破壊者
修留の正体明かします
第88話 破壊者
…………へらへら笑う奴だな。
初めてあいつと会った時の感想。
その時の俺は、まだ成長期の途中だったので、背はあいつより低く子供で。……人神の印は、《一種》と呼ばれる小さな一点。
…………出来損ないと言われていた。
『君が僕の新しいゴシュジンサマ?』
牢獄と聞かされていたその庭園で旅に同行させる相手として紹介されたのは、両手両足に鎖を付け、鉄球の重しを引き摺って、首輪を填めた自分よりやや年上の……それでも子供だった。
『僕は修留。よろしく』
へらへら笑ってジャラジャラと鎖を鳴らし、握手をしようと手を差し出してくるそいつ。
『――馴れ馴れしくする気はない』
差し出された手を無視して宣言する。
罪人だと紹介され、命令を違反したら首輪が絞まる様になっていると説明された。
………罪人が媚びを売っている。
出来損ないの落ちこぼれ。
今の自分ならそれがどうしたと開き直るが、その頃の自分は厄介事を押し付けられて体の良い――問題が起きた時に責任を押し付けるためのトカゲの尻尾切りにしか思えなかった。
『そっか。でも僕は仲良くなりたいな』
へらへらとこちらの不機嫌さを物ともせずに笑う姿にこいつは話が通じない馬鹿だとそう結論を出して、媚びてくるそいつを引き連れて旅に出た。
供と聞いていたがこちらの方が立場が上であったし、相手にする必要もないと思っていたので、一人旅のような感覚で過ごしていた。
………過ごすつもりだった。
知識こそあるが経験が伴わない。旅の危険性も知識でしか知らないので、対応するのが遅れる。だが、
『大丈夫?』
その都度無視していた相手が対応して事なきを得る。そうなってくると無視し過ぎるのにも無理があった。
気が付くと、そいつ――修留の声に、
『煩い』
『黙ってろ』
『大人しく出来ないのか』
と冷たいながらも相手にして、修留はドⅯかと思えるくらいその反応でも喜んでいた。
………いつからか自分の言い方に相手の気を悪くさせてないか不安を抱くようになった。
いつからかその起こってない。気分を害してないその反応にほっとしていた。
…………何時しか、こいつが罪人だと言う事実を忘れていた。
♦
「なんだあれ?」
香真が信じられないと呟く。
大きな力。
夜より深い。
闇より鮮やか。
嵐を凝縮させたように風が起こり、吸い込まれるように力の中心に向かって行く。
「修留…」
呼び掛けようとする声は自分の声のわりに弱々しかった。
花蕾が傷を治そうと術をしようとするが、この状態で集中出来ないので上手くいかない。
「あらあら。タイへ~ン♡」
くすくすと笑う女性。
「果鈴。これではわちしの通過儀礼出来なくないかな」
こういう場合どうすればいいのと心配そうな男。
「そうねぇ~。どうしよっか」
鈴を鳴らしたような声。
「どうしよっかって…」
それじゃあ、困るんですけど…。
刹雅の言葉に果鈴と呼ばれた女性は面白がるようにくすくす笑うと、
「冗談よ。結果的に死ねばいいんだから――そこの小鳥が殺しても良しとするわね」
小鳥…。
かちゃっ
「……お前。何者だ?」
混沌の民。とはいったい何者なのか。
「――修留とどういう関係だ?」
銃口を果鈴に向ける。
「ふ~ん」
その様に果鈴は動じない。
「――面白いわね」
不躾にじろじろと見詰めてくる。
「これなら――にいいかもね」
途中が聞き取れなかった。
「でもでもぉ~。あたしよりもぉ~気にしないといけないものがあるんじゃない」
くすっ
その笑いと同時に風は収まる。
風の中心の黒い繭はゆっくり四散していく。
巨大な闇色の翼。
天井まで届くような大きさで少し動かしただけで吹き飛ばされそうになる。
絹のような黒髪はさらさらと床に届くぎりぎりまで伸び、束ねられる事が無き動くたびに棚引く。
顔は大人びたモノ。女性寄りの顔立ちで妖艶さを見せ付ける。
瞳は血のような紅――。
「修留…ですよね……?」
信じられないと呟く声。
「ああ…」
あれは修留だ。
「なんか老けてねえか!?」
失礼な発言だが、そう言いたくもなるだろう。
「………翼が闇色に染まる前の年齢があれぐらいだったそうだ。確か、寿命が迫っていたとの事で、25ぐらいだと言っていたな」
冷静に言葉を返す。
「修留は人神の術によって力を使えば使うほど弱体化して若返る。胎児まで若返らせて消滅させたい当時の上層部の判断だったらしい」
そう、
「聞いていなかったか。もしもの時、自分を殺してくれと」
そう、これが修留が罪人の理由。
「昔話の世界を滅ぼそうとした闇色の翼人。それが、修留だ」
そう、真実を明かした。
グロさは次回に持ち越されました




