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悪役令嬢は六回目の人生を始めます  作者: 月森香苗
第一章
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4.令嬢は学園に入学します

説明回が続く続く。

 あっという間の15歳。それまでのあれこれは全部すっ飛ばし、15歳になったイザベラ・ユースティリアは友人のリリア、ミーアと三人仲良く同じクラスになった。学園は貴族平民関係なく通う事が許されている為、貴族は貴族、平民は平民でカリキュラムが異なる。平民は日々の生活に役に立つ技術や知識、魔法を学ぶ為。貴族はこれから先の貴族社会の縮図ともいえるべきこの学園で交流を作り上げるのだ。

 学園には寮があり、貴族と平民では住まう寮が異なる。それもそうだろう、貴族は従者を連れてくる事だってあるのだから。イザベラは当然のようにライを連れてきている。彼自身数年前にこの学園を卒業したのだが、久しぶりの学園にも関わらず何も関心はないようで。それどころか、少しばかり嫌そうな顔をする。

「お嬢様、ご注意ください。一つ上の学年に王太子様がいらっしゃいます」

「らしいわね。関わり合いになるつもりはないけれども」

「同じ学年に大魔導士のご子息と騎士団長のご子息、学長のご子息が入学されています」

「そうなのね。近寄らないようにするわ」

 制服にを纏い胸元のリボンを整える。ありがたい事に学園には制服がある。これで毎日どのような服を着ればいいのかなど考えなくても済む。リボンなどは個人の好みで変える事が出来るが、膝よりも少し丈の長いワンピースタイプの制服は弄る事は出来ない。この服そのものに大魔導士の加護が与えられている。これまでの人生でその恩恵にあずかった事は一度もないのだけれども。

「私は、リリア様やミーア様と一緒に勉学に励むのよ」

 町娘のようなスカート丈を果たして貴族令嬢は受け入れる事が出来るのだろうかと昔は思ったが、それを隠すようなロングの編み上げブーツのおかげで素肌を晒す事がないのだから抵抗も少しは減る。濃紺の生地に白の縁取り、金色のボタン。体の線が出るものの、コルセットを付けなくていいのだから割りと楽な感じがする。

「ねえ、ライ。どうかしら?」

「良くお似合いですよ。お嬢様の金色の美しい髪の毛に金色のボタンが良く合います」

「ライも昔はここに通ったのだから、男性の制服を着たのよね。とても素敵だったのでしょうね」

 イザベラと同じように成長をした彼は22歳。大人の男として成長したライを見る女性の目は好奇心とその奥に欲を含ませている事をイザベラは知っている。幼さのあった顔は洗練され色香を十分に含み、連れだってお茶会に行けばどこぞの令嬢が思わず頬を染めて見つめながら素敵な男性だと見つめている事だって知っている。しかし、ライはイザベラの従者で誰かに渡すつもりは毛頭もない。

「それじゃあ行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませお嬢様」

 この度は幸いにして誰かの婚約者という立場ではないのだから仲の良い令嬢や、父の為になりそうなどこかの子息と関わりを持つ事が出来れば上々だろう。

 寮の前では既にリリアとミーアが何かを語り合いながらイザベラが出てくるのを待っていた。例え相手を待たせていようとも淑女たるもの走るのは見苦しく好ましくない。少しばかり歩調を速め二人の側に行けば、笑顔の二人がこちらを向く。これまでの人生で二人と関わり合いになる事はなかったけれども、改めてこの二人と一緒に居る事がどれだけ幸運なのかといるかどうかわからない神へ感謝する。

「おはようございます、リリア様、ミーア様」

「おはようございます、イザベラ様」

「おはようございます、イザベラ様」

 ほぼ同時に同じ言葉で返事が返され、顔を見合わせて笑う二人につられてイザベラも笑ってしまう。艶めいた金色の髪の毛は腰ほどの長さにまで達しており、それをハーフアップで緩やかに纏め小ぶりの花飾りがついた髪留めで止めているイザベラは二人挟まれ学校への道を歩き出す。

「入学式の後は教室で説明の後、適性検査をするんですよね?」

「そのようですね。それにしても、イザベラ様とリリア様のお二人と同じクラスで良かったです。私、人見知りがあるのできっとひとりぼっちになってました」

 リリアとミーアの言葉にイザベラは微笑みながら、私も貴方達と同じクラスで心強いわ、と返事をすれば、二人は花のようにふわりと笑みを浮かべる。

「イザベラ様は高嶺の花でいらっしゃるから。私たちは幸運にもこのようにお話出来ますけれども、他の皆様は少し遠慮してしまうのかもしれませんね」

「わかります。でもそれを言えばリリア様だって私からすれば上の方で……子爵家は少しばかり肩身が狭いです」

「ここは学園ですから、親の力関係は少し忘れましょう。無論、私たちは貴族としてあるべき姿でいなければなりません。ですが、あまりにもそれにとらわれ過ぎていると見なければならないものが見えなくなってしまいます」

 正面に見える大きな学園の正面。身分の差なく誰にでも門戸が開かれるこの場所は、長い歴史を持つ。時に魔術から派生した秘術、禁術さえ研究している教師がいると噂されるほど、その全貌が明らかにされていない特別な場所。

 イザベラは二人に気付かれないよう小さく手を握ると覚悟を決める。ここでの生活が後の人生を大きく変えるのだ。

 死にたくないから、生きる為ならばどんな手段を講じても抗ってみせる。それがイザベラの目標であった。


***


 実に退屈な入学式だったと思う。人数が思ったよりも多くはない。貴族の為のクラスは三つあり、そのうちの一つにイザベラ、リリア、ミーアは分けられている。席は定められており、机と椅子は全員同じデザインだ。座りやすさは配慮されているらしく、長時間座っても苦ではないらしい。

 イザベラは窓に近い席で、リリアとミーアは廊下に近い席に。少し離れてしまったのは残念だけれども同じクラスであるだけよかった。ふぅ、と息を吐きながらも周囲からの視線を気にしてイザベラは背筋を伸ばし椅子に座っている。公爵家の令嬢、それが周囲から見た客観的な感想。それ以上でもそれ以下でもない。家を気にしすぎるなと人には言いながら自分はこんなにも気にしなければならないのかと少し憂鬱になっていた所で、隣の席に誰かが来たことに気付き挨拶でもしようと顔を向けて、そして動きが止まる。

「ユースティリア公爵令嬢のイザベラ嬢か?」

「ええ。初めまして、リディック・ハルザール様」

 強張るのは一瞬。しかし全身全霊の力を込めて、貴族に相応しい振る舞いを、と己を鼓舞し優雅な笑みを浮かべるとイザベラは隣の席に腰掛ける男に挨拶をする。会いたくない人間の中ではまだまともな方のリディックで良かったのかどうか。さっと視線をクラス内に向けても、いい思い出がない男は彼くらいで、他は然程印象に残る様なタイプではなかった。

 修道院送りはさせられたものの、まだ、まだまともな対応をしてきたこの男ならば精神的なダメージは少ない。あの魔導士の息子でなくて本当に安心したというのが本音だ。

「俺を知っているのか」

「もちろん。お父様からお話を伺っておりましたの。姿絵を見させていただいておりましたので」

 実際、父親は婚約者を選別しようと山ほどの姿絵をイザベラの前に積み上げた。その中に入っていたので嘘は言っていない。もっとも、彼がどんな性格でどんな弱さを持っているのかはこれまでの経験で学んでいたので彼の琴線に触れないよう、同じクラスに在籍しているだけの関係という事を保っていこうとは思っている。迂闊な事をしてまたあの令嬢に関与したくはない。

 特に会話が続くわけでもなくこれで終了。笑みを浮かべてすっと前を向けばそれ以上語り掛ける事は出来ない。

 すぐに担任となる教師が教室の中に入ってくる。中年のどこか人の良さそうな、しかしああいった手合いは油断すると手を噛まれてしまうタイプだとイザベラは密かに判断していた。家にもこういったタイプの貴族が来る事もあったが身分をひけらかす様な貴族よりも父は警戒してやり取りをしていた、人の良さそうな貴族は実際虎視眈々と権力者の懐に潜り込んでうまく立ち回っていた。

「ご入学おめでとうございます。皆様にはこれから三年間学んでいただくことになりますが、どうぞ最後まで頑張ってくださいね。ではこれより適性検査を行います」

 適性検査とは、各人が持つ魔力の属性を詳細に定める事で、どの属性に特化しているのか、何が苦手なのかを見る事が出来る。イザベラの場合は水属性に適性があり、火属性は不得手としていた。また光属性は無く、少しだけ闇属性に耐性があるらしいのだが、はるか昔に調べたきりなので今がどうなっているかは分からない。如何せん、前までの人生と異なり死の寸前まで追い詰められて開花させた部分もあるのだ。無理矢理引きずり出された何かがあるかもしれない。

 一人ずつ別の部屋に呼ばれ、イザベラも順番になると教師の誘導でその部屋まで行く。広くはない場所で、机が一つ。椅子が二つ。己が座る椅子と、判別する教官が座る椅子が向かい合わせに。机の上には属性判断の魔水晶石が置かれている。歪み一つない球体の魔水晶石は魔力に反応して色が変化する。両手を魔水晶石の上に掲げ、体の中にある魔力を意識して手から魔水晶石へと流せば、中央から色が変化していく。

 色とその大きさが属性に対しての判別基準となるのだが、まずは眼を思わせる様な鮮やかな水色。これは水属性が種属性であるという事を示している。そして次第に淡い緑が混じり始める。風属性に対しても適性があるという事だ。水晶の八割くらいの大きさにまで広がり、幼い頃よりも遥かに量が増えている事が分かる。これで終わりかと思った瞬間、思わぬ現象が起きた。それらを覆うように魔水晶石の透明部分が突如として紫色に埋め尽くされていく。闇属性の色だ。

「なっ、なんですか、これは」

 手を離そうにも話せない。内側の水色と緑は紫色が囲うようにして紫がゆらゆらと魔水晶石の淵を漂っている。

「ふむ、これは珍しい結果が出たものだ。闇属性の耐性が強いな。種属性ではないから攻撃魔法は使えないだろうが、防御魔法を習得する事が出来るという事だ」

「え…?」

 魔水晶石へ注ぐ魔力に関して、中央と球体の外側では意味合いが異なるのだという。中央になるほどその属性を使って攻撃する事が出来るようになり、外側に行くほど守りの力が強くなるのだという。闇属性耐性と防御魔法というのはイザベラにとって魅力的なものだったが、闇属性は稀なるもので下手をすればそのまま魔導士局に連れていかれてしまう。

「この学園には闇属性の指導が出来る者がいるから、そちらに任せよう。また、この属性の事は表に出さない方がいい。危険だからな」

 さらりとそんな事を言う教官にイザベラは数回瞬きをすると、いいのか、と視線で問う。本来であれば連絡しなければならない筈。しかしそれをしないという事の意味が分かっているのだろうか。

「正しく導く事がこの学園の存在意義だ。気にする事はない」

 適性が分かれば基礎魔法はクラスで学ぶものの、己の属性魔法は専属の指導教官がつくのだという。前まではそんな力が無かったので初めて闇属性が指導できる教官がいるのだという事を知った。

 主属性の水とそれに近い風を主軸として、特例として闇属性の魔法の指導をするという事で話はまとまった。短い時間だというのに疲れが出てしまったイザベラだったが、部屋の外へ出た瞬間から己に言い聞かせる。

 イザベラ・ユースティリアはいつでも優雅に微笑み真っ直ぐ背を伸ばして歩く貴族の令嬢なのだ、と。


 イザベラが出てきた小部屋の中に残された教官は誰もいない部屋で一人零す。

「闇属性も稀ながら、この量は尋常ではない……まさか、貴族でありながら、死の淵を覗いたのだろうか」

 それは正しかった。死の淵を覗いたからこそイザベラが内包する魔力の量は豊かになった。それは貴族であれば選ばぬ道。故に教官は恐れる。

「彼女は闇を持つ者を惹きつけるようになるのだろうな」 

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