夢現
夢って不思議ですよね。
私はよく夢を見る。
夢の中の夢、五感を感じる夢、同じ夢を何度も見たりする。
内容を覚えていることも多い。
現実と地続きだったり、反対に空想としか思えなかったり、リリカルだったり、歪んだ欲望だったり、自分の夢ながらバラエティ豊かで関心する。
夢の中で、これは夢であると気付くこともあった。
そうすると、ある程度夢をコントロールすることができる。
例えば同じ夢を見たとき、前回この道を右に曲がったから、今回は左へ行こうとすると、それが実行されるのだ。
段々と、夢と現実の境が曖昧になってくる。
知人と道で会ったとき、相手は久しぶりと声をかけてきた。
私は昨日会ったのにと不思議に思うが、よくよく考えると、それは夢の中だった。
だから、あのときの出来事もきっと夢だったのだ。
彼女が上気した頬で、はにかみながら私に報告した。
彼と付き合うことになったの、と。
私は一瞬言葉を失ったが、すぐに微笑みを浮かべて祝福した。
彼女は無邪気に喜び、彼から預かってきたと、私に何か手渡した。
それはある映画のDVDだった。
まさか。どうして。
私の驚きを見て、どんな映画なの?と彼女が小首を傾げる。
古いフランスの映画でね、有名な賞も取っていて、私の好きな作家がオマージュしていた小説を読んだことがあって、以前探しているって話したのを覚えていたのね。
ふうん、そうなの、と彼女がつまらなそうにアイスミルクティーをストローでかき回す。
私も平静を装い、アイスコーヒーを飲みながら、あらすじを思い出していた。
一人の男が一人の女に囁く。
「私たちは去年出会いましたが、そのときに一年後に私とここを出ていくと約束しました。それが今なのです」と。
そして今、私の目の前に彼がいる。
あの映画のように。私の右手をとって。
手が届かないと諦めた、憧れの存在。
夢のよう。そうか、これは夢なのね?
彼の口が動く。
約束を覚えてる?迎えに来たよ。
私は戸惑う。
彼女はどうしたの?
あの、かわいらしく小首を傾げる彼女。
誰よりもあなたに愛されていると確信していた彼女。
彼は笑う。
誰のこと?夢でも見ているの?
僕には君しかいないよ。
私は首を振る。
嘘よ。ああ、やっぱり夢ね。
こんな都合良くいくわけないもの。
彼は語る。
僕はずっと君しか見ていないのに、君は僕から逃げたんだ。
だから彼女を選んだ。
君にとって、僕が一番選んでほしくない、かわいいだけの愚かな女の子。
これで、君は彼女と僕を憎み続ける。
僕のことを忘れられなくなる。僕しか見えなくなる。
いつか僕を求める。そう、思ったのに。
君は、夢に逃げた。僕を忘れようとした。
そんなこと許さない。今度こそ君を離さない。
私は知っている。
彼の隠した右手には、よく磨かれたナイフが握られていることも。
鋭い刃先から赤い液体が滴っていることも。
かわいらしい彼女が夢からも現実からも目覚めないことも。
彼は再び私に笑いかける。
じゃあ行こうか。
私は問う。
どこへ?
彼は足を一歩出す。
永遠へ。
私は震える足で後に続く。
幸福だ。これ以上ないくらい、満たされている。
だからこそ。
早く、夢よ、覚めて。
後味、どうでしょう。
自分でも、よくわからなくて。
感想頂けると、とてもありがたいです。
コメントでも構いません。