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幕間その三 彼は踏み台転生者(闇の原初の精霊)――後編

 後編です。是非楽しんでいって下さいませ。


 風の原初の精霊ヴェントの転移魔法を使って、私達は『悪夢の迷い森』の入り口へと転移した。…………アランくんが転移魔法を使っても顔色一つ変えないのにはもう驚かない。アランくんになら自分で転移魔法を使えるんだと言われても信じられる。なんてね。

 ……………………使えたりしないよね? 流石にないとは思うけど、一応聞いておこうかな。一応、あくまでも一応ね?



「ふぃー。転移魔法なんて初めての経験だからドキドキしたよ! アランくんは随分と落ち着いてたみたいだけど、もしかして経験あるの?」

「あぁ、そうだな。何回か経験があったお陰で落ち着いて転移出来た」

「へー、流石はアランくん! ………………もしかして、使えたりする?」

「む? 使えるとは、転移魔法の事か?」

「そうそう! まあ流石にアランくんといえどもそんな原初の精霊みたいな事は――――」

「出来るぞ。流石に大人数を転移させるとなると準備に時間がかかってしまうが」

「へっ? 出来るの!?」



 何でもないかのようにそう言った彼はさっさと歩き出してしまう。

 アランくんってほんとに人間なのかな……。転移魔法は人類から失われた古代魔法(ロスト・マジック)なんだから、本来人間に使えるようなレベルの魔法じゃないんだけどなぁ……。

 彼は自分の異常性を正しく理解しているのだろうか。





 * * *





 結論から言うと、彼は転移魔法も普通に使えた。彼が魔法を使うのを直接見るのは初めてだったけど、確信した。彼の魔法は炎の原初の精霊、フラムスと比べても遜色ない程……いや、もしかしたらそれ以上に高度なものかもしれない。


 益々人間とは思えない。驚きだ。だけど今はそれよりも、彼が私の正体に気付いていたということが私の心中を大きく占めていた。



 テーネ()の正体。それは、遥か昔。神話の時代に人類を滅ぼしかけた巨悪。闇の原初の精霊、テーネブリス。


 アランくんは学者としても誰より優秀らしい。まだ幼いとも言える歳ながらあらゆる分野に誰よりも深く精通している様は、正しく天才。そんな彼が人類に仇なす私のことを知らぬはずがないだろう。

 アランくんは大恩があるから私の不都合になるような事はしないと言っていたけど、人類を護る英雄であるアランくんが人類の大敵である私を見逃す程の恩なんて思い当たらない。


 森を歩きながらこっそりと彼を盗み見ると、彼は隣に闇の原初の精霊がいるというのに普段と変わらない姿で迷いなく歩いている。ほんとに底の知れない人だ。



「目的の除魔草がどこに自生してるかは知ってる?」

「勿論だ。除魔草は魔力を吸うという性質を持っている、つまり魔力の集まる場所に群生しているという事だな」

「さっすがー! アランくんってほんとになんでも出来るんだねー」

「それ程でもない。俺にも出来ない事はあるさ」



 アランくんの言葉に、私は立ち止まって考え込む。

 このテーネブリス()から見ても完全無欠に見える彼に出来ないことなどあるのだろうか。

 どうせバレているんだ。いっその事本人に聞いてみようか。元々、今日の目的はアランくんと二人っきりになって彼のことを探ることだったんだし。

 急に立ち止まった私を心配そうな視線を送るアランくんの燃えるような紅瞳を見つめ返して、問う。



「そうかな? アランくんはなんのヒントもなしに私の正体に気付いた。そうでしょ?」

「よく言う。ヒントなら沢山あっただろう。それこそ、疑問が確信に変わるくらいにはな」

「あはは……。確かにそうかも。それでも、人間にバレるとは思ってなかったなぁ」



 全く何のヒントもなかったとは言わない。グレンくんですら分からないんだから、どうせ人間にはバレないだろうとタカを括って油断していたのは事実だ。

 だけど、それでも気付かれるようなヘマもしていないはず。それなのに、思い返せばアランくんは一目で私の正体を見抜いていたように感じる。

 答え合わせをしようと微笑みかけると、彼はさも当たり前のように答えてみせた。



「テーネ。お前の正体は闇の原初の精霊、テーネブリスだ。そうだろう?」

「あはははっ! 大正解だよ、アランくん! さっすがー!」



 確信を持って答える彼に、私は喜んだ。だって彼は、私の想像を尽く超えてきたから。



「いやー、アランくんのことは元々知ってはいたんだけどさ? 本格的に興味を持ったのはあの実技試験の日。君は私の想像を遥かに超える魔法を放ったからね。それで君を直接見てみたくなったんだ」

「そうか。それで、俺はお前のお眼鏡に適ったのか?」

「勿論! それどころか、今もまだ君の底が見えてないよ! 君の能力も人間性も、もっともっと知りたくなった」



 この私ですら把握しきれない程の才覚。もしかしたら原初の精霊すらも凌駕するような、まさに全能の神のような彼ならばもしかして私を――――――


 ――――――自分の浅ましさに吐き気がした。私は何を考えているのだろうか。

 急激に心が冷えた私は彼の瞳をじっと見つめて、問うた。



「でも、物知りな君なら闇の原初の精霊がどういう存在か知ってるよね? なんで私と一緒にいても平気そうな顔をしてるの?」

「そうだな。確かに過去の文献によると、闇の原初の精霊は人類に仇をなす悪しき存在だとされている。過去に人類を滅ぼしかけたともな」

「そこまで知ってるなら、なんで――――」

「俺は自分で見たものを何より信じている」



 アランくんの瞳は、力強くて真っ直ぐだった。



「テーネは、俺が見た限り悪しき存在には見えなかったからな」

「……そんなの、隠してるだけかもしれないよ?」

「そうだろうか? 俺の目には、お前はただの一人の女の子にしか見えなかったけどな」

「……そんなわけ、ないでしょ。私は闇の原初の精霊だよ?」

「お前が何者であるかだとか、そんなものは関係がないだろう。お前には人を思い遣る心がある。なら、お前の事を悪だと言える筈がないだろう」

「そんなのおかしいよ! …………あなた達人間には、私を怨む権利があるでしょう?」



 アランくんのその瞳は私の心の柔らかい所に深く突き刺さるかのようで、声が震えた。でも、彼の言葉には。仕草には。瞳には。確かに私を気遣う暖かさがあったから。



「お前が自身の罪を赦せないというのであれば、この俺が人類を代表して赦そう」

「えっ……?」



 だめだ。それは、それだけはだめだ。他でもないアランくん(英雄)に、よりにもよって(闇の原初の精霊)が。そんなことがあって良いわけが――――――



「あっ……」



 彼の暖かい手が、私の頭を優しく撫でつける。



「お前にも様々な理由があったのだろう。そして、良心の呵責や後悔、辛い事苦しい事、全て一人で抱え、そして耐えて来たのだろう。安心しろ、もう大丈夫だ。俺が居る。お前はもう一人じゃない」

「あっ、うっ…………。そ、そんな優しくしないでよ…………」



 やめてよ。そんな、まるで母なる炎みたいな優しい温もりで身も心も包まれちゃったら、もう無理だよ。一人で立てなくなっちゃうから……。



「今までよく頑張ったな」

「うあぁ…………」



 優しく抱き締めてくれた彼の腕の中は暖かくて、安心して。ずっとずっと溜め込んできたモノが瞳から溢れて来た。

 涙と共に溢れ出たそれは数万年に亘って私を苛んで来た苦しみだろうか。それとも、ようやく救われたという喜びだろうか。分からないけど、恐らくどっちもなんだろう。私は漏れそうになる嗚咽を堪えるためにより強くアランくんの胸に顔を押し付ける。



「そうだ、テーネ。お前にどうしても伝えたかった事があるんだ」

「ぐすっ……な、なにさ? なんだよぅ……?」

「俺の弟を救ってくれてありがとう」



 一瞬、ビクリと震えてしまった。そんなに大きな反応ではなかったけど、この密着具合なら絶対にバレてしまうだろう。なんなのさ、やっぱり最初から全部バレてるんじゃん。



「テーネが居なければ、弟はきっとより大変な目にあっただろう。そして、俺は後悔してもしきれなかった筈だ。本当に、ありがとう」

「……気付いてたんだ、彼のこと」

「当たり前だろう。()あいつ()を見間違えてたまるか。例え見た目が変わろうが、どんなに離れようが、俺達の繋がりは変わらない」

「……そっか」



 涙を拭って、アランくんから離れる。………………ちょっと寂しく感じたのは内緒。

 でも、そっか。彼はそういう人なんだ。



「俺はお前に救われた。だから、今度は俺がお前を救う番だ。お前が困っている時、苦しんでいる時、辛い時。そんな時は、必ず俺がお前を救ってみせる。それが、たった一人の愛する家族を救えなかった俺なりの覚悟だ」





 いつか、グレンくんが言ってたっけ。アランくんはどこまでいっても人間なんだって。


 どんなに凄い才能を持っていても、どれほどの努力を重ね続けても、私ですら計り知れない程の力を持っていても。彼の根底にあるのは『優しさ』なんだ。

 彼のその天稟も、努力も、力も、全部彼の『優しさ』のために使われているんだ。


 彼の真の強さはその全てを救う『優しさ』だったんだね。成程。こんなに人間離れしているのに、確かにどこまでいっても人間らしいや。


 あぁ、だめだ。こんなの無理だよ。最早自分の心を抑え切ることが出来ない。





「やっぱり、アランくんは特別だよ。ただの人間なのに、誰よりも優しくて、強くて、泣いてる女の子を抱き締めて救っちゃう。キミみたいな人をなんて言うか知ってる?」

「む? すまないが、分からないな」

「ふふっ、それはね――――」





 ――――英雄、だよ。



 そう言った私は、今どんな顔をしているのだろうか。

 少なくともこれまでみたいに心の中に大きな不安感があるということはないし、そう酷い顔でもないと思う。


 穏やかに微笑んでいるのか。それとも元気良く笑っているのかな。





 ――――恋する乙女の顔になってないといいんだけど。




 これにて、テーネ視点の幕間その三はお終いです。次回からはまた本編が進みます。


 ・登場人物から見たアラン像


 テーネ→人間離れしてるけど、人間味に溢れてる人。正直フラムスよりも強いんじゃないかと真剣に疑っている。今回、数万年感熟成してきた罪悪感や後悔、不安感その他諸々が爆発し、闇属性から病み属性になっていたがアランに救われた。因みに最後は思っくそ雌の顔してた。


 アラン→一流の踏み台転生者に近付くために心の広さを示した。ぶっちゃけそんなの建前で、か弱い女の子が泣いてたから味方になりたくなっただけ。上着の胸元には美少女精霊エキスが染み付いている。



 アランは少し頭がイカれて……もとい、他人とズレていますが、性質はとても全良です。前世から困ってる人を見過ごす事は出来ない性格でした。

 テーネの揺れる心情を書くのが難しかったです。実は彼女、数万年に亘って途轍も無く大きい罪悪感等で神経をすり減らしていたのでアランと出会ってなければ闇堕ちしてました。そのまま世界が滅びかけるルートとかも一応用意していたのですが、それが公開される事はもう無いでしょう。ご安心下さい。


 それでは、今回もご高覧ありがとうございました。また次回も読んで下さると嬉しいです。


               清水彩葉

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