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合流、そして

 いつも誤字報告ありがとうございます。大変助かっております。


 さてと。テーネと別れた俺がまず最初にすべきこととは何か。それはペアと別行動をしているが故に一人ぼっちになっている我が妹、アイラを回収してくることである。

 あの娘、馬鹿だ馬鹿だとは薄々思っていたが……まさか、こんな危ないダンジョンでペアと離れるなどという危険極まりないことまでするとは思わなかった。これは後でしっかり言って聞かせないとな。今回なんかほんとに取り返しのつかないことになりかねなかったわけだし。


 まあ幸いというべきだろうか、アイラは例の魔力の持ち主とグレンくんがやり合ってる場所から離れたところにいるみたいだし滅多なことは起こらないだろう。……なんかフラグみたいな言い方になってしまったな。え、大丈夫だよね?


 なぜか急に心配になってきたので、俺はアイラのいる方向へと駆け出した。エルナとクリスティーナのペアも近くにいるので拾っていこう。

 ほら、そうこう言っている間に二人の後ろ姿が見える。この森は最早危険地帯と化している。一刻も早くみんなの安全を確保するために俺は流星のように二人の元へと駆ける。



「っ!? 誰!?」

「…………ッ!」



 俺の気配を敏感に感じ取った二人は、振り向きざまに魔法をぶちかましてきた。いや、咄嗟の魔法のくせに正確に俺の体を穿ちすぎだろ。完全に油断してたわ。反射的に防護魔法で身を守ってなければ本当にお空に光る流星になるところだったぜ……。



「落ち着け二人共、俺だ」

「えっ? アランくん!? どうしてここに!?」

「…………会いたかった」



 俺の声と姿を確認した二人はそれぞれの反応を見せた。エルナは俺がこの場所にいることへの驚愕と疑問を隠せない様子で、クリスティーナはとてとてとこちらの方へ近寄ってくると俺の服の裾を摘み上目遣いでそう言ってきた。……いや、勿論二人とも可愛いけど俺に対する心配とかはないんですか? 思いっきりあなた方の魔法が直撃したんですけど。

 まあ、実際は防御が間に合ったお陰様でぴんぴんしているので、話を進めることにする。



「ああ、俺も二人に会いたかったよ。早速だが、俺に着いてきてくれないか? 不測の事態が発生した」

「不測の事態……ですか? それはどういう……」

「説明する時間も惜しい、詳しい話はアイラと合流してからしよう。取り敢えず移動するぞ。確りと着いてきてくれ」

「……分かりました。一刻を争うのであればすぐに行動を始めましょう」



 素直に俺の言うことを聞いてくれるエルナ。彼女にはいつもお世話になっているな。ありがとうと感謝の言葉を告げると「アランくんの事は誰よりも信頼してますからっ」と満面の笑みで返してくれた。可愛過ぎる……お嫁にしたい……。

 因みにクリスティーナはずっと俺にくっついているが、今はちょっと頬を膨らまして不機嫌そうだ。まあ、ほとんど表情の変わらない娘だから傍から見たら分からないのだろうけど。


 そんなこんなで、俺は二人を引き連れてアイラの元へと急ぐ。それなりのスピードを出して走っているのだが、流石と言うべきか。二人は余裕で着いてくる。

 その甲斐があってか、アイラの魔力反応もかなり近くまで来たその時――――――森の一部が爆ぜた。



 轟音。続いて衝撃。直前に魔力の高まりを感知していた俺は驚かなかったが、後ろの二人はそうはいかない。いきなりの出来事に硬直して足が止まってしまっている。



「二人共、大丈夫だ。俺がついている」



 だから、急ごう。そう言うと二人は心底安堵したかのような表情をしたかと思うと、気を引き締め直して頷いてくれた。本当に、素直でいい子ばかりである。

 二人がすぐに切り替えて着いてきてくれたおかげで、あっという間にアイラの近くまで来――――





「――――はっ!? お兄さまーっ!! さっきからぼかんぼかん怖かったです! 会いたかったです!!」

「むっ!? アイラ、よく俺だと気が付いたな。探知魔法を使えるようにでもなったのか?」

「探知魔法はまだ使えませんけど、お兄さまの気配がしましたから!」

「む? そうなのか」

「ええそうです! 私はお兄さまのことならばなんでも分かるんですから!」

「そ、そうなのか……」



 アイラは超人的な反射速度で俺に飛びついてきた。お兄さまの良い匂いがしましたとか言ってるけど、嗅覚鋭すぎるでしょ流石に。もしかしたら俺の妹はヤバい奴なのかもしれない。……まあ、可愛いからいいや。

 俺の腕の中でスリスリクンカクンカハスハスと欲望の限りを尽くしたアイラはそのままの体勢で首を傾げた。……ぼかんぼかん怖かった割にはなんか余裕そうだな。



「ところで、何故お兄さまがここに?」

「…………私達も居る」

「えっ、クリスティーナ? それにエルナも。二人共居たんだ。全然気付かなかった」

「全く、いつもいつもアランくんにばっかり気を取られて。少しは周りを見たらどうですか? ……と、今はそれどころじゃありませんでしたね」

「あ? お前には話し掛けてねぇんだよ猫被り女」

「あら? それどころじゃないって言いましたよね私。聞こえなかったんですか? それとも脳筋の貴女には難しかったんですかね?」

「んだとカマトト女!」

「だから、猫被りもカマトトも貴女にだけは言われたくないですよ!」



 本当に、アイラはなんでみんなと仲が悪いのだろうか。女の子同士の喧嘩ってマジで怖いからやめて欲しい。というか、俺の腕の中でエルナに噛み付くのはやめなさい。マジで怖いから。

 普段なら絶対に割り込まないが、今回ばかりは本当に危ないので一刻も早くここを出たいのだ。気は進まないが仲裁しよう。



「こらアイラ。そんな言い方をしては駄目だろう。謝りなさい」

「はいお兄さま! お兄さまが言うならばすぐにでも!」

「エルナも、今は少しの時間が惜しいんだ。少し抑えてくれると助かるんだが」

「ええ、すみませんアランくん……。私も少し熱くなりすぎてしまいました」



 やっぱり二人共素直なんだよなぁ……。いい娘達なのになぜこうも喧嘩ばかりなのか。二人がごめんなさいと頭を下げあっているのを見ながら考える。……あれ? 笑顔で和解し合う二人だけど、よく見たら二人共目が笑ってないんじゃないか? ……………………俺の気の所為だよな、うん。

 俺の妹と友達の仲がマジで悪いとかいう嫌な現実から必死に目を逸らしていると、魔力の高まりを感知した。大きな魔法の予兆である。


 咄嗟に彼女達の前に出て、魔力を解放する。





「【我が名の元に命ずる。天地万物を喰らい尽くせ、我が魂に宿りし炎よ。総てを飲み込む、原初の火よ。我に楯突く者を燃やし尽くし、灰燼と化せ】!」



 唐突に詠唱を始めた俺に、三人は驚愕の表情を向けてくる。驚かせてしまったのは申し訳ないな。

 俺の詠唱と共に、莫大な魔力が俺を中心としてまるで嵐のように渦巻いているのを感じる。迸る魔力は軈て収束し、そして――――――



「【完全無欠なる絶壁の(プレイシディオ)神炎(デウスフラムス)】!」



 瞬間、俺達の眼前に巨大な炎の壁が聳え立った。

 四方を囲む炎は莫大な熱量を持っていて、しかしその熱量は中にいる俺達では無く外から来る脅威に向けられている。

 俺達に害を為さんとする総てを迎え撃ち、燃やし尽くすその様は(さなが)ら獄炎の要塞のようだ。





「…………どうして――――」



 理解が追いついていない様子であるクリスティーナの疑問は、しかし最後まで紡がれる事はなかった。



 ――――爆音、そして衝撃。

 隕石でも衝突したのかと思う程のそれは、この獄炎の要塞に何か途轍もない大魔法が直撃した事の証左である。


 暫くして、衝撃は無くなる。中にいる俺達はみんな無事。それどころか目の前の炎壁には少しの乱れすらもなかった。

 目紛しい展開に唖然とする三人に対して、俺は今起きた出来事を軽く説明してやる。



「これは闇の属性魔法だな。巨大なレーザーの様な者をぶつけてその圧倒的な質量で対象を消し飛ばす魔法といった所か。この通り、ここに居ては危険だ。俺の転移魔法ですぐにでも森の入り口に――――む? これは……」



 俺の魔力感知に猛スピードでこちらに向かう……否、飛んでくる反応がある。このままでは俺の魔法にぶつかって消し飛んでしまうな。俺は慌てて魔法を取り消した。


 そして、飛んできた少年――――傷だらけのグレン君をふわりと優しく受け止める。





「大丈夫か、グレン君」



 ボロボロのグレン君に声を掛けると、彼は呻きながらその瞳を開いた。



「ぐっ…………、兄、さん……?」

「酷い怪我だ。安心しろ、今治癒魔法を掛けてやる」



 そして、グレン君が飛んできた方向へと視線を向けて続けた。





「だから、大人しくしていて貰えるか?」

「ふん。この魔力、そして炎。お主が先程の転移魔法の使い手か」





 彼女は俺に用があるみたいで、大人しくしてくれる気配は無い。

 言っても聞いてくれないのであれば仕方がない、ここは無理矢理にでも大人しくなってもらうとするか。

 女の子に無理矢理とは些か抵抗もあるが、こちとら主人公をやられているんだ。ただのか弱い女の子という訳ではあるまいし、多少乱暴になっても許されるだろう。


 ――――あまり踏み台を舐めるなよ。



 今話もご高覧、ありがとうございます。


 皆と合流したアランですが、ここでボロボロの弟を拾い謎の少女と出会います。


 ・登場人物の心情


 クリスティーナ→会いたかったアランに密着出来て満足。ぼかんぼかん怖かったけどアランが大丈夫だって言ってくれたから安心。無口系故に少し影が薄かったような気がする。


 エルナ→アランの事を誰よりも信頼してると雌の顔で言い切った。アイラと喧嘩したけど、アランの目の前で見苦しい姿を見せてしまったと後悔している。アイラに対して申し訳ないとはあんまり思ってないけどちょっとは思ってる。ほんとだよ? ほんとほんと。猫被りカマトト女。


 アイラ→ぼかんぼかん怖かったけど大好きなお兄さまが来てくれたからそんな事は忘れた。お兄さまの接近には気配や足音、匂い等の要素総てでお兄さまだと看破した。妹ならばそのくらい出来て当たり前である。別にエルナ達のことは嫌いじゃないけど嫉妬はする。お兄さまに一番ふさわしい女は自分である。そろそろ擁護出来ないブラコン。キモウト。



 次回は戦闘シーンに入ります。とはいえ、本格的な物はまだ先になりそうですが。宜しければ是非とも読んでいって下さいませ。



 アラン→グレンを傷付けられておこ。しかしそれは謎の人物に対してではなく、テーネの意見に反対しグレイだけに任せるという判断を下した自分自身に対してである。不甲斐なさを感じている。


               清水彩葉

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