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悪役令嬢は六回目の人生を始めます  作者: 月森香苗
第一章
3/6

2.令嬢は己に出来る事を始めました

説明だらだら回

 イザベラ・ユースティリアには友人が二人いる。ミーア・ブレイン子爵令嬢とリリア・ヴェイル伯爵令嬢である。ブレイン子爵は小さいながらも鉱山のある領地を有しており、上質な鉱石を採掘し、その中に稀に出てくる宝石を加工し販売している。たいしてヴェイル伯爵家は羊毛の盛んな地域を領地としており、上質な織物から作られる織物製品を販売している。また、ブレイン子爵は軍人となる若者の育成に力を入れており、ヴェイル伯爵は学者の育成に力を入れている。あまり表立ってそれらの功績を出す事はないが、国の根幹を支える人材を育て上げる才能というのは非常に重要である。

「リリア様、ミーア様、ごきげんよう」

 社交界デビューをしていない令嬢は家の名を背負う事がない為、ある程度の自由が許されている。公爵家令嬢のイザベラが母親に強請って小さなお茶会を開く時は何時もこの二人を招いているのだが、本来であればリリアはまだしも、ミーアのような子爵家が公爵家のお茶会に来ること自体、周囲から奇特な目で見られる事は多々あるが、そこは子供の我儘としてどうにかなっているようなものである。

 イザベラの従者であるライは今日も彼女の側で招待客である小さな令嬢二人をもてなしている。

「ライ、アンさんとロックさんにもお願いね」

「かしこまりました、お嬢様」

 リリアの従者であるアンとミーアの従者であるロックの二人はライよりも年上であるが、年下で、しかも爵位が上であるユースティリア家の従者でありかつては子爵の子息であったライのもてなしをいつも恐縮するのだが、ライはお嬢様の命令ですからと譲らない。公爵家だというのに通常とは異なる状況に少しずつ慣れてはきたものの、やはり困ってしまうというのがイザベラとライ以外の共通した認識である。

 五歳で出会い既に二年が経過しイザベラは七歳になった。イザベラの中身は既に何年も人生を繰り返してきたせいで年齢よりも聡明ではあるが、これまで付き合ってきたことがない二人との関係は新鮮で学ぶことは多いのだと感動している。

 かつてのイザベラは公爵家令嬢としての振る舞いをしつづけ、それは家の中でも変わらず本来の姿を誰にも見せた事が無かった。高すぎるプライドと背後にある家というなの権力が彼女の支えであったのだが、この人生は好きに生きるのだと今までにない行動を少しずつしている。

 例えば、汚れるからと忌避していた庭園の土に触れてみたり、食事の支度をする厨房で食材を手にしてみたり。たかがそれくらいということかもしれないが、生まれながらに公爵家の令嬢であったイザベラは完成された物しか触れてこなかった。途中の物と言えばドレスの仮縫いくらいで、料理も何もかも、素材というものに触れる事はなかった。

 しかし、彼女は十七歳を無事にやり過ごせたならばとっととこの国を脱出するなり父の持つ領地に引っ込んで静かに穏やかに人生を過ごすと決めた以上、今まで気にも留めていなかった事を少しだけ気にしようと決意したのだ。

「私ね、初めてお魚に触れたんですの。いつも調理された物しか見たことが無かったから、お魚の姿にびっくりしましたわ」

「イザベラ様、お魚には私たちの体よりも大きなものもいるんですよ」

「まあ、それは本当?」

「はい。とても小さなものからとても大きなものまで。お父様の領地の中には海に面しているところもあり、港に行ったことがありますが、とてもとても大きくてびっくりしてアンに笑われてしまいました」

「リリア様のお家の領地は南にありますものね。私のお父様の領地は北の小さな場所ですから、海を見たことがありません」

「ミーア様、同じですわ。リリア様の領地は牧草地も広がっているという事ですし羨ましいですわ」

「羊が多いですが、牛もいます。ミルクはもちろんですが、チーズやバターも大変美味しくて。アン、渡してくれた?」

 可愛らしいそれも全員同じ年ごろの令嬢たちはお菓子を小さく割りながら口に運んではここ最近の出来事を楽しそうに語り合う。リリアの声掛けに従者であるアンは顔を綻ばせながら頷けば、ライがイザベラそばに寄り膝をつきながらそっと籠を手渡す。

「まあ、これはリリア様の領地で作られたバターとチーズですわね。ありがとうございます。早速料理人にお願いして使わせていただくわ」

「あまり量が出来ずに王都には出していないものですが、イザベラ様が喜んでくださればと思いまして」

 七歳にもなれば言葉遣いもしっかりしてくるもので、イザベラはもとより、リリアもミーアも外見は大変愛らしく取り繕いながら中身はイザベラにつられるようにあっという間に大人びた言い回しをするようになった。

 お茶会への正体はイザベラくらいしか積極的にされてはいないが、最近イザベラとの付き合いが目立ち始めてきた二人にも少しずつ近付こうとして招待する家が出始めた。しかし二人はイザベラへ先に相談をしてその付き合いが良いのか悪いのかを判断するようになっているので実際に参加した回数はほぼない。

「そう言えば、イザベラ様は魔法学の家庭教師はもう招いていますか?」

 この国の国民は魔法を使う事が出来る。それは平民から王族まで身分の貴賤に関わらずだ。家柄などによる爵位基準の身分制度とは別に、魔法を使う者としての序列が存在する。それはいかに魔力を持っているか、その属性が何かに準じている。生まれてすぐに国家は無償で生まれた子供の魔力を調べる。平民程真剣にその検査に取り組むのは、もしも奇跡的な属性を有しているか、有している魔力が膨大で質が良ければその子供には魔導士としての道が示されるからだ。魔導師ともなれば王宮に仕える事が可能となり、暮らしは豊かになる。平民の生活で満足しているものならばいざ知らず、そこから抜け出したいものは生まれたばかりの我が子に全てを賭ける事すらあるのだという。逆に貴族でも上の爵位になればなるほど魔導士の地位に魅力を感じなくなる。国の中でも五本の指に入る大魔導士ならいざ知らず、ただの魔導士ならば爵位の名の方がよほど優遇されるからだ。

 魔力属性は火、水、風、土、光、闇の六種類存在し、闇属性は滅多に生まれる事はなく、もしもその属性があると判断されたならばすぐにでも隔離されてしまう。その魔力の量に関わらず、闇属性は人の心を惑わせ狂わせる力があると認識されているからだ。

「ええ、お父様が少し前から招いてくださっていますの」

 イザベラは水属性の魔力を有している。魔力に頼らずこれまでの人生は過ごしていた。というのも、イザベラの魔力はさほど多くはなく、期待が出来なかったのだ。しかし、魔力というのは実はその量を増やしたりすることが出来る。生まれた時点での量はあくまでも基準であり、それこそ死ぬ気になれば底上げが出来るものだ。ただし、まさに文字通り死ぬ寸前まで追い込まれた時、生存本能が身体能力を向上させ魔力の容量を大幅に広げる事がある。しかし、これはリスクが高い為、貴族はしない方法だが、平民は手を出す事がある。

 イザベラは死ぬ寸前まで追い込まれて底上げを狙っていた。

 そんな事を知られてしまえば、この令嬢二人は倒れてしまうので言うつもりはないけれども。


 イザベラがこれからの未来の為に布石は全て打つつもりだった。魔力量の向上、合成魔法の習得、そして何よりも、かつての婚約者たちとの接点を全て断ち切る事。後はメルリア・ダンカー男爵令嬢と絶対に関わり合いにならない事。彼女はイザベラが逃げても避けても容赦なくイザベラの生活に関わろうとしてきたせいで碌な結果にならなかった。それを考えると、今回こそは何がなんでも、公爵家令嬢らしからぬと言われてもいいから全力で逃げるつもりであった。


「リリア様、ミーア様。学園に入学しても一緒ですわよ」

 愛らしく笑うイザベラは、学園で孤立して誰も助けてくれる事なく、逆に知らない罪まで背負わされて死ぬことにはならないだろという打算ももちろんあった。

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