思い出
夜。
「明日のためにも今日ははやく寝ましょうか。」
といった時雨さんの言葉通りに
夕食も風呂もすませて布団に入った。
枕元には今朝買った夢の詰まった巾着を置いた。
「彼はその人に今必要な夢を選んで売ってくれるんですよ。
さて…今日はどんな夢でしょうか。」
そう言う時雨さんは子どもみたいで。
なんだか俺まで楽しみになってしまった。
「では、寝ましょうか。
おやすみなさいシュウくん。」
「おやすみなさい。時雨さん。」
眠ることにこんなにわくわくするなんて初めてだ…
そして俺の意識は深く深くへと落ちていった。
「秋。秋おいで。」
…あれは…
「ここ、どこ?………」
銀杏の葉が舞い散る黄色い並木道。
「秋。ここはな、俺の友達がいる世界だ。」
「とも…だち?シュウもっ!シュウもともだちなる!」
小さい頃の俺…?
と誰かが手をつないで歩いている。
「秋。お前ならなれるぞ。なあ、時雨。」
し、ぐれ?
「ええ、もちろんです。忘れないでくれるなら…」
木の影から姿を表したのは美しい金色の髪をした白い着物の男性で。
「シュウ忘れないもん!だから、約束っ!」
男性の長い髪がさらさらと風に揺れる。
ゆーびきーりげんまん…
2人の声が響きわたった。
…これって。
「ゆーびたったっ!」
「秋。そこは指切った、な。」
笑いながらワシャワシャと頭を撫でる人物の顔は眩しくて見えない。
「忘れないでくださいね。シュウくん。」
「うん!約束したもん!」
手をつないで歩いていく3人。
急にその姿がぼやけはじめて…
「忘れないでくださいね。」
その言葉が頭の中に響いた。
…ん?
あ、夢から覚めたのか。
「おはようございます。シュウくん。」
隣の時雨さんは相変わらず早起きで。
「おはようございます。時雨さん。」
「夢はどうでしたか?」
「そうですね…なんだか懐かしい夢でした。
小さな俺が銀杏並木で…指切りをしていて…」
「それは…誰と?」
それは…
そうだ。あれは…
「…時雨さん。貴方とです。」
「思い出してくれたんですね。」
ハッとして時雨さんを見る。
「っやっぱり…貴方だったんですね。」
そこにいたのはさっきまでの優しい狐、
ではなく。
「気付いてくれるまで姿を隠していたのですが、さすがですね。」
夢で見たさらさらと揺れる金色の髪。
優しい微笑みは変わらなくて
「時雨さん。」
「はい。シュウくん。」
「遅くなってしまって…すみません。」
約束したのに…
そんな俺に時雨さんは首を振って…
「いいんです。だって、思い出してくれましたから。」
優しく微笑んだ。