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38話 アリステ山の戦い その3

 ネルが持つ魔法石は握り拳程度の大きさで重さは20kg程度程ある。テレポートで移動する事も走る事も可能な重さであった。ネルは魔法石をまるで我が子を運ぶかの様に大事に抱えて走る。後ろからは遠距離攻撃が出来るタニアとバッカスが少しでもネル達の負担が軽くなる様にと援護を行ってくれている。タニアはいたる場所へ木を生やしてネル達の防御壁を作り上げる。バッカスは後方から投石を行い注意を引こうとしてくれていた。

 魔法石が爆発した際の影響を受けない様にする為、岩陰からの援護しか出来ないがそれは仕方の無い事であった。

後方からの援護を受け、ネルは走る速度を上げて行く。側面からは魔獣に絡まっていたロープが尻尾を切られ暴れる魔獣に連動するように荒れ狂いながら襲ってくる。だがシャインがネルの前に出てロープを切り裂いて行った。そして2人は遂に魔獣の傍へとたどり着く。

 すぐにネルは魔法石に精神力を注ぎ込んでいくが、最初の変化である青い色にさえ変わることは無かった。

 その間に魔獣ドウラの攻撃は熾烈さを上げていった。口を開き火柱を吐き出す動作に入る、シャインはすかさず強く地を蹴り飛び上がると魔獣の下あごを思い切り蹴り上げた。魔獣の顔が跳ね上がり空に向かって火柱を撒き散らした。

 その間もネルは精神力を注ぎ続ける。たった一瞬の時間だが誰もが固唾を呑んで見守っていた。そして白い石が少しづつ青みを帯びていく。


「もう少しだ……」


 ネルの表情はかなり険しかった。想像以上に精神力を持っていかれているのだろう。魔法石を抱えて精神力を注ぐ事で精一杯という感じであった。そんなネルをシャインは身体を張って守り続ける。

 魔法石に頼らなくてもシャインが魔獣を倒す事は可能であった。だがその後、アイゼンとの戦闘になった場合はエネルギー炉が持たないとシャインはネルと共に飛び出した時に話している。魔法石でアイゼンと魔獣を共に倒すか、魔獣のみを倒してアイゼンをシャインが倒すというのが短時間で2人が決めた作戦であった。

 さらに一瞬で長い時間が経ち魔法石が青になり少しづつ青から色が変わろうとしていたが、突然ネルは片膝を付く。だが魔法石は手放していない気力を振り絞り再度立ち上がり大声をあげた。


「シャインさん、僕の手を握ってください! テレポートで飛びます」


 シャインに向かって手を伸ばすネルの足元には赤い魔法石が転がっていた。魔法石に小さなひび割れが起きているのが見て取れていた。

 シャインは駆け寄りネルの手を握り返した。だが2人の姿は消える事はなかった。

 シャインがネルを見ると吐血を行いながら咳き込んでいた。魔獣との戦いでの魔法の酷使や一度死亡した身体で精神力を大量に消費した事が原因だろう。ネルは苦しそうにしているが、諦めず魔法を使おうとしていた。

 シャインは一瞬、魔法石の方へ目をやり状況を確認していた。魔法石のひび割れは格子状に広がっており。もういつ爆発してもおかしくない状態であった。その瞬間、突然シャインはネルを振り回し出した。遠心力を利用し1回転させた後ロック達が居る岩陰に向かってネルを放りなげる。


「ネルさんをお願いします」


「シャインさん? 何故ですか僕も一緒に!」


「ネルさん貴方は生きてください。それが私の望みです」


 大声で叫ぶシャインの声を聴いたロック達は悲しそうな顔をしながらも頷いていた。ネルは声にならない程小さな声でそう叫んでいた。

 ネルをバッカスが抱きかかえながら空中で受け取り岩陰へ身を隠した。その直後、大きな爆発音が辺りに響き渡る。爆発の衝撃で地面が振るえ耳が壊れそうになる。爆風は恐ろしいほどの熱量を含んでおり、岩陰に隠れている者ですら鎧で身を守っていなければ火傷を負っていたに違いなかった。衝撃が収まった後ロックは岩陰から顔を出して様子を確かめていた。

 そこで見たのは焼き尽くされた魔獣がゆっくりと重力に従い倒れこむ姿であった。だがシャインの姿は確認する事は出来ずにいた。


「最悪だな……。シャインの姿が見えない。それにアイゼンとか言う金属の魔獣もいきてやがる」


 ロックの言葉に全員が息を呑んだ。ネルは治療を受けていたが何とか立ち上がりバッカスが持っていた巨大なハンマーを手に取る。


「バッカスさん、ハンマーをお借りします。アイゼンを倒さないと……。シャインさんが命を賭けて作ってくれた、この状況を無駄には出来ません。

 僕は本当に情けない男だ、一番大事な所で力を出せないなんて……僕のせいでシャインさんが死んだ。僕があの時魔法を使えていたらシャインさんは死なずにすんだ。

 ここでアイゼンを倒さないとシャインさんの死が無駄になります。僕はここで死んでもアイゼンを倒します」


 気力を振り絞って立ち上がるネルの姿を見た一同は同じ思い出アイゼンを見つめる。


「ダン、バッカス、後一分張りだ。解っているな!」


「おう!」「ああ!」


 最初にダン、ロックが飛び出しそれにバッカスが続く、3人はアイゼンを三角形に囲った。最初はダンが攻撃を仕掛ける。アイゼンの動きは当初に比べかなり悪くなっていた。身体の至る所から身体の歪が発生した為だろうか静電気が発せられている。ダンはアイゼンの胸元に上段からの攻撃を当てた。だがアイゼンの身体を切り裂く事は適わず、腹部に回し蹴りを放り込まれ吹き飛ばされていた。

 その攻防の間に詰めていたのはバッカスである。ネルにハンマーを使われている為、今はメイスを両手に持っている。ダンを蹴り飛ばしたアイゼンの背後からメイスでロックの構えている場所へ叩きつけた。バッカスの狙い通りアイゼンはロックの方へと飛ばされていく。ロックはニヤリと笑みを見せ上段からアイゼンを切り裂いた。

 

 「はぁああ!」


 アイゼンは空中で無理やり身体を捻らせ、頭に当たる筈の攻撃を左肩で受け止める。ロックの魔法付加が掛かった攻撃はアイゼンの金属の身体さえも切り裂き左腕が飛ばされていった。


「よし! がぁは!」


 ロックが手応えを感じた瞬間にアイゼンは勢いを殺さずそのまま前進しロックの前で飛び上がり膝で顎を吹き飛ばしていた。ロックの身体が空中に飛ばされ、地上で1度跳ね、2度目の段階でロックは動かなくなっていた。残されたバッカスはメイスを前面に出し構えを直す。

 アイゼンがバッカスに向かって移動している時にネルが前方に突然現れた。ネルは頭を地面の方をむき足が空を向いている状態でそのまま下方から上へ向かってハンマーを振り上げていた。空中に浮かび上がるアイゼンにネルはテレポートを再度行いアイゼンの上空に移動すると、そのまま横へなぎ払う。今度は横へ飛ばされるアイゼンを迎え撃つ形でネルはもう一度地面へ叩き付けた。

 ネルはハンマーを手放し、そのまま前倒れの形で両膝と両手を地面に付け倒れこんだ。


「これでどうだ?」


 これで勝てないなら勝てる見込みが無くなってしまうかと思うほどの強烈な連撃であった。ネルの傍にバッカスが援護に来てくれている。ネルが勝ちを意識した瞬間、ネルとバッカスの身体に衝撃が走ってくる。ネルは同じ体験を一度している。アイゼンの雷による攻撃であった。目で確認する事が出来ず、高威力な攻撃はネルとバッカスを行動不能に陥れる。ネルは一度経験している為か今度は意識を失う事なくギリギリの状態で耐えている。バッカスも当初から持ちえていた体力で何とか耐えている状態であった。

 身体が電気で思うように動かない状況でアイゼンはゆっくりと立ち上がる。そしてネルの前まで来るとそのすらっと伸びた足をギリギリまで引き付け頭に蹴りをはなっていった。

 ネルはかわす事も出来ず、目を瞑っていた。だがネルが想像していた結果は何時になっても来る事はなかった。

 何故ならネルは今抱きかかえられ空中を飛んでいるからであった。抱きかかえた人物の顔をネルは確認する。ネルの目からは大量の涙が溢れている。


「……シャインさん……。生きていてくれたのですね」


「私はネルさんを守る者です。ネルさんを置いて居なくなる事などありえません。さぁ共にアイゼンを倒しましょう!」


 そう言葉に出すシャインの顔もネルに会えた喜びで綻んでいた。




 


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