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9話 勝負の日

「ネルさん、踏み込みが甘い! 剣に力がのっていません」

 

 その言葉と共にシャインの斬撃よって剣が弾き飛ばされる。すぐに落ちた剣を拾い構えを整えた。

 「はっ!」僕は小さく気合を入れ、再度突っ込んでいく。今度はやや大振りぎみに力を乗せて振りぬいていく。

 だが、シャインはそれを身をずらして空を切らせた後、伸びきった腕へすかさず一撃を入れる

「痛ぅ!」痛みでネルの顔が歪んでいく。だがそのまま止まっていては次の攻撃が襲ってくる。すぐさま後方へジャンプを行いシャインが正面になる様に構えを取る。


「ネルさん、大振りは相手に軌道を読まれやすくなる上に、スキが大きくなります。今まで教えてきた型を思い出して下さい。振りは小さくても間接を連動させていけば、自然と剣に力が伝わります。それを忘れないで!」


 シャインは動作1つ1つにアドバイスや修正案を出していく。

 エル兄さんとの勝負を3日後に控えた今日ネルとシャインの訓練は熱を帯びて夕方まで続いた。


「今日は次で最後にしましょう。最後は魔法の使用も認めます」

 

「解りました、では行きます」


 そう言うとネルは体勢を低く構え、100m走のロケットスタートの様に、前かがみな体勢から倒れる風に駆け出していく。

 その時、剣は水平の斬撃を放つ構えのままであった。


「うぉぉぉぉ~!!」


その気合の入った掛け声と共にスピードが更に加速する。シャインは上段の攻撃で迎え撃っていた。

 ネルはシャインの動きを目で追いながらも体勢を変えずに突っ込んでいく、斬撃がネルの頭に接触する瞬間に突然ネルの姿が消えてしまう。

 消えたと同時にシャインの右後方から水平に剣を振りぬくネルを確認した。

 だがシャインは上段から振りぬいた剣をそのまま地面に突き刺し、棒高跳びの要領でジャンプし空中を回転しながらネルを正面に見据える。


「本当にネルさんの魔法は反則ですね!」


 シャインは賛辞とも悪態とも取れる言葉を投げ掛けた。


「シャインさんが使ってもいいって言ったんじゃないですか、まだまだ行きますよ」


 ネルは再びシャインへ向かって切り掛かって行く、右、左、左、上段、と流れる様に繰り出すネルの攻撃は、シャインの助言をしっかりと守っており、小さい振りからしっかりと力を乗せて放ってきている。

 シャインはそれを確認すると、小さく口角を少しだけ上げ、反撃体勢へと移っていく。ネルの連撃は回数を重ねる毎に腕に疲れが溜まっていく、5連撃目の攻撃を繰り出したときシャインは下から上へネルの剣を打ち上げるように払った。

 ネルはバンザイの形になっているが剣は手放していない、それでも構わずシャインは振り払った力を利用し回転回し蹴りをネルの胸へ向けて放つ。

 ネルはバンザイ状態なので交わすのは不可能に思われたのだが、蹴り抜かれる瞬間にまた姿を消した。

 今度は後方でシャインの1m上空から攻撃を仕掛けてきた、シャインの方も遊撃の体勢を取る。


「上空にテレポートするのは悪手です。逃げ道がありませんよ」

 

「解っていますそんな事!」


 その言葉は上空からではなく、シャインに息が掛かりそうな程近くから聞こえてきた。

 シャインの真正面にしゃがむ様に現れたネルは、シャインの腹部へ向け剣を振るっていた。

 ネルが勝ちを意識した瞬間、ネルの振るう剣の動きが止まった。


「おしかったですね、ネルさん」


 シャインが満面な笑顔で言ってくる。


「それはないですよ…… シャインさん」


 がっかりした顔のネル。


 なぜ剣が止まったのか、それはシャインが肘と膝で真剣白刃取を行ったからである。

 その後ネルが両手を上げ降参の構えを取った。


「今日はここまでにしましょう。それにしてもネルさんが魔法を使った場合、格段に戦闘力が上がりますね。1対1の戦闘に置いて、これほど強力な魔法は無いと思います」


 シャインの言葉に対して、ネルは答える。


 「僕は空をズバーって飛んで、上空からガシャーって攻撃したり、遠くから炎をドバーって相手に投げつけたりした方が格好いいと思うんですけどね」


 その言葉をシャインは聴きながら、優しく、賢く、勇気もあるネルだが、こういう所は14歳の少年と思う…… 出来る事ならこのまま真直に成長して欲しいと願っていた。


 ネルが魔法を習得して2年の月日が経っていた、シャインが推測した様にネルの魔法はテレポートであった。

 最初の頃は距離5m程で1度テレポートしただけで倒れそうになっていたが、訓練を積み14歳のネルは15mの距離で一日3回程、また5m以内の距離で一日15回、魔法を使う事が出来るようになっていた。

 このまま訓練を重ねていけば、移動距離や使用回数さらに応用魔法まで行使出来るようになると思われた。

 またこの魔法は精霊の加護のおかげか解らないが、壁などの障害物を越えてテレポートした時テレポート先に障害物があればその障害物の手前にテレポート出来る事が確認されている。

 ただ、テレポートは生物を持って移動できない事が解った。衣服や武器などなら可能であるが、ノウサや人など命が有る物体の場合はその生物のみ取り残されるようであった。

 今後の訓練によって生物も一緒にテレポート出来るのか? それは解らないままである。


「ネルさん、今日で訓練は終わりにしようと思います。これから3日間は剣を持つ事も魔法を使う事も禁止します」


 突然シャインが提案をする。


「まだ3日前ですよ? どうしてですか?」


 ネルの顔には不安が漂っていた。


「今日まで、私はネルさんの身体を痛め抜いてきました。これから3日間でネルさんの身体を回復させようと思います。回復後は今日までの訓練でも耐える事の出来る強靭な身体へと変わっている筈です」


「シャインさんが言うならその通りなんでしょうけど、僕は3日も暇を潰した事がありません…… どうしたらいいでしょう?」

 

 ネルはそんな事を真剣に悩みだしていた。ネルの7年間は訓練漬けの毎日で在ったが、過酷な運動と新しい知識や技術その両方が、ネルの向上心を炊きつけていた。だからこそ、この辛く長い訓練にも耐える事が出来たのであった。


「ネルさん提案があるのですが、この3日間で旅の支度をしませんか?」

 

 シャインの提案にネルが了解するように頷く。

 そして2人は次の日買い物へ繰り出す事となった。


 次の日、町の入り口の少し手前にある大木の前で落ち合う、2人で町に入り最初に武器やへ入っていく。


「いらっしゃいませ!」


 中年男性店員の声が2人を迎えていた。


「今日は何をお求めで?」


 レシピ通りの言葉である。店員のが美人で体型の良いシャインをいやらしい目で見ているが、それを気にせずシャインが店員へ目的を伝える。


「武具を買いたいので、商品を見せて頂いてもいいですか?」


「構いませんよ、ゆっくりとご覧下さい。よろしかったら好みの武具を言って頂ければこちらで商品を見繕って持ってきますが、如何でしょうか?」


 シャインはその言葉に「結構です!」と返し陳列されている商品を見ていく。ネルが動きやすい様に、重すぎる事もなく、それでいて間接の動きを阻害されない物を探していく。


 見つけたものは、革当と呼ばれる防具で、厚革を重ねた防具であり、表面に手が加えられており外見を良くする為か模様や絵などが書かれている。

 各部位はバラバラのパーツになっていて必要な部分だけ装備する事が可能である。

 それぞの部位には皮ベルトが付いており、そのベルトを締め付ける事によって身体へ装着する。

 シャインはネルの体型合った大きさの革当を、肩・心臓・腕・脛と選びだし、そして自分には腕に巻きつける用の小盾を合わせて購入した。


 そして次に、武器が陳列されている箇所へと向かう、色々な鉱物で鍛え上げられた武器が並んでいる。

 この世界は地球と良く似た性質の鉱物が多くあり、鉄に似た物・鋼に近い物などさまざまな種類の武器を見ていく。シャインが見つけ出したのは、鋼とステンレスが混ざった様な武器であった。

 

「この武器は硬くて、錆びにくい様です。この金属で作られている、武器を選びましょう」

 

 2人は剣が陳列されている場所へ行き、シャインが選んだ鉱物で鍛えられている剣を探した。

 それはすぐに見つかった、金額が高い順にいくつも並べられている。


「シャインさん、金額が高い武器がやっぱり良いんですか?」

 

 何も知らないネルはシャインへ質問を投げ掛ける。


「いえ、この世界武器は全て人の手によって製作されています。鉱物の混ぜる割合、焼入れの温度、叩く回数など色々の要素によって性質が微妙に異なってきます。

 一番金額の高い武器は鉱物の割合が他と違うので、あのように美しく輝いてますが、他に比べると折れやすいですね。」

 

 そう言いながらシャインは、2つ武器を選び抜き購入した。

 その後も雑貨屋などでリュックや水筒などを購入していく姿が幾人もの町の人に目撃され、神童ネル・ダブルと美女の関係を勘ぐる噂話はどんどん広まっていった。


 そして、いよいよ試合当日。約束の時間よりも少し早く2人は練習場へ着いく。練習場には自衛団の人がまばらにいて、ネル達を遠目で見ている。

 エルが練習場を借りる使用目的を伝えていたからであった。


「見物人がいるのか…… 緊張してきました」


 そう言って少しそわそわしているネルにシャインは声を掛ける。


「いつも通り、相手だけを見てやればきっと大丈夫です。自信を持ってください」


 そんなやりとりをしていると、エル兄さんが父達を連れて練習場へ入ってきた。


「お~! ネルはもう居たのか、早いな」

 

 そういいながら笑顔で手を振ってくるエル兄さんの顔が、振っていた手を止め驚愕へとかわる。


「お、お前! その美女は誰なんだ?」


 ネルの横にいるシャインを見つけたからである、近くで見るとシャインは作られた人形の様に整ったかおで、肌も白く髪も輝いている。

 その後、エルだけではなく父や母や兄弟までも驚いていた。

みんなが集まり、ネルがシャインを紹介しようとする前に父が口を開いた。


「ネル、お前が旅に出たいと言っていたのは、その彼女と駆け落ちする為だったのか?」


「母さんに教えてくれていたら、いくらでも協力してあげたのに、どうしてネルは言ってくれなかったの?」


 トンチンカンな事を両親が言い出してきた。


「え~! 違います! 違いますよ! 確かに旅は彼女と一緒に旅をしますけど、駆け落ちとかじゃ……」


 焦った様にしどろもどろに言葉を返してく、そしてシャインの方を向いて何やら確認しその後家族の方へ向き返し説明していった。


「彼女はシャインさんといいます。僕に狩りと剣術を教えてくれた人です。僕は彼女の為に旅にでる事を決めました」

 

 シャインはネルの横に立つ。今はいつも着用している首から腰辺りまでのマントを着ている為、顔と足しか見えない服装である。

 シャインはお辞儀をした後、「失礼します」と言葉を掛けマントの中から左腕を前に出した。

 左腕は肘から先、10cm程度から無くなっている状態で、今は皮布をを巻いて縛っている状態である。それを見た家族が目を広げる。


「彼女は、何かの原因で町の近くに飛ばされて来たんですが、僕は彼女と出会い思いました。彼女を治してあげたい。そして元の場所へ返してあげたいと」


「父さん、この国は広い! どこかにきっと彼女の腕を治せる術士がいるはずです、この国に居なければ、他の国に居るはずなんです」


「それが、ネルの7年間の想いだった訳か……」


 父がポツリと声をだす、そしてエルに声を掛けた。


「エル、手を抜く事はゆるさんぞ! ネルの想いはお前にも伝わった筈だ!」


「解ってるよ、父さん!」


 エルが父へそう答える。その後エルがネルへ言葉をなげる。


「ネル、俺は手を抜かない。お前の気持ちを俺達に見せてくれ!」


「解りました。エル兄さん、僕は全ての力を使ってみんなに示します」


 そして2人は木刀を手に取り向かい合う。


 いま、ネルの7年間が試される時であった。

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