寂しがりや
宿での一時
第5話 寂しがりや
「人狩りの目的は、人食いかよ。胸糞悪いな」
二人部屋が二つしか用意できなかったからと案内された部屋の片方――紅諒と修留の部屋に四人は集まる。
「二人部屋だと大の大人三人+お子ちゃまは狭いな」
香真はもう出ていいぞと声を掛けると一匹の蛇が香真の服から出てくる。
出てきた蛇に修留は驚きつつも嫌いではないのでじっと蛇を見て、蛇と友達になろうとしている。
「この町がそうとは限らないがな」
毒蛇だから怒らせるなと修留に注意しつつ、さっき香真がぼやいた言葉に紅諒は答える。
「ねえねえ、人食いって、魔人って人食べるの?」
不思議そうに修留が毒蛇と聞いてビビりつつも何とかコミュニケーションを取ろうと蛇で遊びながら訪ねる。
「ああ」
「じゃあ、人食べないと死んじゃうんじゃないの?」
修留は人食いに関しては嫌悪感はない。
「……趣味嗜好の問題だな」
簡潔に告げると不思議そうに首を傾げ、
「嗜好……?」
「ありたいで言うと代用できるんです」
花蕾が親切に説明する。
「代用…?」
「別に人の肉しか食べられないという事ではなく、食べられないなら、豚、牛、鳥。魚。魔人によっては植物で賄えるのも居ます。その辺は好みとしか言えないですけどね。人が食べられないから飢える。という事でもありません」
それだから禁止に出来たのです。と花蕾の説明に分かったような分からないような困った顔で首を傾げる。
「人間の立場からすると禁止にしてくれて助かるけど、何で禁止にしたんだ?」
それが分からないんだけどと今度は香真が問い掛ける。
「歴史であったでしょう」
「あいにく、学校に行かせてもらってないですからね」
「はあ~。そうでしたか……」
呆れたようにため息を花蕾が付くと、
「翼人ですよ」
「はあ?」
「この世界には三種族しかいないのですが、突然変異で現れた黒い翼の翼人が種族を問わず殺し尽して、三種族は手を組んだのです」
共通の敵が現れたから出来た平和。それが、今も続いてる。
「…翼人って魔人族とかじゃないのか」
「………翼人は、混血種だ」
途中から会話に加わらなかった紅諒が告げる。
「どの種族との婚姻でも巨大な力に耐えられず、肉体から零れた力が羽根のような形になる。不安定で不完全ゆえ、翼人は一部の例外を除いて短命。精神も不安定ゆえ、狂いやすい。そして、そんな不安定さから、能力はどの種族よりも強い」
三種族が協力しないと倒せなかった。そんな存在。
「異種族との婚姻は禁じられているだろう。単に生活環境の違いもあるが、根本的な理由はそれだ」
翼人という破壊者を生み出さないため。
「……」
二人は無言になる。
修留は難しい話に飽きたのか部屋の中をチェックして遊んでいる。
「ところで、いつまでここに居る? さっさと部屋に戻れ」
「オメ~が呼び出したんだろ!?」
「話をしたいと言ったのも紅諒ですよ」
文句を言っている二人を無視して、部屋の外に追い出すと、楽しそうにこちらを見ている修留と目が合う。
「…仲いいね」
「………あいつらは俺に弱みを握られてるからな」
逆らえないだけだ。そう告げると備え付けられてるベットに腰を下ろす。
「嘘ばっかり」
見通すような眼差し。
「修留」
手招きすると近付いてくる気配。
それをそっと抱き寄せる。
「……戻ってくるのが遅い」
二人しか分からない。いや、紅諒だけの勝手な言い分。
「ごめんね」
そっと撫でる気配。
「寂しがらせたね」
紅諒は寂しがり屋だからね。
「勝手な事を言うな」
「安心したよ。僕が居ない間一人じゃなかったから」
優しい口調。見透かす眼差し。
「お帰り」
「ただいま」
香真や花蕾には言わなかったが、この仕事で上司が手を回したから実現した二人の再開であった。
紅諒はツンデレ