今はまだ水面下
紅諒さん達は登場しません
第70話 今はまだ水面下
ベットの上で昏睡状態になっている痩せ細った老年の男性。
「まだ。死んではだめ」
その近くにはその妻。
「死なないで」
夫の手を握り、囁き続ける憔悴しきったそれは見る者の涙を誘う。
近くで看病している者達にも同様。何としてでも助け出そうとしている医師団を見つつ、伏した夫を案じつつ、夫が居ない間の代行として妻は仕事に戻る。
面会時間はわずか5分。
妻は後ろ髪を曳かれつつ、夫の仕事――政務に向かう。
「――先に行きなさい」
近くに居た側近に声を掛ける。
「ですが…」
迷う側近に、
「一人になりたいの…」
と弱々しい声で告げる。その眼には涙。
夫が弱っている事実を受け入れたくない。でも、受け入れないといけない。
公人として立ちたいけど、少しの間私人としていたい。
そんな葛藤を宿した眼差し。
「――先に行ってます」
側近はそんな弱さを見せられて一人にしようと判断して去っていく。
「妻の鑑だね」
声が降ってくる。
「……悲しいのは本当よ」
誰も居ない。居ても会話に気付かないような術を張り巡らせてある。
「私の計画が終了するまで、生きてもらわないといけないのだから」
薬が効き過ぎよ。
先ほどまでの悲しみに耐えた妻の姿はそこにはない。
「ごめん。ごめん。ここまで効くとは思わなかったよ」
窓から現れたのは一人の女性。
人神の印。
魔人の痣。
翼人の翼。
人の武器。
全ての特徴を持つ、謎の女性。
――混沌の民。
「お散歩は楽しかったのかしら」
妻は毒婦のように妖艶に笑う。
「ああ。昔放置して居た玩具を見付けちゃってね」
くすくす
楽しげに笑う女性は無邪気な子供の様。
「玩具? 駄目じゃない。ごみはごみ箱に捨てておかないと」
その玩具がただの玩具だと思っていない。もちろんごみでもない。
「――で、その玩具がどうしたの?」
女性が興味を引いたという事は放置して居た玩具が面白くなっていたという事だろう。
「あたしの次の器に合いそうなもの見付けてくれてね。ほんと放置しておいてよかった」
あの時、壊すのを止めて正解だったわ。
嗤う声。
「で、貴方がここに来たのは、その玩具で楽しむために何か道具が欲しいからでしょう?」
何が欲しいの?
「よく分かってるわね。人神含む4人組に指名手配出しておいて」
ぱらっ
その4人の描いてある紙を渡す。
その一人――人神を見て、
「これが次の器でしょう?」
「さあ、どうでしょうね」
にこにこ
二人は笑う。
「いいわ。計画上邪魔になりそうだし」
その発言と共に、魔人族の王の妻――王代行の妃は指名手配書を交付した。
「やられた」
その報告を受けた人神の王《華王》は怒りを抑え込もうと小刻みに震えてその交付に目を通していた。
主人公達目線で書きたかったけど無理でした。悪役を最後まだいい悪役で立たせれるといいけど……




