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幕間その三 彼は踏み台転生者(闇の原初の精霊)――前編

 幕間です。今回はテーネから見たアランのお話です。

 どうぞ楽しんでいって下さいませ。


 彼の存在は元々知っていた。だって、グレンくんが口を開く度に彼の名前を出していたから。



「さてさて。いよいよだね、グレンくん。緊張とかしてない? 大丈夫?」

「問題無い。実技試験くらい簡単にクリア出来ないとな。少なくとも、兄さんならこの程度の試験で躓くなんてありえない筈だ」



 ほら、まただ。グレンくんは事ある毎にお兄さんのことを引き合いに出す。

 今日は『国立アルカナム魔法学院』、通称『アルカナム校』の入学試験の日。今日の実技試験で合格した一握りの受験者のみが筆記試験を受けることが出来る、そんな重要な日。



「もー、またお兄さんの話? 今日はグレンくんの人生が決まりかねない大事な日なんだからしっかりしてよ?」

「ああ、分かっている。兄さんを引き合いに出すのは僕なりの精神統一みたいなものだ。僕にとっての理想は兄さんなんだから、イメージする相手としてこれ以上は無いだろう?」

「理想、ねぇ……。………………こんなこと、すっごい言いにくいんだけどさ、グレンくんはお兄さんのことが憎くないの? 家族からも冷遇されてたんだよね?」

「ああ。けどあの人は、兄さんだけは違うんだ」



 お兄さんのことを語っている時のグレンくんは、なんというか、活き活きしてる。楽しそうに瞳輝かしちゃってまあ……。



「兄さんは誰よりも強くて、賢くて、努力家で……。そもそもの話、僕なんかが嫉妬出来るような人じゃ無いんだ。例え僕に魔法の才能があったとしても、武術の才能があったとしても、誰より賢かったとしても、兄さんには勝てなかっただろうね」

「そうかな? そのお兄さんだって、結局は人間でしょう?」

「ああ、兄さんは人間だ。そして、だからこそ僕じゃ勝てないと確信出来るくらいに凄い」

「? どういうこと?」

「兄さんは誰よりも強い。なのに、どこまでも人間なんだ。力に溺れた鬼にはならないし、誰かを悲しませる悪魔にもならない。力だけを追い求める修羅には決してならず人間として誰よりもストイックに鍛錬をするし、力しか振りかざせない怪物にも決してならず人間としての知恵をも持つ。だから僕も、復讐に囚われた亡者にはならないように、こうして人間として生きていくことが出来る」



 おーおー、語るねぇ……。グレンくんがそこまで言うなら私もちょっと興味あるかも。ちょっとだけどね。



「つまり、グレンくんのお兄さんは神様みたいに凄い人だから恨んでないってこと?」

「だから全然違う……。……兄さんは神様なんかじゃない、神様より凄いかもしれないけどあくまでも人間なんだ。それに、僕が兄さんを恨まないのは当然だよ。僕を救ってくれたのは、他ならない兄さんなんだから」

「へー。お兄さんに救われた、ねぇ……」



 そういえば、グレンくんの過去の話はあんまり詳しくは聞いたことがなかったなぁ。と、試験会場内に居た人達が静まり出した。どうやら試験官が来たようだ。

 ちなみにここは第二十八実技試験会場。文字通り二十八個目の試験会場だが、受験生はめちゃくちゃいっぱいいる。一体何人くらいの人がこの試験を受けてるんだろう?



「おっ。グレンくん、魔力探知に反応あり。どうやら今からグレンくんのお兄さんが試験を受けるみたいだよ」

「……流石はテーネ。ここから兄さんの居る第一実技試験会場まではかなりの距離なのに、よく分かるな」

「ふふんっ、まあね! でも、こうしてお兄さんの魔力を探知してみてもやっぱり普通の人間と変わらな――――――」



 変わらないと思うんだけどなぁ……。そう言おうとした私は、絶句した。何故なら――――――



「えっ……!? 何このふざけた魔力量っ!? しかもなんて高純度な魔力…………こんなの、とてもじゃないけど人間に内包出来る魔力じゃないよ!? え、なに、グレン君のお兄さんって伝説上のドラゴンか何かなの!?」

「これは………………凄いな、相変わらず。兄さんはやっぱり、凄いや」



 いや感心してる場合じゃないでしょ!? 最早この会場も実技試験どころの話ではなくなっている。お兄さんのとてつもなく膨大で高濃度の魔力は最早時空を歪ませ、世界そのものを震わす程の現象と化している。

 撒き散らされていた魔力が収束し、一瞬の静寂が訪れる。


 そして、世界が爆ぜた。



 ここからでも視認出来るほどの大炎の柱が天を焼き焦がす。遠く離れたこの場所にいる私ですらその熱に飲み込まれてしまうのではないかと錯覚するほどの熱波を含んだ衝撃。


 あれが人類の最高峰? ありえない。あれじゃあまるで――――――





「……とてもじゃないけど信じられないよ。グレンくんのお兄さんってほんとに人間? あんなの炎の原初の精霊、フラムスに匹敵しかねない、神話クラスの魔法じゃんか……」

「あぁ。流石は兄さんだ……!」



 いや、もしかしたらフラムスですらあんな魔法は使えないかもしれない。人間の身であそこまでの魔法なんて使えるはずがない……。

 このお兄さんのどこが人間らしいんだよぅ……。人外どころの話じゃないじゃんかよぅ……。

 グレンくんはキラキラした瞳でお兄さんが居る第一実技試験会場の方を見つめてるし……。


 でも、そうだなぁ。純粋な魔法の威力ならこの私と比べても遜色なくて、話によれば武術も学問も様々なジャンルにおいて並ぶ者が居ないらしい。

 そして何より、あのグレンくんがここまで手放しで評価する人間、か……。


 アラン・フォン・フラムスくん。ふふっ、会うのが楽しみになってきたよ。

 ここまで言わせたんだから、私を失望させないでよ?





 * * *





 失望なんてとんでもないです。はい。

 結論から言うとアランくんは私の想像を遥かに超越していた。なんというか……凄いなぁ……。

 新入生代表挨拶も、有力者達からの人望も、そして彼の自己紹介も。その全てが、尽く私の想像していたアラン・フォン・フラムス像を超えていた。


 ……全く、君は悪い人だ。この私をこんなに夢中にさせちゃうなんてさぁ。君の能力も、人間性も、全く底が知れない。もっと、もっと、知りたい。


 だから私は、アランくんの相方に立候補した。倍率はかなり高かったけど、何とか上手くアランくんのパートナーになることが出来て良かった。

 よろしくね! と手を差し伸べれば、こちらこそ宜しく頼むと手を握り返してくるアランくん。


 もしも、この今目の前にいる存在が人類に仇なす闇の原初の精霊だと知ったら。もしも、今握ってる手に隠蔽した解析の魔法が付与(エンチャント)されてると知ったら。もしも――――――もしも、私がアランくんに浅ましく救いを求めていると知ったら。彼は一体、どうするのだろうか。

 考えて、少し怖くなった。頭を振って考えるのをやめる。


 と、いうか。アランくんってば私の手のひらに触れた瞬間付与魔法(エンチャント)を破壊してきたんだけど。これ、もしかしなくても解析魔法を使ったことすらバレてるんじゃ…………。

 あはは……。仮にも原初の精霊である私が本気で隠蔽した魔法だというのに、一瞬で気付くどころか完全に破壊するとか本格的に人間やめてるなぁ……。


 何はともあれ、大切なのは授業の内容である。思考停止? 現実逃避? うるさい、私だって自分で分かってるやい。


 ……こほんっ。授業の内容は『悪夢の迷い森』という、国から立ち入り禁止ダンジョンに指定されているとても危険なダンジョンに自生する『除魔草』という薬草を採取してくるというもの。

 入学したての子供だけで行くようなダンジョンじゃない気がするんだけど……まあいっか。


 移動にはなんと転移の古代魔法(ロスト・マジック)、しかも風の原初の精霊であるヴェントが作った大魔法を使うという事でとても驚いたけど、その驚愕もすぐにアランくんに塗り替えられてしまった。なんで陣を一目見ただけで複雑な魔法の大部分を理解出来るのかとか、数秒で原初の精霊の大魔法を解析しないでくれだとか、色々言いたいことがある。普段ほんわかとした笑みを崩すことのないあのフレア先生でさえも顔を引き攣らせてドン引きしてたよ……。


 まあ、アランくんの説明でみんなが安心出来たのも事実だし、フレア先生の言う通りアランくんが人間離れしてるのは今更の話だもんね。うん、授業授業! 思考停止でもしなきゃやってらんないよほんとに……。


 まあみんな初見の魔法陣に飛び込むのは勇気がいるだろうし、ここは私達が一番槍になろうじゃないか。私はそう考え、アランくんと共に魔法陣の上に乗る。


 さて、遂に初授業。そして、アランくんと二人っきりだ。この授業の中で、アランくんを見極めなければ。



「楽しみだね、アランくん」

「あぁ。頼りにしてるぞ、テーネ」

「ふふっ、こちらこそ!」



 …………アランくんに頼りにしていると言われたら、なんだか無性に嬉しいな。


 幕間なのに前後編って? と疑問に思った方。正直私もそう思います。

 想定していたよりも少し長くなってしまったので二つに分割致しました。次回でテーネ視点の幕間は終わります。テーネから見たアラン像も次回の後書きに書かせて頂きますね。


 それでは、今話も読了ありがとうございました。是非次話以降もお楽しみ下さいませ。


               清水彩葉

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