大福
「そろそろですかね。」
時雨さんの言葉に時計を見れば
時計の針は約束の時間を指していた。
「そうですね。」
面白いことにこの店の時計は数字の代わりに動物が彫られている。
もしかしたらこの世界の時計はみんなこうなのかもしれない。
影坂さんも卯の刻っていってたしな…
「おや。いらっしゃたみたいですよ。」
影坂さんは…おっと、忘れてた。
慌てて借りた眼鏡をかける。
「おはようございます。秋くん。」
「お、おはようございます影坂さん。」
昨日も思ったけれど影坂さんは美人だ。
イケメンと言うより美人だと思う。
「シュウくんをお願いしますね。」
「お任せ下さい。…では、行こうか。」
そう言って影坂さんは胸ポケットから黒い巾着を取り出した。
「大福。出番だよ。」
大…福…?
「ちょっとまっといてー」
ん!?
いったいどこから…
「ふぅ…おはようさん。」
…はい?
黒い巾着から顔を出したのは白くてまん丸の…
…ハムスター?
「おはよう大福。秋くん。この子は大福。」
「お前が秋くんかー
ヒョロっちいなー!モヤシみたいやな。ま、よろしゅうなーもやもやし」
も、もやもやし…
何なんだこの人は
…人じゃないけど。
「すまない秋くん。大福はいつもこうなんだ…」
は、はぁ…
「いよ!狐の兄さん相変わらずイケメンやなあ!」
「あっ!全くお前は…すみません時雨さん。」
…なんか影坂さん振り回されてるな。
「キャー!さっくーコワーイなんちってー!」
「こらっ!お前は…はやく仕事しなさい!」
「しゃーないなーわいのお茶目に付き合ってくれてもええんにー」
「やっとか…秋くん。下がって。」
言われるままに後ろに下がる。
「車?飛行機?ヘリコプター?」
「車で。」
「あーい。」
突然現れた眩しい光に反射的に目をつぶった。
な、なにが…
っ!?
目を開けば目の前には高そうな真っ白い車があった。
まさか…
「どやどや?わいすごいやろー!!」
「大福さん!?」
「大福は悪魔の1種でね。姿を変えることが出来るんだ。」
悪魔ってあんな感じなのか…知らなかったな。
「じゃあ、行こうか。」
「はい!…いってきます!」
時雨さんに手を振って、
俺は不思議な車に乗り込んだ。