながら「私の安全が一番大切だなんて……流石ですお兄さま!」とか言ってるぞ。深くは突っ込まないことにする。



「ただで逃がしてやる訳にもいかないな。お前の言う通り取引と行こうじゃないか」

「ああ。先程も言ったが、我も馬鹿ではない。自分の立場は分かっているさ」

「ならば単刀直入に聞こうか。お前の主とは誰だ? そして支配下とはどういう事だ?」

「ふふっ、そう焦るでない。順番に話してくれようではないか」



 少し勿体つけるように語り出すミリヤを黙って見つめる。………………おっぱい大きいなコイツ――――ハッ! いかんいかん、邪念は捨てろ。相手は俺の大事な大事な主人公様()を傷付けた敵だぞ。再確認して、気を引き締め直す。





「我が主はセラフィーナ様。我々魔族を束ねる存在。人間共の言葉で言うなら()()だ」

「成程。予想はしていたが、出来れば外れていて欲しかったな」

「ああ。そしてこの森がセラフィーナ様の支配下だと言う話だが――」

「ま、待って下さい! 魔王!? 貴女今魔王って言いましたか!?」

「全く。一々叫ばれては話が進まんではないか。お主達は少し黙っておけ」

「済まない、エルナ。後で説明はする。だからこの場は俺に任せてくれないか」

「…………すみません、少し興奮しすぎました。アランくんがそういうのであれば、従います」

「ありがとう」



 エルナやアイラは納得していないような表情を浮かべていたが、俺の言葉に頷くとクリスティーナと一緒にグレン君の様子を見ることにしたようだ。

 二人が静かになったのを確認すると、ミリヤは俺に向き直って続けた。



「……セラフィーナ様の支配の話に戻るが、お主等人間は少し勘違いをしているようだ」

「ふむ。つまり、俺達(人類)お前達(魔族)では認識の齟齬があるという事か」

「ああ。その通りだ」



 何が面白いのか、ミリヤはくつくつと喉を鳴らしてご機嫌な様子だ。にしても、認識の齟齬ねぇ……。俺も学者の端くれとして、興味があるな。次のミリヤの言葉を一言一句聞き逃すまいと姿勢を改める。



「お前達人間は人間の国と魔族の国、そしてそれ以外という領地の分け方をしているだろう」

「ああ。俺もそういう認識だ」

「まず、それ自体が人間側が勝手に決めた線引きなのだ。そこに我々魔族の意思は介入しておらんし、当然納得している者も少ない」

「成程」



 ミリヤの言い分には納得のいくところもある。俺も学者として人類史や魔族史について調べたことがあるが、如何せん参考文献が人類よりなのだ。人類にとって不都合な事柄は書かれていないことが多い。この国が出来た詳しい経緯等は文献に記されてはいなかったが、ミリヤの言葉が本当だとすれば辻褄も合う。



「そもそもの話……そうだな、それこそ太古の昔より『ダンジョン』とは魔族の支配下にあるものなのだ」

「成程な。()()()()()()()()()()()()()()という事を考えれば確かに分からなくもない」

「…………ふむ。本当に驚いたぞ。底の見えない男だ」



 背後にいるアイラ達と正面のミリヤがそれぞれ驚愕の表情を浮かべているのが見える。しかし何度も言うが、これでも俺はそれなりに賢い学者なのだ。このくらいは知っていてもおかしくはないと思うが。


 ミリヤはふっと一息つくと、先程までの動揺を飲み込み気を引き締めるかのように佇まいを直し、その続きを語った。

 読了ありがとうございます。

 文字数の都合で中途半端な所で切れてしまっていますが、どうかご理解下さい。次話も直ぐに投稿するので是非ともそちらもお読み下さいませ。


 今話には戦闘シーンがありましたが、アランもミリヤも互いに全力を出し切る前に決着しました。本格的な戦闘シーンはもう少しだけ先になりそうですね。



 ・簡単なキャラクター紹介


 ミリヤ→強い。巨乳。


 アラン→学者としても優秀。巨乳スキー。



 では、是非次話もお楽しみ下さいね。

 …………因みに、なんですが。次話はかなりぶっ飛んだ内容の暴走回です。そこでミリヤとアランの関係性が決まります。

 シリアスが続いていた中、タグのギャグ・コメディ要素が仕事します。基本的にこの作品は難しい事を考えずに頭空っぽにして読む方が楽しめると思います。


               清水彩葉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宜しければワンクリックお願い致します!→小説家になろう 勝手にランキング ↓こちらの方もよろしくお願い致します!→cont_access.php?citi_cont_id=879252013&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ