殺人鬼と殺人鬼
遠い昔の話をしよう。
あるところに一人の男がいた。
男はそれはそれはマジメで、よく食べよく働きよく眠る。人生を全力で生きていたんだ。
でもある日、男に転機が訪れる。
男の家に盗人が入ったんだ。
偶然男はその時目を覚ましてさ、どうしたと思う?
殺しちゃったんだよ。その盗人を。
これだけならまあ、ありふれた話だね。でも、この話には続きがあるんだ。
男はそれから酷く血を求めるようになったんだ。殺人というものに魅了されてしまったんだよ。
その後、男は様々な人を殺した。
男も女も子供も大人も関係なく、一切合財の区別なく殺した。すべてを平等に殺したんだ。
殺す対象は様々で、殺す手段も色々だった。だけど、そんな男の殺人にもたった一つだけ決まったことがあったんだ。
男は人を殺すとき、必ずこう言ったそうだ。
お前は誰だ?とね。
男がそう言った意味は分からないけれど、きっとそれは男にとって大切なことだったんだろう。男は絶対にそれだけは変えずに言い続けたんだ。
さて、ここでもう一度、男に転機が訪れる。
ある一家を襲い、一人の子供を除いて全員殺したんだってさ。
そしていよいよ、残った子供も殺そうとした時に、男はいつもの言葉を言ったんだ。
お前は誰だ?
その言葉に子供は答えたそうだ。
僕はあなただ。
ってね。
今までこの問いにマトモに答えた人はいなくて、たまに答えた人がいてもそれは不正解だったらしい。
けど男は子供の答えを聞いたとき、笑って言ったんだ。
それが正解なのか。ってさ。
男の言葉に子供も笑った。二人は少しの間笑い合って、そこから。
同時に相手を殺そうとしたんだ。
そしてその結果は。
男の木の棒での殴打が、子供の持っていたナイフが男に刺さるより早く当たった。
子供の方が、負けたんだ。
で、死ぬ間際。子供はこう言ったんだ。
次は必ずあなたを殺す。
男はそれにこう答えた。
その時を楽しみに待ってる。
そして子供はそのまま死んで、男はそれからも多くの人を殺したんだって。
「……ありきたりな話だな」
そう言わないでよ。僕が創った話じゃないんだから。
「それで?結局お前はこの話を俺に聞かせて、何が言いたいんだ?」
うん、だからさ。
「約束を果たそうか、ってことだよ」
「……なるほど。そういうことか」
「そういうことだよ」
「じゃ、殺しあうか」
「そうだね。でも、その前にやっておこうか」
キミは誰だい? なんて僕は言う。
俺はお前だ。 なんてキミは言う。
僕はナイフを突き出し、キミは木の棒を振るう。
先に当たったのは。
「僕の勝ちだよ」
僕のナイフだ。
「やれやれ。こいつはまったく」
傑作だな、とキミが言う。
「次は必ずお前を殺すぜ」
「その時を楽しみに待ってるよ」
そしてキミは死んで、僕は生きる。
これは一人の男と、一人の子供の話。
似てるようで似ていない、壊滅的なまでに同一で破滅的なまでに別物な。
鏡写しの殺人鬼の、終わりのない復讐劇だ。