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私が追い求める美少年像

「イケメン、イケメン、イケメン!!リサーチ通り今年も顔面偏差値の高い学校ね!新入生が初々しいわ!!…はあ、でももう高校三年…これも最後、か…。」


三階の窓からイケメン専用オペラグラスで男子生徒を舐めるように全身をこと細やかに見定める。


最後の年の最初の行事が始まってしまった。大いに悲しみに暮れているがいつまでもしていられない。


「まあそんなことどうでもいいの、今が大事ね!…ふふ…うふふふふふ…おーっほっほっほっ!!…つい興奮してしま、おっといけない涎が垂れ流し。」


最近買った可愛さに溢れたハンカチに手を伸ばすがその手は宙を掴む。

まだ一日は始まったばかり。イケメンに渡す機会がもしかするとあるかもしれないと彼女は一瞬思い悩み、ティッシュに変えた。


彼女の顔は上の上、誰をも魅了してしまう美少女である。

そのためかどうかは分からないが男の好みは完全なる面食いであった。


しかしなまじ中身が大変気持ち悪い。今もまさに緩みきった顔を隠そうともせず鼻息を荒くし新入生たちを観察している。


「1に顔、2に顔、3に下半身、頑張れ和泉麗子。イケメンの神様は私に微笑む!」


しかし至福の時は朝礼の鐘に邪魔をされる。


「あ?」


時計塔から鐘を突き落とそうかと本気で考えたかどう足掻いても無理な話だ。


「早すぎない?!」


その他諸々悪態をついてみるが、時間は進むばかり。

仕方なく、本当に仕方なく、名残惜しいが片付けを始める。


絶好の視姦ポイントである人気の少ない芸術棟は講堂から若干離れている。

素直に急ぎで廊下を渡り階段を降りて行けば遅刻確定、そのため彼女は毎回あることをしている。


「今日も張り切って降りちゃう~♪」


想像は容易い。

ホームセンターで買った命綱で3Fから降りるのだ。

そう芸術棟には人がいないため人目を気にせず出来る。

即興で歌いながら手慣れた動作で命綱を取り付け、窓の枠に手をかけするりと降りてゆく。


「スムージーね~♪あっスムーズよ~♪」


2Fにさしかかり着地の位置を確かめるため地上に目をやると、なんと下には制服が真新しい新入生がさ迷っていた。


「嘘!」


考えもしなかった現状に声をあげる。もちろん新入生は辺りを見渡したのち、声の正体である私を見上げてしまった。


「!?」

「!!」


余りの輝きに息を止めて数秒。


こちらを見上げる男子生徒はとても可憐な外国の少年であった。

白い肌に金髪碧眼、新入生によく見受けられる大きめの制服。美少年のお手本のような男子である。 


一つおしいのは短パンでないこと。


「あっ…!」


そして偶然は偶然を巻き込む。

突風が巻き起こり、体勢を崩していた私はそのまま落ちる…。

そこまではよくあることなので許せる。しかし今はどうだろう?

真下には自分がみとれていた少年が顔面蒼白であわあわと狼狽えている。


「よけて!」


口ではそう言うものの、狙いは少年の頬だ。

一度ロックオンしてしまったのだから仕方がない。あわよくば触れ合いを楽しもうと絶妙な体勢に着地できるよう計算しながら落ちる。


「…っ!…うわあああああっ!」


「…いたい」


見事に命中したが、頬じゃなく唇を奪ってしまった。

しかし少年を怪我させないように自分に負担がいくようにしたため、嬉しさよりも物理的な衝撃が強すぎて転がってしまう。


「だ、大丈夫ですか!?」


「う、え、ええ…。」


いつまでも転がっているわけにもいかず芝生の草をはたき、立ち上がる。


「ごめんなさいね、あなたこそ怪我はありませんか?」


「う、僕はもちろん…!」


真正面からの少年は更に美しかった、この世の大天使降臨である。


全くの偶然の事故とはいえ、唇を奪われてしまったのだ。

顔を赤らめ目をそらす少年。とても扇情的であるが、時間が私たちの運命と会瀬の邪魔をする。


そう二回目の本礼が鳴ってしまった。


「あっ…入学式…」


「迷子になってしまわれたのですよね?間に合うでしょうか…初日から遅刻は嫌ですよね…」


「はい…」


落ち込んだ少年のために足りない脳みそをフル活動させる。


「そうよ!」


稲妻が走ったように閃いた。

この新入生は学校に不馴れ、それに対して私は、近道から穴場まで全てを知り尽くしている。


頭の中でここから穴場までの最速ルートをシュミレーションする。


やることは一つだ。


「おみ足…いえ少し失礼するわ。」

「ちょっ、何してるんですか!降ろして下さい先輩!?恥ずかしいです!重いですよ!」


お姫様だっこ。


一番遅刻しない方法はこれしかなかったことを信じて欲しい。


「行きますよ、初日から新入生を遅刻させるのは先輩として忍びないです。」


助走からの跳躍。世間一般の標準より大幅に長いスカートは中身を見せる隙なぞ一瞬たりともない。


木々を使い高い場所を移動しつつ、周りに見られていないかを確認。


チラリと少年の顔を窺うと目には涙の膜がうっすらと張っている。

舐めたい衝動にかられるが、首に手を回し密着してくれたので今回は勘弁してやろう。


「もう少し、ですよ!」


「どうしてここまで…」


「あなたに(ストーカー対象として)一目惚れしてしまったからです!」


「せ、先輩…!」


それきり、講堂につくまで彼は黙ってしまった。


そして間一髪間に合った少年は俯きながら一言、ありがとうございましたと言って講堂へと駆けていく。


私は素晴らしい出会いを授けてくれたまだ見ぬイケメン神に嬉しの舞を踊っていた。



*****


次回、私ぼっち!

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