与えられた仕事
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第4話 与えられた仕事
「魔人族の王が病で伏しているらしい」
それは、上司に持ってきた書類に印を押してもらおうと中に入ったときに独り言のように告げられた。
「…失礼しました」
聞かなかった事にして部屋から出ようとしたら先手を打たれる。
がしっ
上司の側近二人に押さえ付けられて逃亡を封じられた。
「上司命令だ。聞いてけ」
「断る!!」
どうせ、何か仕事を押し付ける気だろう。
「ったく、お前くらいだぞ。この俺様にそんな態度をとるのは」
他の奴は俺様が声を掛けるのを犬のように待ての状態で聞いてくるぞ。と上司――ちなみな女性なのだが誰よりも男らしと人気だったりする。
「昼間から酒を飲んでいる奴に言われたくない!!」
上司の手にある物を不快気に見つつ告げると、
「失敬だな!! これは酒じゃなくてお酢だぞ。最近体に気を付けてるからな」
「三日坊主になるんじゃねえのか」
この上司ならあり得る。
「ま、ともかく」
「否定しないんだな」
「魔人族の王が病で伏すなんてありえないんだ」
話を元に戻された。
「……何でだ?」
本当は聞きたくないが、
「俺様が元気だからだ」
「はあっ!?」
意味が分からん。
「これは、一部の者しか知らんが、俺様と魔人族の王は対になっている」
「……対?」
初耳だ。一部の者しか知らないなら当然だろうけど。
「いいのか。俺に話して?」
隠しとくべきだろう。
「お前ならいいだろう。出世も権力も欲しいモノがあるから手に入れたいだけで、それさえ手に入れば後はどうでもいいと思っているだろう」
「……」
苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてしまう。
「この世界は、陰と陽で調和している。どちらかが崩れると世界は崩壊する。…そういう仕組みだ」
大きすぎる力は、一つだとその一つが暴走して求められない。二つがそれぞれ牽制し合う事で暴走するのを未然に防げる。
「………」
上司の言葉に嘘はないだろう。
「……魔人族で何かあったんだろうな。人間を食らっていた奴等からすると王は目の上のタンコブ。王のせいで人を食えなくなったからな。病で伏している事で奴らが動き出してる」
「………」
だが、大っぴらに動けない。動くと戦争になり、結局は人に一番被害が出る。
「だから」
「お断りします。そんなの俺がしなくてもしたい輩は多くいるだろう。話術でも外交術でも能力も経験もない俺がじゃなくても」
面倒なのは御免だ。
「失礼しました」
断って出ていこうとする。
「――――と言ったら?」
だが、出ようとした足が止まる。
「――その言葉偽りじゃないだろうな」
口約束や仮定で片付けられたら困る。
「ああ、俺様の身分と名に掛けて約束してやるよ。まあ、あくまでお前の管理下での話だけどな」
管理下…。
『約束。――するから』
あの時から力という者は全て手に入れた。金も技術も権力も使える駒も。
「――その役目。承ります」
答えると、
「ああ、その際。人選、武器はお前の好きにしていいぞ。何なら俺が一筆書いてやる」
なら、ますます使える駒が増えるという事か。
「感謝します」
その命令後、書類仕事は一通り片づけ、使える駒――下僕を回収するのだった。
なんだかんだ上司の事は信頼してます