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7話 ネルの魔法!

 太陽も真上に差し、町の方では昼食の為こうばしい香りが漂ってくる頃、基地の中でネルの声だけが響いていた。


「う~ん、こうかな?」


 両手を自分の前に出して、力を込めてみる。


「エイ!」


 ネルの顔が徐々に紅潮を帯びていく。その状態のまま力を入れ続け、ついに……


「ぷっはぁ~! だめだぁ~」


 朝からずっとこの調子である。基地内部の何も無い壁へ向けて練習を続けているのだが、どうも上手く行かない様であった。


「シャインさん、どうやったら魔法がでると思う?」


 椅子に座って、今日新しく購入した本を太ももの上に置きペラペラとページをめくりながら、シャインは答えた。


「今の所、有力な情報は確認できていませんね。以前購入した基本書の方には、頭の中から声が聞こえて、どうすればいいか自然と解る。とありますがその様な声は私達には確認されていません」


 最後までページをめくっていたシャインが本を本棚へ移した。


「今読んでいた本も駄目ですね。実際昨日の光が精霊と言うのも確証出来ていませんし、魔法の事は一度、忘れてみませんか?」


「あれは精霊さんだと思うんですけど……  うん! 解りました!」


 ネルは少し納得がいかないようであったが、気持ちを切り替えて言った。

 そうして二人は日常の訓練へと戻っていく。

 それから、少したったある日、シャインは肉屋へと向かった。


「いらっしゃーい! あ、シャインさん」


「頼まれていた動物を届にきました」


 シャインは頭を下げながら挨拶をする。


 ここはいつも動物を買い取って貰っている、肉屋【ガンツの肉屋】である。


 初めて動物を買い取って貰った日から、シャインはずっとガンツの肉屋で買い取って貰っていた。

 今では店長から注文を受け、定期的に動物を卸す様になっていた。

 シャインにとって数少ない知人の一人であろう。


「あなた~ シャインちゃんが来ましたよ~!」


「お~ 今行く!」


 店の奥から店長ガンツの声がきこえ、すぐにカウンター後ろのドアからガンツが顔をだした。


「シャイン、いつもすまんな」


「いえ、大丈夫です。さっそく確認をお願いできますか?」


「ああ、解った! 今回は他町の同業者からも卸して欲しいって依頼があったせいで、数が多かっただろう?大変じゃなかったか?」


「その位の数は大丈夫です。ではお願いします」


 シャインは肩に担いでいた、大き目の袋から動物を取り出し、カウンターへ並べていく。


「それだけの動物よく担いでこられたな……」


 ガンツは感心した様に言った。並べられた動物の数は小動物であったが、10匹を超えていた。


「鍛えていますから、大丈夫です」


 シャインは表情を変えず淡々と答える。


「よし! 注文通りだ。代金を受け取ってくれ!」


「ありがとうございます。またお願いします」


「次はノウサ5匹だけでいい。よろしく頼むよ」


 シャインは金貨10枚を受け取り、礼をいって店を出て行った。

 その帰りに本屋へ立ち寄る、シャインのいつものコースである。本棚にギッシリと並べられている本に目を通していく。

 シャインが探しているのは、魔法関係の書物であった。


「ほとんど購入した物ばかりですね…… この町ではこれ以上の情報は手に入らないかもしれませんね」


 呟くシャインに声を掛ける人がいた。


「シャインさん いらっしゃい」


 声を掛けて来たのは、店長のおじさんであった。


「おじゃましてます」


「なんでも見ていってくれ。俺の店は半分シャインさんでもっているような物だからな」


 この店は町でたった一軒の本屋であった為、今までシャインは全てこの店で購入していた。


「魔法関係の書物を探していまして、ただ今見た所ほとんど目を通した分なので、新しい物が入ったら又購入します」


「それは丁度良かった。今朝新しい本が入荷した所だよ。まだ並べてないけど、欲しいものがあるか見て行ってくれ」


 店長はカウンター横にある木箱を指差した。シャインは木箱の元へ行き、中を確認する。


「火魔法の有効利用書、これは違いますね。次は精霊魔法全集…… これは一応買っときましょうか。 後一つありましたね。これは手書き本のようですが、術士の心得、精霊魔法の基本的考え方…… これも買いです。すみません、この2冊ください」


 シャインは店長へ声をかけた。


「はいはい。早速ありがとうございます。おや! これ1冊手書き本ですがよろしいですか?」


「大丈夫です。お幾らになりますか?」


「2冊で丁度、金貨10枚ですね」


 シャインは金貨を渡すと購入した2冊を手に取り家路を急いだ。


  基地に帰ると、洞窟前でネルが素振りをしていた。ネルはシャインに気付き声をかける。


「シャインさん、お帰りなさい」


「ネルさん、ただ今帰りました」


 その後、素振りを再開したネルを見守る様に、少し離れた場所へ腰を落して早速購入した本に手を開いた。


 【術士の心得、精霊魔法の基本的考え方】


 この本を購入した者へ。

 これから述べる事は私が研究した結果をまとめた事である。


 精霊と契約を行った者は術士となるが、術士には2つ分類に分かれている。

 それは精霊に使われる者と精霊を使う者。


 【精霊に使われる者】

 これには一般的に術士と呼ばれる。ほとんどの者が分類されている。

 術士は契約後、精霊から呪文を提供され、魔法行使の際に呪文詠唱によって魔法現象が発現する。

 精霊に精神力を呪文を介し捧げる事によって、精霊の力を借りる行為と考えている。

 精神力の捧げる量によって、魔法の威力は増大するが余り多くの精神力を捧げてしまうと。精神の枯渇により、気を失ってしまう。

 次に使われる者は、魔法の種類を精霊が決めると考えられる。どんな魔法を使える様になるかは、精霊しだいという事になる。



 【精霊を使う者】

 ごく稀に精霊を使う者が現れる。今回はその者達を魔法士と呼ばせてもらう。

 魔法士の数は術士1,000人に対して1人か2人現れる程度である。


 魔法士と魔法術士の大きな違いが幾つかある。

 1つ目は魔法を自分が望む事が出来る。自分が欲しい魔法が手に入るという事である。

 2つ目は術士の魔法より精神力を多く使う事である。魔法士が望む魔法はどれも特異である為に精神力を多く使うとも考えられている。

 3つ目として魔法士は魔法行使に呪文は必要とせず、いつでも発動が可能である事。

 術士は精霊から伝えられた呪文を詠唱する事によって、強制的に精神力を吸われ魔法を発現するので発現自体は容易であるが。魔法士の場合は、本人の意思によって精神力を与え魔法を発現させるので、自分が心の奥で望んでいる魔法が何か解らず。そのまま眠らせる魔法士も少なからずいると推測される。


 シャインは本を読みながら、ネルさんは魔法士ではないかと思量する。


 シャインが思いを巡らせ考えている時、シャインの資金源である小型動物園に異変が起こっていた。

 檻の柵が壊されたのである、檻に入っていたのは、魔獣に分類されるサーベルキャットと呼ばれる、獰猛な動物である。サーベルキャットの武器の1つである、鋭い爪で柵である太木を少しずつ削って弱くしていたのだ。


 柵を破り、もっとも近くにいたシャインへ飛び掛ろうとしていた。思案を巡らせていたシャインよりネルの方が一瞬早くそれに気付くとすぐに声を荒げた。


「シャイン! 逃げて~」


 ネルの声と同時に事態を把握したシャインは手に持つ本を投げ捨て、サーベルキャットに対して構えをとる。

 ネルの方も声を上げたと同時にシャインの元へ駆け出していた。シャインとの距離は約5m、一方サーベルキャットとシャインの距離は3m程度。

 普通に考えれば間に合う筈も無い、さらに冷静になって考えてみればネルが何もしなくてもシャインであれば十分対応出来る状態であった。

 だがネルはその時シャインを危険から守りたいと想う気持ち以外何も無かった。


「シャインのもとへ速く!」


 その想いを強く感じた時、ネルが見ている景色が突然変わった。

 目の前にはサーベルキャットがいる。ネルはその状況に何の疑問も感じず、体を大の字の様に広げ体全体を使ってシャインをかばった。


 サーベルキャットは突然現れたネルに驚いたが、シャインへ飛びついていた軌道を修正する事が出来ずにネルへ覆いかぶさる形で接しようとした。その時ネルの右耳の横から風が通り抜けた。

 肌に突き刺さるようなその風は、シャインが手刀を放った風圧であった。

サーベルキャットはネルに覆いかぶさる直前にシャインの手刀によって、ノドを貫かれていた。

 約1m50cmのサーベルキャットはシャインに貫かれたまま動かなくなっている。


「ネルさん! 大丈夫ですか? 何て無茶な事を!」


 シャインの声を聴き、少し安心した顔になったネルは意識が遠のいていく。


「シャインさんを守りたくて……」


 その言葉と共にネルは意識を失った。

 すぐさま、ネルを抱きかかえ脈などを確認する。意識を失っているだけであると解るとシャインは基地内部の毛布に寝かせた。


「私が認識できない程のスピードでネルさんが現れた…… いやそれは不可能な筈! だとしたら、あれが魔法ではないのか?」


 眠るネルを見守るように椅子にすわり思い巡らせていった。


 その後ネルは約1時間位で目を覚ました、また調子が悪いのだろう、頭に手をあてながら起き上がってこない。


「シャインさん……」


「ネルさん、気付かれましたか?」


「シャインさん、僕は一体…… あれは何だったのでしょうか?」


 ネルも自分がやった事を解らずにいるようであった。シャインはネルの上半身だけを起こして、今日買ったばかりの本を渡し魔法士について記載のあったページを広げ、説明をしていく。


「ネルさんは、もしかすると魔法士かもしれませんね」


「ぼくが…… 魔法士……」


 その日は歩けるようになったネルを帰宅するように促し、明日の訓練は休むように言ってきかせた。

 明後日、ネルは元気な姿で基地へ来ていた。


「ネルさん、おはようございます。」


「シャインさん、おはよう!」


 ネルとシャインは笑顔で挨拶をかわす。


「私はネルさんの魔法に心当たりがあります。聴いて頂けますか?」


 その後シャインは自分の導き出した答えをネルに話していく、ネルの魔法はテレポートだろうと。


 理由として幾つか説明していった。

 1つ目として、シャインが認識出来ずに5mの距離を一瞬で移動してきた。

 2つ目として、ネル本人も突然景色が変わったと述べている、時間停止などであったならば景色が止まっている中を動いていく感覚に陥るはずであった。

 3つ目として、使用後にネルが意識を失った事、これは本に記載されてあった精神力の枯渇だと推測された。


 仮説を聴いているネルは自分が魔法士かもしれない期待で興奮しているようであった。


「ネルさん、これから魔法の訓練もやっていきましょう」


 シャインの言葉に強く頷き2人は訓練の為に外へと向かった。

 訓練場へ向かう途中、ネルが思いついたかの様にシャインへ言葉を掛ける。


「あっ! シャインさん、僕が魔法士であるならシャインさんも魔法士じゃないのかな?」


「僕と同じく精霊さんから呪文も貰っていないし……」


「そうかも…… しれませんね。でも私には魔法は必要ありません」


「私には今のままでもネルさんを守る自信もありますが、その私が魔法を必要とした時はネルさんが危険な状態と言う事になります。そうならない事が私の願いです」


 そう言ってシャインはネルへ笑ってみせた。

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