過去の話――阿蛇
阿蛇と香真の特殊な関係
第66話 過去の話――阿蛇
――主
「………気にしてねえよ。あの魔人……混沌の民とやらが先代のやり残した事なんだろう」
――正確には、黒幕だ
そう告げると《阿蛇》は過去に思いを馳せる。
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恨み、憎しみ、悲しみ。怒り、恐怖。そして、僅かに残った悔恨――それが阿蛇を神も魔も倒せる至上の一振りに仕立て上げた。
ただし、阿蛇を使える者はいなかった。
憎しみに呑まれて狂う者。
恨みで敵味方区別がつかなくて殺戮し続ける者。
悲しみで身動きが取れなくなった者。
恐怖で自殺する者。
阿蛇を手に持っているだけでもそんな精神異常がきたすのに、阿蛇から引き離した途端廃人となる。
阿蛇は創られたのはいいが無駄な長物となっていた。
「辛かったな」
阿蛇が封印されていた一角でそんな声がしたのは阿蛇と言う存在に恐れて人が近付かなくなってからだった。
「だけどな。お前のやり方は間違ってるよ」
諭す口調。
「憎しみも怒りもお前のモノだ。それを押し付けるなよ」
勝手な事を言ってそいつは阿蛇を手にする。
「お前の愚痴はオレがいくらでも聞いてやるからさ」
それが、阿蛇の最初の持ち主だった。
阿蛇は最初であって最後になるだろうと思っていた。
彼の者は阿蛇の声が聞こえて、阿蛇の感情に引き摺られない――そんな人間は稀有だった。
持ち主には数人の仲間が居た。
人神と魔人。人間。そして……翼人。
争いの無い世界を作ろうと世界と戦っていた。
阿蛇は幸せだった。
持ち主は阿蛇の心を感じこそしても引き摺られない。
持ち主の仲間も阿蛇を阿蛇として受け入れていた。
「戦いが無くなったら阿蛇は蛇の姿だし、蛇として天寿を全う出来るだろうな」
そんな話をよくしていた。
………そうなると信じていた。
――主
持たないと思った次の持ち主――香真。
――《阿蛇》は目的がある
契約。
――《阿蛇》は先の持ち主の祈りを叶える。そのためにお前を利用する。だが、その代わりお前とお前の大切な者を守る
廃人にならない二人目にそう告げた。
「――守りたい者か。その保証があればいいか」
俺一人じゃ、守れないからな。
「――俺の共犯になるか」
香真の言葉が次の始まりだった。
そして、
香真の身体を操ってその魔人を殺したのも先の持ち主の為だった。
――主は《阿蛇》に甘い
「んっ? いや、許せねえ事したら怒るけど、阿蛇はしないだろう」
やはり、甘い……。
だが、その甘さは《阿蛇》としても次の持ち主にしてもいいと思わせた代物だから長所として受け入れた。
そろそろこの章も終わりです




