車
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第16話 車
その道は車が通るには適しているが、
「ねえ、紅諒。さっきから同じ道進んでない?」
修留の問い掛けに紅諒は答えない。………そんな余裕がないのだ。
「……………うるさい」
汗をだらだら流し、青ざめた顔でハンドルを握っている紅諒が心配になり、どうすればいいと後ろに座る――修留は他の奴が隣になるのが許せないとの事で助手席に座ってる――香真と花蕾に視線を送ると、
「私もこういうのは………」
本性が出るので無理です。と花蕾。
「香真は?」
「………似たようなのは運転した事あるけど、霊力はどうするんだ? 運転席じゃないと維持出来ないとかあるんじゃないか」
霊力はほとんど無いぞと香真の言葉に。
「それは大丈夫。僕の霊力使うようにセットすれば、僕はもともと運転できないから」
霊力は半端なく強いけどね。
修留の言葉にならいいかと判断して、
「紅諒!!」
「………うるさい。黙ってろ」
目が虚ろで、声がいつもの勢いがない。
「あのね。紅…」
「ハンドルはずっと握っている。アクセルは踏んで固定……」
こちらの話が耳に入ってなかったのか、ぶつぶつと呟く声。
「………」
ああ、こいつを止めないとヤバいと三人が判断して、
「こっ、紅諒!! 僕後ろに座ってみたい」
と我儘と言う形で修留がごねてみる。
「……お前。俺という者がありながら他の奴の隣だと!?」
ああ、めんどくさい彼氏のパターンだと香真と花蕾が呆れると、
「えっ~。だって、運転してると紅諒僕の相手してくれないし、後ろなら席がくっ付いてるから広く使えるし」
寂しいと告げる修留に、
「そ……そうか」
と恋人の甘えと本音に戸惑い。ブレーキを踏んで、
「仕方ないから後ろに行くか」
一人で行けという考えはない。
「じゃあ、俺が運転しますか」
修留お見事です。
二人は声に出さずに褒め称える。だが、
(お願いですから後ろが広いからと言っていちゃつかないでくださいね)
(修留は心配してねえけど、こいつならやりかねん)
二人は口にこそ出さないが。紅諒は信頼している。
だが、修留の正体を知って、修留に対する紅諒の態度を見ると。
((紅諒の色ボケ具合は信用できない))
という結論に達したのだった。
ペーパードライバー紅諒