椿の花
「そういや人の子。」
去り際、花蜜さんは何かを思い出したように
足を止めた。
「シュウくんですよ。花蜜。」
呆れたように言う時雨さんに「悪い悪い」
と笑って花蜜さんは続けた。
「シュウ。お前。雪子って知ってるか?」
? …雪子なら…
「うちのおばあちゃんの名前は雪子ですけど…」
そういえば花蜜さんはククッと嬉しそうに
笑って…
「やっぱりな…そっくりだ。」
呟いた。
え?そっくりって…
「シュウ。後でばあちゃんに言っとけ。
花ちゃんがそのうち会いに行くってな。
…忘れんなよ!」
「ちょっ!待っ!…」
慌てて呼び止めようとしたけれど、
すでに花蜜さんの姿は消えていた。
「相変わらずですね。」
そう言って時雨さんは花蜜さんが残したものを拾い俺に手渡した。
「これ…」
それは…真っ赤な椿の花だった。
鮮やかな赤いその花におばあちゃんの言葉を思い出す。
「いいかい。秋。椿の花はね、頭ごと落ちるから悪く思われることがあるけれど、そんなことはないんだよ。花びらみんな何時でも一緒の仲間だから離れ離れにならないように、
みんなで落ちるんだ。」
幼い頃。おばあちゃんは俺にそう教えてくれた。
「だから秋も誰も一人ぼっちにしちゃいけないよ。おばあちゃんの大好きな椿の花みたいにね。」
おばあちゃんは今でもよくその話をしてくれる。
椿の花…
みんな何時でも一緒の花…
「シュウくん?」
「あ、あのっ!これ…もらってもいいですか?」
花蜜さんが残した椿の花。
なんだか宝物のような気がして…
大切に、残しておきたくて…
「もちろんですよ。」
そんな俺に時雨さんは微笑んでくれて。
あれ?
一瞬。その笑顔が誰かと重なって…
「シュウくん?私の顔になにかついていましたか?」
「い、いえ!ありがとうございます!」
多分…気のせいかな…