夢屋
時雨さんとの散歩はなかなか楽しかった。
あそこの主人はなぞかけが好きだとか
あちらのご婦人はいつも何かを探しているとか
流石に今時間に出歩いている人はいなかった…いや、1人…1匹?いた。
「おや。奇遇ですね。夢原さん。」
夢原さん。と時雨さんが呼んだのはバクだった。
バクというものは漫画とかでしか見たことが無かったけれど俺が出会った夢原さんは漫画のバクよりも優しそうな人…いや優しそうなバクだった。
「おはようさん。時雨の旦那。そちらの坊ちゃんは?」
「こちらはシュウくん。誤ってこちらに最近来てしまった人の子でして、私の手伝いをしてもらっています。」
そういって時雨さんは夢原さんに紹介してくれた。
「は、はじめまして。」
「はじめまして。いいこそうな坊ちゃんだ。
ところで旦那。久々に買っていくかい?」
買う…?
「そうですねえ。久々に。」
「よしきた!いいのが入っているんだ。」
夢原さんは背中に背負ったリュックサックから小さな巾着を2つとりだした。
「お金は20鈴で?」
「俺と旦那の仲だ、18鈴にまけとくよ。」
「それはそれは。ありがとうございます。」
時雨さんは巾着を受け取り大きな鈴を一つ。
少し小さい鈴を一つ。さらに小さい鈴を三つ手渡した。
大きさによって金額が違うのだろう。
それにしても…鈴がお金とは…
やはり財布の中はいつも鈴の音がしたりするのだろうか…
夢原さんと別れてから巾着の中身を時雨さんに尋ねてみた。
「ちょっと中を覗いて見ますか?」
巾着を受け取りそっと覗いてみる。
「わぁ…これは…なんですか?」
巾着の中はまるで銀河のような美しい宇宙が広がっていた。
「夢ですよ。」
「え?」
俺の質問に「夢」と答えた時雨さん。
「シュウくんは夢をこういう形で見るのは初めてですかね。夢原さんは夢を集めて売る、夢屋を営んでいるんですよ。」
夢屋…
バクは夢を食べるとは何かで知っていたけれど…まさか売っているとは…
それに…
「夢って、こんな綺麗なんですね。」
ちょっと感動だ。
「今夜はいい夢が見れますよ。これを枕元に置いとくだけです。」
そんな俺に時雨さんは嬉しそうにそういった。