生きたい 生きたい ……死にたい《後篇》
花蕾の過去話その2
第29話 生きたい 生きたい ……死にたい《後篇》
犯行も抵抗もしなかった”私”の行動に最初は誰も動けなかった。いや、誰も”私”がしたと気付いてなかったのだ。
何者かが侵入したしたと判断して襲ってくる敵を倒せとの声がスピ-カー越しに聞こえて、それに対して笑いが込み合あげてきたのは当然だろう。
・・
………まだ。”私”を味方だと思っているのかと。
驚きに歪む顔を眺め、進んでいく。
『まさか、お前が裏切るとはな』
裏切りに気付いた者がスピーカー越しに話し掛けてきた。
『……裏切り? 違いますよ。復讐の機会を窺ってました』
宣言。もう隠す必要はない。
『復讐。ねえ…復讐のついでに腹も満たしたか。それで純粋に復讐と呼べるのか』
見てみろ。
この結果もまた声の主からすると研究の一環だったのだろう。
『……』
その声に従う必要はなかった。……なかったのだが。
…………振り向いてしまった。
そこに広がるのは白かった壁が赤く染まった光景。
自分の全身と同じように。
『お前の復讐した者はどこに行った?』
くくっ
笑う声。
・・
『なあ、死体はどこに行ったんだ?』
死体……。
問われるまで気付かなかった。
・・・・・・・・
あるはずの死体が転がっていない事を。
『ないよな。当然だ。だって、お前が殺して食っていたからな』
………その言葉があって思い出した。
小さな村だった。魔人の中だ弱い種族だった私達はひっそりと暮らしていた。
元々魚と植物を主食にしていたので、人を食えないと文句を言う事も無く穏やかな日々。
それに終止符を打たれたのは、村の周辺に結界が張られて封じられた時。
『落ち着いて、冷静に行動しよう』
村長の言葉に頷いて、村に会った備蓄を分け、大切に大切に食す日々。
いつまで封じられるのかどうしたら消えるのか不安と戦いながらの結界の調査。
弱い者から死んでいくのは自然の摂理だった。
死んでいく者は死体を残さなかった。いや、その死体を残された者が食べて生き永らえた。
死んだ者の意思を無駄にしないと言い訳をして…場合によっては殺していった。
そうやって、残された者は、”私”だった。
『………』
それを思い出させて足を止めさせようとしたのだろう。
………ユルサナイ
………ホロビヲ
………ワタシタチノクルシミヲ
だけど、勘違いしている。
”私”達は復讐するために生きてきた。
もう混ざって”私”は自分が何か分からなくなっていた。
………………狂っている。そう判断出来るほどに。
血は甘かった。
肉は美味しかった。
人を食べる種族ではなかったのに、人を超え、同じ魔人族の血を食らっていく自分は壊れていた。
それでも生きたかった。
そして、
死にたかった。
すべてを壊した後。空っぽになった”私”は廃墟となったそこをぼんやりと見ていた。
「……上司が破壊してこいと言ってきたがもう壊れてるな」
「なあ、越権的なもので引っ掛かるんじゃねえか?」
そこに近付く気配。
まだ生き残りが居たのかと攻撃をした。だが、
「――生きるのに迷ってるやつの攻撃が効くと思ったのか?」
「攻撃受け止めてんの俺だから!!」
白い剣を持った人間。その後ろの人神。
「……………………殺して」
気付いたら告げていた。
「同族の肉を食べた。私は壊れている。復讐も終わった。……なのに、生きている。自分じゃ死ねない」
美味しそうに見えてしまう。その人間も人神も。
もう、食べたくないのに。
「香真」
「んっ?」
「阿蛇でこいつを貫け。破邪の剣である阿蛇ならこいつの肉を食らいたい欲望を一時的だが消せるだろう」
「……………間違えたらこいつ死ぬんじゃないの?」
二人の言葉の意味は分からなかった。
「………死にたいと言ってるやつを素直に殺すわけないだろう」
…………それが、私と紅諒。香真の出会いだった。
現在に戻ります




