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4.鮎川哲也


「……それで、プラネタリウム自体は40分で終わっちゃったんですよ。なので、適当にご飯食べた後、めったにスカイツリーまで来ることなんてないので、すみだ水族館で魚でも見てきました」


「ふんふん、それで?」


「水族館もなかなかいかないので。魚って見ていると落ち着きますね」


「魚ってゆらゆら揺れてるもんねぇ」


「でもそれ以上にスカイツリー混みすぎですよ。人波で酔うと思いました。ゴールデンウィークも終わったのに。あ、これお土産です。スカイツリー限定の紅茶味のひよこです」


「ありがとう。プラネタリウムはどうだったの?」


「あれはあれで面白かったんですけど、何というかこう、最近のプラネタリウムって、人気声優が愛を語る場所なんですか?」


「いやぁ。俺は行ったことがないからわかんないな。で、雅ちゃんはどんな感じだった?」


「雅? あー、プラネタリウムでは一瞬寝ていましたね。朝、赤くなったり青くなったり、かと思ったら急にトイレまで全力疾走したりして、どうも体調そんなに良くなかったような感じだったんですよ。プラネタリウムで座っていたら良くなったのか、水族館では結構元気になりましたよ」


「へえー。可愛いところあるねぇ」


「今の話で、雅が可愛いと思うところがあったんですか?」


「……………まぁいいや。で、水族館の後は二人でどうしたのさ」

「ソラマチを適当に見てお茶して帰ってきました。雑貨屋見て抹茶飲んで熱帯魚専門店見て、結構面白かったですね。本屋に行って俺は天体観測の入門書買ってきました。専門店がありすぎるから、どこから見ていいか迷うぐらいでしたよ。東毛酪農のソフトクリームとか懐かしい感じがしました。釧路にもああいうのありますからね」


「だーかーらー! 俺が聞きたいのはそれじゃないんだよ!」


「は?」


「君は雅ちゃんとどこまで行ったの!」


「スカイツリーじゃないですか」


「それは知ってるよ! だから、知りたいのはそれじゃないんだよ! 雅ちゃんとどこまでいったの! Aまで行ったのBまで行ったの!? Cだったら流石に俺も怒るけど!」


「何の話ですかそれ!? 出かけるぐらい普通でしょう!」


「は? 知らないの!? つーか分かんないの? 俺、そんなにカマトトに育てた覚えないよ! 自分がヒヨコだからひよこ買ってきたの? 次からシニアに上がるのにヒヨコじゃダメでしょ!」


「だから、それ意味わかんないですって!」


「問答無用! 後で俺に、今日のことを400字詰め原稿用紙30枚ぐらいでレポートを提出しなさい!」


「あーもー、知りません! じゃ、とりあえず俺は部屋に戻ります! 洗濯機は回しておきますから!」


 *


 ……どっと疲労を感じて部屋に戻り、ベッドに座り込んだ。一体何だったんだ、さっきの先生は。なんだか物凄くひどいセクハラを受けたような気がする。今日は「映画館で公開日に先駆けて先行上映していた爆発系映画を見た後ビアガーデンを2件ハシゴした。一人ジンギスカン超サイコー、ビール美味い」って言っていたから楽しく過ごしてきただろうに。


 4時半ごろには電車に乗り、アイスパレス横浜で別れた時にはすっかり暗くなっていた。朝悪そうだった体調が良くなったのはいいことだったが、帰るのが遅くなってしまったのは少し反省した。一緒に行った相手が中学生だからではなく、明日も早くから練習があるからだ。


 帰ってきてすぐに行ったことはジャケットを脱ぐことだった。昨日、先生から高校の入学祝で頂いたものだ。着心地がよくて色も気に入ったので着て行ったけど、少し肩が凝ってしまった気がする。着心地がいいのと着慣れるのは別のものだと知った。


 これがスケートの糧になるかはわからないけれど。


 星は綺麗だった。魚は優雅に泳いでいた。ソラマチは人が多すぎたけど面白かった。


 ……今日のことで残っているのはそれだけじゃない。


 いつものポニーテールじゃなくておろし髪。チェックのワンピース。ヘアピンを付ける仕草。頭に付けたきつねのピンは異様に似合っていた。人工的な夜空を見上げる首の角度。夢中でクラゲを見つめる大きな瞳。スケートはよく飛ばすけど、意外に歩幅が狭い。箸の持ち方が少し独特だった。探し回って見つけた時は本当にほっとしたし、つかんだ手首が思ったより細かったのには驚いた。

 帰りの電車で、疲れて眠ってしまった雅の頭が俺の左肩にかかってきた。その重みは決して嫌じゃない。むしろ……。


 ……言えるわけ、ないだろう。


 これは絶対に口に出して言わない。世界の誰にも秘密だ。



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