暁
補足 紅諒は神社の神主さんのような恰好。修留は中国の官服みたいなのを着てます
第7話 暁
宿の朝は早い。
「うんしょ。よいしょ」
まだ、日が昇らないうちに井戸から水を汲む。
……ここは、人神様の治める土地の端だから無いのだが、中心地では、井戸ではなく家の中に好きなだけ水が出せる道具があるそうだ。
「ほんとにそんな道具があるのかな」
人神様も見た事の無いから、誰かが作ったお話にしか思えない。
「重っ、たい!!」
毎日の事だけど大変だ。桶に水を入れて運ぼうとすると、
「これ、持てばいい?」
ひょいと手が軽くなったと思ったら、小柄な子が軽々と桶を持っている。
その子が今宿に泊まっているお客様で昨日助けてくれた人だと気付き、さああっと青ざめる。
お、お客様に何させたんだろう。しかもこんな子供に。
「気にしなくていいよ。僕が勝手にしてるだけだし」
にこり
綺麗な顔立ちだ。私よりも一つか二つ年下だろう。
……たまに宿に来る客が連れているお稚児さんという子みたいだ。
(お稚児さんというのがそういうだとは知ってるけど、この子もそうなんだろうか)
だとすると相手は……。
(いけないいけない。お客様の事を探索したら)
ぶんぶんと首を振る。
「えっと、お客様」
「修留でいいよ。……普段名前で呼ばれないから呼んでもらえると嬉しいし」
にこっ
綺麗な子が笑うとますます綺麗になるんだなと思ったけど、あどけなさの方が目に映る。
「じゃあ、修留君。……は、どうしてこんな時間に?」
まだ。日が出てない……。
「あっ……!?」
「見に来たんだ」
ゆっくりと昇ってくる朝日。
「朝日が出るのを見るのが好きで、よく見てるんだ。……紅諒と会ってからますます好きになったし」
紅諒?
「あの変な服の人……? って、修留君もそうだね」
袖が大きくてボタンとか付いてない妙な服を着ている人の姿を思い出す。後の二人は普通の服なのに。
「変な服・・・って、あれは紅諒の仕事着。僕の服は身分証明の為の物。どっちも普段から着なきゃいけないんだ」
何着もあるんだよと言われて、仕事の制服なのかと納得する。
そう言えばあの人。髪が黒だと思ったけど光の加減で赤に見えたな。
「深紅だからね。髪の色。初めて会った時に夕日の色と暁の色。どちらがいいかと聞いちゃったんだ」
『綺麗な色だね。沈む夕日かな? 昇る朝日かな? どっちがいい?』
「そしたら、どちらも興味がないと言われたよ」
楽しそうに思い出笑いをしている。
「朝日…」
ぼんやりと話を聞きながらつい思う。
「日は昇るのかな…」
今まさに昇っている。だけど、
「人狩りが居る。昨日助けてもらったけどいつまた来るか分からない…」
夜襲われた話はない。だからこそ思う。
「昇らないで欲しかった……」
少なくても修留達が居てくれた。助けてくれた人が………。
「明けない夜はないよ」
「えっ…!?」
「闇夜は永遠に続かない。闇しか見えなくても暁は昇る」
静かな口調。まるで何かを見付けたような真っ直ぐな眼差し。
「修留君…」
呼び掛けると一転にこやかに笑って、
「遅くなったよね。戻らないと大変だよ」
何かはぐらかされた。そんな気がしたけど何も言えなかった。
修留のターンは続きます