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37話 アスリカ山の戦い その2

 シャインはアイゼンに向かって手刀を放つが腕で受け止められてしまう。


「今の私ではアイゼンの身体を破壊する事はできない」


 今度は手刀をやめ拳を握り超振動のパンチを繰り出していく。アイゼンの腹部に拳がめり込む身体が九の字に曲がり手応えはあった。だがシャインは腕を捕まれ返しにパンチを受ける


「くぅ! 私よりパワーは上ですか」


 何発かパンチを貰った後、大河に向けて蹴りでぶっ飛ばされた。シャインは空中を勢いよく飛んでいく、着地場所は大河なので何とかしないと大河に流される事になる。だがその結果にはならなかった。

 空中に飛ばされているシャインを見つけたのは、魔獣の背中を攻撃していたネルだった。すかさずテレポートでシャインを受け止めると地上へと戻っていた。


「シャインさん、大丈夫ですか?」


「ネルさん、ありがとうございます。アイゼンは見た目以上に強いです。今の私より強いでしょう……」


「シャインさんより強いって!」


 ネルはシャイン以上に強い者がいる事に驚いていた。そんなネルにシャインは宣言する。


「大丈夫です。アイゼンは私が倒します」


 ネルは両手をシャインの肩に置き瞳を見据えて首を左右に振った。


「シャインさん、今度は2人で倒しましょう。僕達はどんな事にも共に立ち向かうと決めた筈ですよ」


「そうでしたね。では共にアイゼンを破壊しましょう」


 シャインの言葉にネルも頷き、魔獣の背中を2人で駆け上がっていく。


 その時、ロック達は苦戦を強いられていた。今はバッカスも全弾使い果たしていて為、前線にてハンマーを振り上げ攻撃を加えていた。ロックとバッカスが攻撃を与えているが魔獣ドウラが倒れる様子も無かった。


「右舷から尻尾の攻撃が来ます。回避してください」


 ダンの声に合わせて一度、退避を行ったロックは疲れた様子でバッカスに愚痴をこぼしていた。


「くそ! この化け物が、幾ら斬っても全然効いていない。こんな魔獣どうやって倒せばいいんだ」


「ロック隊長、精神力の使いすぎに注意して下さい。俺達、前線が倒れたらもう魔獣は倒せませんから」


「それは解っている。それとあの夫婦は今どこにいる?」


「夫婦? ああ! ネルさんとシャインさんですか、魔獣の頭部に居る金属生命体と交戦しているとダンから聞いている。あっちもかなり苦戦している様だ」


「ヘッ! 上が楽なのか下が楽なのか解らんな」


「どっちも辛い状況でしょう。ロック隊長、もうひと頑張り頼みますよ」


 バッカスはそう言ってロックの背中を押した。


 一方、ネルとシャインは攻めあぐねていた。攻撃は当たるがアイゼンの金属の身体は堅く攻撃が通らない状況が続いていた。

 ネルは近距離のテレポートと随所に使いながら攻撃を続ける。シャインもネルの攻撃の合間を縫ってアイゼンを攻め立てていった。2人は一箇所に攻撃を集中しながら部分破壊を試みている。アイゼンもそれは解っているが、テレポートにより突然襲ってくるネルの攻撃に手間取っている様子であった。

 だがその交防にも変化が訪れる。ネルとシャインは前後同時攻撃でアイゼンを攻撃していた。執拗に右肩間接を狙い続けている。何度目かの攻撃を仕掛けたとき、突然シャインとネルの動きが止まる。ネルは剣を通じて、シャインはアイゼンの攻撃を防御した時に体内電気を流されたのである。体に電流が走り衝撃が襲った。


「ガァ!」


 ネルはその場に倒れこんだ、ピクリともしないネルを見てシャインの動きも止まる。その瞬間アイゼンの蹴りがシャインを襲った。数m飛ばされるシャインの目には動かないネルしか映っていなかった。


「ネルさんが、死んでしまう。私の力が足りずに……。 私に力を……。彼を助ける力を下さい」


 シャインは飛ばされている最中にも関わらす。ただその願いだけを口ずさんでいた。

 蹴りの勢いで一度魔獣の背中に弾かれ再度空中に飛ばされている時にシャインの体が光りだした。


 「システムチェック……。エラー確認、60箇所……。自己修復モード起動……。エラー修復100%完了、システムオールグリーン……。左腕は破損箇所パーツ不足により以降の修復不可」


 シャインは二度目の空中で体勢を整え着地をする。


「一体何が起こっているのですか? エネルギー炉の出力が異常な数値を出していますが、今は関係ありません。早くネルさんを助けなければ」


 シャインは右手を手刀モードに切り替えて、駆け出していった。以前よりも倍近いスピードで迫るシャインはアイゼンの右腕に突きを放った。攻撃はアイゼンの硬い金属の身体を貫き右腕を肩の部分から弾き飛ばした。

 シャインはそのままネルを担ぎ上げ、その場から走り去る。向かう場所はニコラいる場所だ。


「心臓が停止している。急がなければ」


 シャインはニコラの元へたどり着くと、状況を説明し鎧を脱がす。


「ネルさんの心臓が停止しています。回復魔法で対応可能ですか?」


「ネルが死んでいるのか?」


 驚きの声の上げたのは、傍にいたタニアであった。そしてニコラの返事は重かった。


「すみません……。死んでいる者を蘇生する事は出来ません」


 シャインはその言葉を聞いた瞬間に次の行動へと移す。


「生きていれば治せると言う事ですね。今から心肺蘇生を行います」


 シャインはネルの胸の中心に手を当て手が沈むくらい何度も押し込む。そして気道を確保し人工呼吸を始めた。


「アワワ! 口付けして生き返るのか?」


 タニアは赤い顔をしながら見当違いの言葉を発する。シャインはタニアに相手することも無く。その動作を何度も繰り返す。


「うっ!」


 するとネルが唸り声と共に反応する。シャインはすかさずニコラに回復魔法を掛ける様願い出た。


「ネルさんの胸骨は今の処置で骨折しています。回復魔法をお願いできますか?」


 ニコラは生き返ったネルに驚いていたが、シャインの指示に頷きネルの胸に手を当て詠唱を唱えた。青白かったネルの顔に赤みが帯びていく。すぐにネルは目を開きシャイン達を見据えた。


「僕は一体……?」


「ネル、お前は死んでいた。でもシャインが口付けでお前を生き返らせた」


 説明したのはタニアであったが、赤面しながら何故か口付けを強調している。


「シャインさんが僕を助けてくれた……」


 ネルはシャインを見つめていた。


「シャインさん、ありがとう御座います」


「いえ、私は出来る事をしただけです。回復したのはネルさんが生きたいと思う意志の強さです」


 そう言いうシャインの表情は安堵に包まれていた。


「ぐぁぁぁ~」


 魔獣の方向で叫び声が上がる。ネル達は声の方へ顔を向けた。ロックとバッカスが魔獣に吹き飛ばされていた。縛っていたロープに負荷が掛りすぎ次々に切断していったのである。自由になった魔獣の攻撃が2人を襲った為であった。ダンがすかさず2人の元へ駆け出しているが、魔獣は追撃の準備に入っている。その状況を確認したシャインはその場を風の如く飛び出していった。

 ダンと共に2人の前に到着したシャインはダンに声を掛ける。


「貴方はロックを担いで一度引きなさい。バッカスは私が連れて行きます」


 魔獣は尻尾を横払いに振り上げシャイン達を一斉になぎ払おうとしていた。シャインは手刀に力を込める。そして、迫り来る尻尾に手刀を叩き込んだ。

 魔獣は雄叫びを上げ今まで異常に暴れだした。そして尻尾は切断され回りに血を撒き散らしている。


「今です。運びますよ」


 シャインはバッカスを担ぐとネルの元へ駆け出していった。そしてニコラがロックとバッカスの治療へと入る。


「お前は一体何者だ?」


 同じ質問を何度しているのだろう、ダンは驚愕の顔でシャインに突っかかる。ネルはシャインの方を見て問いかけた。


「もしかして、これがシャインさんの魔法ですか?」


「はい、魔法の力です。……ですがこの魔法は長く使えそうにありません。今は魔法を使っていませんが、負担が大きすぎて体(エネルギー炉)が持たない。後使えるのは一度です。一気に勝負を決める必要があります」


「シャイン、ネル、ならいい物があるぜ。危険だがもうこれに掛けるしか無い」


 声を掛けて来たのは、治療を終えたロックであった。

 ロックは小さな箱を取り出し、蓋を開けた。中に入っていたのは魔法石である。


「これは新種の無属性魔法石だ。最近、商人のフィルター氏が所有するライト鉱山から見つかった物だ。この魔法石は解らない事だらけの物だった。今までの魔法石と勝手が違い過ぎたんだ。まだ全部解明されていないが、2つだけ解っている事がある。

 1つはこの魔法石に許容異常の魔力を注ぐと爆発する事だ。最初は白そして青、最後に赤へと色が変わる。赤になってから少し経つと爆発してしまう。

 もう1つが、この無属性魔法石はそんなに重くない。解るか?この無属性魔法石は軍事目的で利用される可能性が非常に高い危険な物だ。

 フィルター氏は発掘された物を研究用以外は全て国に預けてくれている。そして各部署に少量だけ配られた物を今回黙って持ってきた訳だ。使い方を説明したが秘密にしといてくれよ。一応国家機密だからな。そして傷を負っている今の魔獣になら一撃で倒す可能性があるのもこの魔法石だけだと思う」


 ロックはネルの方を見つめ、考えを伝えた。


「ネル・ダブル、この魔法石を確実に魔獣へ使う事が出来るのはお前だけだ。危険だと思うがお前の魔法なら、この困難を乗り切る事ができると信じている。引き受けてくれるか?」


 ロックは真剣な顔を向けネルの答えを待っていた。ネルもその思いを紳士に受け取り強く頷いた。


「この魔獣はここで倒さないと大変な事になります。僕はこの国を守りたい。僕に出来るのであれば僕はどんな事でもやり切って見せます」


 ネルはそう言うとロックから魔法石を受け取った。鎧を付け直し準備を整えるネルにシャインが声を掛けた。


「ネルさん、私も一緒に行きます」


「でも、シャインさん……」


「私達はどんな事にも共に立ち向かうと決めた筈ですよ」


 シャインが笑顔で語るその言葉にネルも笑顔で頷きかえした。


「行きは精神力を温存する為に魔法は使いません。シャインさん援護お願いします」


「安心してください。私はどんな攻撃からも貴方を守り抜いてみせます」


 そして、ネルはシャインと共に魔法石を抱え魔獣ドウラへ向かって走り出した。 

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