狐
…おかしい。…絶対におかしい。
歩いても歩いても端が見えない。
もうかなり歩いているはずなのに…
まるで同じところをぐるぐると回っているようだ。
…少し…休むか。
試しに道の真ん中に座ってみる。
…石畳の道なため座り心地はあまり良くない。
なにか、ないかな…
…ん?あれは…
店と店の間に小さな切り株があった。
おお…
石よりは柔らかいだろうと近づき腰かけてみた…次の瞬間。
「はーい。いらっしゃーい」
え?
声とともにまたさっきの眩しい光が
現れて…俺はまた反射的に目をつぶった。
「おやっ?これは珍しい。」
っ!?
目を開ければ
「き、狐!?」
「人間のお客様だなんて何年ぶりでしょうか。」
目の前で小豆色の着物を着てメガネをかけた狐がコンコンと笑っていた。
狐ってコンコンって笑うんだな…
っじゃなくて!
「あ、あの…ここは?」
明るい室内にはたくさんのものが飾られていて…あ、招き猫だ。
「ここは私の営んでいる質屋です。貴方が呼んだんですよ?」
え?
「お、俺は何も…」
っ…もしかして…
心当たりは一つだ。
「うちの呼び鈴は切り株でして。」
っ…やっぱり。
「…お客さんはどちらからいらっしゃったんですか?
…ここはお客さんみたいなのが来るべきところじゃない。」
不思議そうに俺を見る狐の主人。
そうだ。…俺は帰らなくちゃいけない。
でも…
俺は恐る恐るここに来てしまった理由を狐の主人に話してみた。
「コンコン。なるほど…わかりました。
君は…ええと?…」
「楠木 秋です。」
「クスノキ…?」
「あの…なにか?」
「いえ…いいお名前ですね。…では、シュウくん。君の話によると多分それは移動の魔法陣
によるものですね。」
「移動の魔法陣…」
そのままだったな…
「ええ。もうすぐここの神様のお祭りがあるのでその準備のために開いていたままだったのでしょう。」
っ!
「じゃ、じゃあ俺は帰れますかっ!?」
理由は理解した。
俺が手伝ったあの人もその準備をしていたのだろう。
「そうですね…魔法陣をもう一度使う時なら…次はお祭り当日ですね。」
「それは…それはいつですか!?」
「…今から5日後の満月の晩です」
5日後…
家族が心配するかもしれない…
学校は…?行方不明扱いになるのだろうか…
一気に不安が押し寄せる。
「心配はいりませんよ。ここの時間は向こうの世界には反映していません。貴方が戻る頃には1分だって時間は進んでいないでしょう。」
顔にでてしまっていたらしい。
狐の主人の言葉に一瞬で不安は吹き飛んだ。
さらに主人は続ける。
「そうだ。5日間、行くところが無いならうちにいませんか?
祭りの前ということもあり手伝いが欲しいと思っていたんです。」
「い、いいんですかっ!」
「もちろん。」
こうして俺は狐の主人の質屋でお世話になることになった。