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4話 目的の為に!(ネルの場合)

 シャインとネルの出会いから、今は2ヶ月経っていた。

 現在2人はネルの秘密基地周辺にいるのだが、別行動をとっている。


 今ネルは秘密基地より北へ少しいった場所にいる。途中3m幅程度の川が流れていて、橋が無ければ向こう側へ渡る事が出来ない場所だ。


 そこでネルは一人で走っていた。円形に作られたコースに様々な障害が設置されていて、周囲は約500mもあった。

 シャインの説明ではアスレチックコースと呼ぶらしい。


「ハッハッハ!」


 一定のリズムで呼吸をとりながら、時には速度を加速し場所によっては逆に速度を落とし障害物をかわしていく。


「やっぱり、難しいけどこれは楽しいぞ」


 ネルが今やっている事は、シャインお手製のアスレチックコースによる体力作りである。

 そのコースは子供でも時間を掛ければ、飽きることなく挑戦できる距離であると共に、スタート地点には大きな桶が2個設置されている。

 桶の底には穴が開いて水をいれたら穴から流れ出すのだが、それを止める栓も用意されている。水が入っている方の止栓を抜くともう片方へ水が流れる仕組みで、桶の内壁には1本の線が引いてある。


「この線よりも水が無くなる前に一周を走りきれる様、頑張ってください」


 桶は時間を計測する物であった。


 次にアスレチックコースは普通に綺麗な円周ではなく、途中に迷路や通過中に突然、横から障害物が行く手を阻んできたりする。もっとも困難なのは高低差であった。急斜面の登りは辛く筋肉が悲鳴を上げていく、上りきった先には、到着地点があるのだが、そこからロープ一本で飛び降りなければならなかった。

 高さ5m程度あり、普通の子供には無理である。

 もちろん全ての障害に対して、ネルが怪我をしない様な安全対策はされているのだが、やはり恐怖がこみ上げてくる。しかしネルはシャインと出会った時の思いを胸にジャンプ台から吊るされているロープへ向かってジャンプしていく。


 何故ネルがこのような事をやっているかと言うのは、2ヶ月前に遡る。

 シャインと出会った後、2人は椅子に座りながら今後の事を話していた。ネルは少し乱れた、服を直しシワもなく綺麗な状態である。シャインの服装は飛ばされた時のままの服装で、黒いロングコートを着ていた、腕の部分は当初から設計されていない様で、袖の無いコートであった。その為シャインの綺麗な肌が露出されていた。


「僕は最初にシャインさんの腕を直したいと思います。それと同時にシャインさんの父親の情報や元の場所などを集めていければと考えています。その為には、この町に居たのじゃ駄目です。旅にでて国を周らなければ行けません。この国は広い! きっと何かあるはずです」


 ネルはそう語った。

 とても7歳が言う事ではないのだが、それを聞いたシャインは疑う事なく告げる。


「ネル様の行かれる場所が私の居場所です。お供させて頂きます」


「それでは僕は父に旅に出ると報告してきます。シャインさんはここで待っていてくれますか? それと時間が掛かるかもしれませんので、先に食事にでもパンでも運んできた方がいいですか?」


「ネル様! 私には食事は不要です。ご指示通り、ここで待機していますので、私の事は気になさらず」


「解りました。では僕は一度家に帰ります。それと帰る前に言っておきますが、今後僕の事をネル様と言うのは禁止します。僕はシャインさんの主になったのでは無く友達になったつもりです」


「友達相手に様を付けるのも変ですからね。僕の呼び名はシャインさんにお任せしますので、考えて置いて下さい」


 そう告げるとネルは秘密基地を笑顔で飛び出していった。ネルにそう告げられた。シャインの姿を見ることも無く……

 シャイン方は目を大きく広げ、ネルに待ってくださいと言わんばかりに右手を差し出した状態で固まっていた。


「なんとう指示を……  ネル様は駄目で……  ブツブツブツ、ネルくん……  ボン! 危ないショートしそうになりました……」


 そしてその状態のままシャインは思考の渦へと落ちていった。


 一方ネルの方は、夕方父が帰るのを心待ちにしていた。帰ってきたのを確認したネルは、居間で寛いでいた父のそばへ行き大きな声で話し出した。


「父さんお話があります。聞いてくれませんか?」


「なんだい?」


 包み込む様な優しい視線でネルの目を見つめながら、父はそう答えた。


「実は僕旅に出たいです」


「何故旅に出たい? 旅って何処へ行く?」


「調べたいことがあるからです。たぶん国中を回る事になると思います」


 父の問いにネルは言葉を返していく。

 ネルの事を誰よりも知っている父は、優しい視線のままネルの言葉を途中で遮る事無く最後まで返答を聞いてから言葉を発していた。


「それは今調べないといけないことなのか? もう少し大きくなってからでもやれる事じゃないのかい?」


「いえ、少しでも早く調べたいと思っています。無理を承知でお願いします」


 ネルは父が投げてくる視線から目を逸らさず、そう答えた。


「ネル少しこちらに着なさい」


 そう言って父はネルを自分の傍に来るように促した。


「ネルは賢い子だから知っていると思うが、世の中にはいい人も居るが悪い人もいる」


「はい知っています。だから僕は悪い人には近づきません」


「確かに言葉巧みに言い寄ってくる人には、ネルは騙されないかもしれない。しかし、そうでなかった場合は今のお前には無理だ」


「今から父さんがお前の腕を掴む、ネルはそれをかわして見なさい」


 そういうと次に「行くぞ!」と掛け声を出しすばやく右手を掴んで見せた。その後掴まれたネルの左手は少しも動かす事が出来ずにいた。


「これが大人と子供の力の差だよ。ネルならわかる筈だ」


 そういわれると、ネルは俯き何も言えなくなってしまう。

 泣きそうなっているネルを見ていた父がだが、居た堪れなくなったのだろうか最後には助け舟をだしてくれた。


 父は大きな声で次男のエル兄さんを此方へ呼んだ。そしてエル兄さんに先ほどの経緯を話し聞かせてみせた。


「ネル、父さんが言っている事は当たり前の事だ。それは解るよな?

 たしかにネルには僕たち兄弟も期待している。お前の為に力になれる事があったら、僕は全力を尽くすつもりでさえいる。だからこそ、ネルが無茶をやるなら体を張って止める事も兄である僕の役目だと思っている。ネル、今回の事は残念だけど諦めろ!」


 エル兄さんは、ネルに悟らす様に言葉を繋いだ。ネルには、兄の意見を覆す言葉が浮かんで来なかった。

 その時、エルの言葉を黙って聞いていた父が口を開いた。


「それでエルを呼んだんだ。私はお前が自警団にも入って日頃から体や剣術を鍛えているのも知っているし、団長も才能があると言ってくれているみたいだな! そこでネルがエルと剣術の試合をして勝った場合は旅に出る事を認めよう!

 月に一度、最初の日、エルに勝てない間は認めるわけはいかないぞ。無理な場合は18歳になるまで、大人しく待っていなさい。これが私に出来る最大の譲歩だ!」


 今まで俯いていたネルであったが、父は不可能と思われていた事に微かな可能性を示してくれた。ネルにはそれがどんなに困難な事なのか理解もしていた。

 けれど、その可能性は0では無くなったのである。たとえ1%でも可能性があるなら遣り遂げてみせる。

 新たな決意を秘めた目を、父とエル兄さんに向け、ネルは礼を述べた。


「有難う御座います。少しでも可能性があるなら僕は頑張ります。今すぐは無理かもしれませんが 18歳になる1日でも前に達成してみせます」


 それは、二人が感心するほどに、清清しく力強い宣誓であった。

 その後、部屋に戻るネルの背中を見送った後、父はエルの肩に手を乗せた。


「エル! 悪役になってもらって悪いな。すまんが俺の我侭に付き合ってくれ」


「大丈夫ですよ。僕もあんな良い子をつまらない事で失いたくないから気にしないでください。ネルには悪いけど手を抜く気はありません」


「俺はエルにそこまで言わせる、ネルが可愛そうに思えてきたぞ」


 そう言い合って、二人で笑みを浮かべていた。


 それから時間は進み、みんなが食事を終えた後ネルは家を抜け出していた。

 向かう場所はもちろんシャインの待つ秘密基地である。


「シャインさん、遅くなって御免なさい」


 そう言いながら、ペコリと頭を下げた。


「ネルしゃん…… ヒィッ…… 失礼しつれいしました。ネルさ……ん」


 そういいながらも、一向に目を合わせないシャインを見ながら、ネルは嬉しそうに言った。


「ただいま! シャインさん」


 その後、父との経緯を詳しく説明したのだが説明を聞いたシャインが変になっていた。

 少し待ってくれとネルに伝え、なにやらゴソゴソ木を削っている様である。

 そして、出来上がったのは…… 眼鏡であった。

 その眼鏡を得意げに装着したシャインは、先ほどのシャイな所を微塵も感じさせず。

 僕に向かって、眼鏡を片手でクイクイ動かしながら宣言した。


「ネルさん、そういう事であるなら、私にお任せください。ネルさんを私が鍛えます!」


 ネルは少し気圧されながら、シャインへ聞いた。


「シャインさん…… その…… 有難う御座います。でもその眼鏡は……」


「それは私のデーターに、ネルさん位の男性は知的な眼鏡女子に物事を教わるのが一番効果的であるとあります」


 実に得意げなシャインであった。


 ネルは小さな声でつぶやく。


「シャインさん、それは間違っていると思う!」


 だがそれはシャインへ伝わる事はなかった。


 そして今回の冒頭へと話は移っていく。

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