第2話:名前
彼女が僕に、名前をつけてくれると言ってくれた。
「名前…?本当に?」
記憶を失ってから、初めて出会った人に名前をつけて貰える。
それは、親から名を貰うとき以上に嬉しかった。
「うん。何か希望はある?」
「特に何も。エリーが決めてよ。」
「じゃあ、『ウィン』って名前はどう?わたし、あなたを看病するときずっとあなたのことを『ウィン』って呼んでたの。」
ウィン。僕はその名前の響きに何処か懐かしいものを感じた。
「『ウィン』…良い名だ。ありがとう。でも、看病って?そうだ、どうして僕はここにいるの?」
そうだ。僕は初めの疑問を忘れていた。
ここは何処?そして何故ここにいる?
恐る恐る、彼女に聞いてみた。
「ウィンは…」
彼女の顔が曇る。
「ウィンは、海岸に流れ着いていたの… 心臓に剣が突き刺さったまま…死んでいたの。」
「えっ?」
僕は死んでいた?
鎧の左胸辺りを見てみると、確かに切れ目があった。
そしてそれは、鎧の後ろにもあった。
そう。エリーの言う通り、僕は剣で心臓を貫かれていた。
でも、生きている。何故?
エリーは確かに『死んでいた』と言ったはずだ。
まさか、ここは天国?それとも地獄?
「でも、わたしが蘇生したの。」
「蘇…生?」
僕には彼女が言ったことが理解できなかった。
この世界に蘇生なんてできるはずがない。
そう思った。
「そう。蘇生よ。大変だったんだから。」
僕は、僕の暗い心を照らそうとして笑う彼女を『白い風』が取り巻いている様に見えた。