影坂朔夜
次にお客さんが来たのはもう日も傾いてきた頃だった。
「いらっしゃいませ!…ってあれ?」
あたりを見回してみる。
確かに今誰かが来た気がしたんだけど…
「お客様ですか?シュウくん。」
俺の声を聞いて時雨さんが裏から出てきた。
「だと思ったんですけど…姿が見えなくて」
勘違いだったのだろうか…
「ああなるほど。シュウくん、こちらを。」
時雨さんはそう言って袖から眼鏡を取り出し、俺に手渡した。
それは銀色のフレームのシンプルなものだった。
「かけてみてください。」
言われた通りかけてみる。度もなにも入っていない。伊達眼鏡なのだろうかと疑問に思った、そのとき。
「えっ!?」
入口の傍を見ればさっきまではいなかったはずの人物が立っていた。
「始めまして…でしょうか。
申しわけない。私は力が弱いものでね。
君に姿が見えなかったようだ。」
それは黒いスーツに身を包んだ若い男性だった。
男性はにっこり微笑んでクイッと眼鏡を押し上げた。
「は、はじめまして。」
「彼は霊体管理局の局長をしている 影坂 朔夜さんです。彼は人間の世界の霊体も管理しているので昨日連絡しておいたのですが、
…さすがですね。こんなに早く来てくれるとは。」
時雨さんの言葉に影坂さんは頭を下げた。
「ありがとうございます。時雨さん。」
そして俺の方を向いた。
「君が、シュウくんだね。話は時雨さんから聞いているよ。そうだな…来た時の話を詳しく聞かせてくれるかな?」
落ち着いた口調安心させるように影坂さんは尋ねた。
「はい。たしか…」
一生懸命記憶をたどる俺の話を、
影坂さんはとても真剣に聞いてくれていた。
「なるほど。多分だけれど…その…君が助けた男性はうちの…局員かもしれない。」
話を終えた俺に影坂さんは複雑そうに言った。