消滅
彼はもともと属していた星が叛逆者によって破裂 しこの星へ流されてきた身で、それに加え等のこ の星でも前期は残酷な生活をしていたと聞いた。 僕はそのとき、彼はきっと徹頭徹尾、慚愧にたえ なかっただろうと感慨無量な思いであった。その 話を僕にした自称“彼の戦友”Aは若干漫罵さも感じ とられる口調でそう言うため、「感慨無量」とさ っき述べたが「呆れた」が全感情の80%を占めて いる気がする。 喫茶店の端っこのあまり目立たない席を敢えて選んでテーブルに伏しているのが今の僕なのだが、A が話していた内容に少し興味をも持ち始めてい た。彼は義侠心に溢れる、僕とは正反対の人間だ。それ故興味を惹かれる。ヒューマニズムと言うのだろうか、彼はそれを有している。有しているという形容では殊更威力が足りないかもしれないほどに。きっと僕が彼と同等の地位に立っていたとしても彼のように脆く愚かな民を救うことは絶対しないだろう。ヒー口ーというのは、あまりにお伽噺の主人公みで溢れかえって寧ろ嫌なヤツでしかない。本当は己の幸福しか頭にないくせ に。諌言でも桐喝でも、してやりたいぐらいだ。注文していたブラックコーヒーを店員が運んできた。「急で失敬。貴方はーをご存知でいらっしゃいますか。」僕はそう問うた。「左様でございます。その方のことは柵になっているほどです。なにもこの星を救ってくれた勇者でございますから。今や膳炎しております。」 「では、彼は今何処にいるんだ。」「それは流石 に存じておりませんが、パートナーのCと一緒におられ るのをお見かけします。よくこの喫茶店にもお二人で来られます。」と、奇遇にも店員が言っている最中に例の二人が店に入ってきた。
嚇下。
僕は彼に目を向けたがAが言っているのとは明らかに矛盾が生じていた。対面するとこんなにも異なるのか。何かが不肖している。実に業腹だ。これが例の”勇者“で、”戦人“で、“真撃な軍人”、なのか。Cというのは彼の隣にいる倭躯なヤツのことなのか。 期待すぎたのかもしれない。でも、予想通りだったのかもしれない。頭が混乱し過ぎているのだ。
軍人がなぜ一般人と一緒に喫茶店で、今迄の血と汗に渉んだ経験が全て泡となって溶けたように寛いでいるのか。これがかの武辺者なのか。 僕はずっとそのことを俎上に載せていた。今の僕には猜疑心しかない。
もともと彼が有していたヒー口ー気質は何処へ言ってしまったのだろう。あの目が眩むような痛々しい歎難辛苦はもう覚えていないのだろう。Aの叙述トリックだったか、僕の臆断か。彼は生涯軍人であるべきなのだ。忘れてはいけないのだ。民を救ったこと、勝利を勝ち取ったこと、高い地位まで上り詰めたこと、その一笑一聾も、忘れてはいけないのだ。所詮ヒー口ー像もAの話も、ただのプロデュースされた事績ではなかろうか。
所詮人間は、時と共に我を忘れていくのだ。一度栄えし者でも必ずや衰え行く。また、正義は捨てられていくのだ。その意味が、自分が嫌う理由がはっきりと分かったような気がした。