表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分の称号は『嫌われ者』です  作者: オタク侍
1/4

プロローグ

夢と現実の違いが判らない。

今、自分は夢を見ているのか判らないが身体がフワフワと軽い。

どうやら夢を見ているのであろう。

夢は良いものだ……。体の疲れと精神的な疲れを癒してくれる。

目が覚めるまでゆっくりと夢の一時を過ごそう。

モヤモヤとした景色が徐々に見慣れた景色に変わっていく。

日常が映し出されると脳が現実と認識してしまうのか夢と現実の境目が判らなくなってしまう。寧ろ夢なのかと疑ってしまう。

キーンコーンカーンコーン―――

チャイムが鳴り響く音が聞こえてハッと我に返る。

「―――違う。夢じゃなくて現実だッ!」

何が夢なのだと急ぎ足で教室へ戻ると大勢の女子達が自分の席を囲っている。

「俺の席に何か用?」

声を掛けると女子達の一人が指で机の上を指している。何事かと思って机の上に目を向けると女子の体操着や制服が置かれている。

「なにこれ?」

「しらばっくれるなよッ!」

「お前が盗んだって聞いてロッカーや机の中と鞄を調べたら出てきたのよ!」

「やっぱり、お前が犯人だったんだ!」

「誤解だよ。俺、盗みなんかしてないよ」

「最低ッ! 私達の服を盗んで何するつもりなおよッ! 変態ッ!」

「最低ッ!」

「女の敵ッ!」

周りから非難の嵐が襲い掛かる。周りに助けを求めようとも誰も目を合わせない。信じてくれない。足が震えながら恐怖の渦にのみ込まれ、何事なのかと野次馬気分で入ってくる他クラスの連中

俺は泣き叫ぶように「違うッ!」と叫んだ。

どうして自分が犯人なのだ……誰か助けてくれ、誰か信じてくれ…自分は犯人じゃない。犯人じゃないッ!

誰か、止めてくれ……時間よ止まってくれッ! 神様、夢で終わらせてくれッ!!!

「夢であってくれぇぇえぇぇぇええッ!!」

荒い息を吐きながら目が覚めた。どうやらこっちが現実のようだ……。

心から良かったと安心するが複雑な気持ちでもあった。

「悪夢を蒸し返されるとは……」

時計はまだ6:00。まだ仕事まで時間はあるので二度寝しようかと布団に潜るが悪夢のせいで目が冴えてしまった。仕方がないので身体を起こして汗で濡れた服を洗濯かごに入れて服を着替える。ポットに火をつけてお湯を作り。戸棚からカップラーメンを取り出す。

「やはり朝はカップラーメンだよな」

お湯を注いで5分間。普通なら3分で食すが自分のこだわりは少し麺がふやけた状態が最高の出来栄え。カップラーメンの食べ方はこうでなくてはならない。そんな下らない拘りを持っている自分こと『相馬 優斗』は先程のまでの悪夢を思い出した。


悪夢は過去に起きた高校の頃に起きた事件である。女生徒の私物が盗まれて大騒ぎされた事件。始めは小さな事件であったが下着さえも盗む悪質な悪戯が繰り出されたことで教員側も重い腰を上げて捜索を開始することを告げた。最悪警察に通報する覚悟も全校生徒に告げたのだ。

その翌日に盗まれた私物が自分の机、ロッカー、鞄から出てきたのだ。誰が考えても真犯人が自分に罪をなすりつけようと企んだ悪質な事件である。結局、証拠不十分で無実であると学校側から処罰は下されなかったが学校中から向けられる犯人扱いされ続けて精神的に疲れて高校へは行けなくなった。


「担当教師が在宅で勉学を見てくれなければ卒業出来なかったな……。」

学校を卒業して3年が経過しても未だに傷は癒えていない。おかげで人と関わるのに恐怖を覚えてしまって、卒業後買い物以外、家の中で過ごしている。一見家族に頼った引きこもりと思われるが、親のすねをかじっているわけではない。きちんと仕事をして生活費を稼いでいる。頼れる兄が回復するまでの間、在宅で出来る仕事を斡旋してくれているので少なからずニートではない。兄のすねをかじっているのではと思うかもしれないがちゃんと働いている……筈?


まあ、細かいことはそこら辺にでも捨て置いといて、仕事を始めよう。

兄の斡旋してくれる仕事は在庫確認書類や役所への申請処理などの事務処理業務。今の世の中ネットさえ繋がっていれば会社に出勤しなくても在宅業務が出来る時代。 事務所類を一通り片付けてフォルダに保存する。

「最後に企業と兄さんにメール送信して完了!」

送信ボタンをクリック――『送信エラー』と表示。

「あれ?」

ネット回線マークが圏外と表示されている。ネットを繋ごうとネットアクセスを試みるが接続が出来なくなっている。

原因を調べようと立ち上がると工事のお知らせと書かれた用紙が机の上に置かれていた。

「今日が工事だったのすっかり忘れていたな……工事が終わるのは夕方か……」

家のネットが使えなければ別の契約している携帯用のワイヤレスを使えば良いのだが容量の都合もあり今月は使えなくなっている。兄に直接取りに来てもらおうと連絡を試みるが電源を切っているのか繋がらない。

「このまま待って間に合わない可能性があるならば、印刷して、郵便局に持って―――ッ?!」

引き出しに保管していた印刷用紙もすっかりなくなっていた。補充しようと通販にお願いしても到着は夕方、通信工事も夕方まで終わらない。 もし書類が間に合わなければ在宅での仕事を回してもらえなくなる。

「仕方ない。必要な備品の補充も兼ねて久しぶりに外に出よう」

出かける準備を済ませて外に出ると久しぶりの太陽は凄まじく、蝉の鳴き声は耳に強烈な音を奏でてくれる。すっかり夏の季節を迎えたことを教えてくれる。

電気街にて印刷用紙を購入して、それ以外は宅配で届けてもらえるように手配を終えて帰ると―――自分を読んでいる声が聞こえた。

「優斗、久しぶり! 元気だったか?」

声を掛けてきたのは高校時代のクラスメイトの『坂本 武蔵』だった。武蔵は高校のムードメーカーで誰とでも仲良いクラスの人気者である。

「久しぶり。俺は元気だよ。武蔵は大学の帰り?」

「ああ、講義も終えて今から友達と遊びに行くところ」

「そうか、じゃあ俺は仕事の途中だから帰るな」

「優斗、今度の土曜日に高校の同窓会が開かれるんだ。そろそろクラスの奴らにも―――」

「悪いッ! 今は…会いたくない」

「そっか。お前の気持ちも考えず先走って……ゴメンな」

「気にしないでくれ。自分の方こそせっかくの機会を断って本当にゴメン。じゃあ、俺仕事に戻るから」

逃げるように友人との別れを告げて家に帰ろうと再び帰路に着く。帰る途中で何やら争っている声が聞こえた。普通ならば関係ないのだが裏の通りから争っている二人の声が聞こえている。一人は野太い男の声だがもう一人は子供の声が聞こえた。

ただ事ではないような胸騒ぎがして裏の通りに入ると男の姿が見えたので声を掛けてみた。

「あの、そこで何を?」

急に声を掛けられて驚いたのか男は振り返ると同時に手に持っていた刃物を自分の顔に向けて突然斬りつけてきた。

「危ないッ!?」

咄嗟に身体が反射して後ろに倒れ込んだおかげで致命傷にはならなかったが額は斬られたのか血が勢いよく流れ落ちる。血が目に入って視界がぼやける。必死に目をこする。

「へへ…覚悟しろ」

近付く男の後ろで子供が倒れている姿が見えた。

「坊や、大丈夫か?」

子どもに呼びかけるが反応しない。よく見ると斬りつけられたのか血が地面に流れて落ちている。血を流しすぎて意識を失っているのかもしれない。早く病院に連れて行かなければ死んでしまう。

「アンタのことを通報するつもりはない。子供の命を助けるために救急車を呼ばせてくれ」

「これから死ぬから必要ねえだろ」

にやけた顔で答える男の回答に黒い感情が脳裏に走る。この男は初めての犯行ではない。何度も行っているからこそ刺すことに躊躇いがないのであろう。そう頭の中で認識を始めると感情が昂り、恐怖が徐々に薄れて強張っていた身体が嘘のように軽くなった。

「アアアアアッ!!」

全身の筋肉を爆発させて体当たりを男にぶつけた。男は体制を崩して仰向けに倒れ込み、その上に腰を下ろすように座り込む。

「テメエッ! どきやがれ」

逃げようとジタバタする男の胸を掴みながら拳を強く顔に叩き付ける。

「貴様ッ―――!?」

男の威嚇を無視するように容赦なく拳を次々と振り下ろす。殺らなければ殺られる―――頭の中はいつの間にか殺意が充満していた。男の声はやがて小さくなり、戦意を失っているのに理性が制御を失い自分の感情と行動が抑えられなくなっていた。だが―――パトカーのサイレン音が自分を正気に戻してくれた。警察がこちらに駆けつけてくれるのを確認するともう終わったのだと安堵を浮かべた直後に新たな危惧の念を抱かされた。 警察は犯人ではなく自分を地面に押さえつけてきた。

「大人しくしろッ!」

「こちら4号車。民間人二人が重傷を負っています。直ぐに救急車に運んでください」

「そいつが子供を刺したんだよッ!」

「大人しくしろッ!」

「違う」と叫んでも警察は話なら後で聞くと一方的に自分を抑え込み、手錠で両腕を拘束して、パトカーに乗せられた。窓の外に目を向けると野次馬連中の突き刺さるような視線を向けられる。

警察が容疑者の確保を伝えて車を発進させた。パトカーの中では警察の事情聴取が行われた。

『こちら刑事課……応答をお願いします』

「こちら4号車」

『救急隊員より連絡がありまして搬送中の被害者の男の子が息を引き取りました―――』

今、何て………?

「……そうですか。判りました。遺族の方には丁重に迎えて下さい」

重々しくマイクを切り、ミラー越しで自分と目を合わせながら子供の死を告げた。

「聴いての通りだ……。お前が怪我を負わせた子供は搬送中に息を引き取ったよ」

「嘘だろ……?」

子供の命を救えなかった事実を耳にして、シャットダウンしたように視界が黒く染まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ