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35話 魔獣ドウラとアイゼン

 ネルを含む7人は岩宿で野営の準備を行っていた。山へ入ってから3日目の夜である。今回、討伐に参加した者はネル、シャイン、ロック、バッカス、ニコラ、ダン、タニアの7名である。その誰もが術士であり。戦力的には100名の兵士が束になっても負けない程と思われた。

 当初の話し合いで夜の見張りは2名ずつ交代で行う事となっていた。7名いるので1人は一晩中眠る事ができる。女性が交代で一日休む事となっていた。今日はニコラが見張りに出ていない。

 今回の討伐隊は全員が日頃から鍛えており体力もある、普通なら3日もあれば洞穴に到着している筈だが、魔獣討伐用の道具を台車に乗せて登っている為、登山速度が上がっていなかった。

 順番に見張りを交代していき2番目にネルとシャインが見張りのため岩小屋の外へと出て行く。最初の見張りが起していた焚き火の前に2人並んで座り火を消さない様に枯れ木を投入していく。


「シャインさん、明日には魔獣がいる場所へ到着できそうですね」


「はい、今日と同じ速度で登る事が出来たなら到着できると思います」


「僕達で魔獣を倒す事はできますか?」


「正直、ギリギリの戦いになるかもしれません。この世界には高火力な武器が存在しません。今回はロックの魔法に頼るしか方法は無いでしょう」


「そうですか……。シャインさん、今回は勝手に姿を消したりしないでください。最後まで僕達は一緒ですから……」


 ネルの悲痛な訴えにシャインはネルから目をそらす。


「すみませんでした……。もしアイゼンならネルさんが危険な目に会うと思ったので」


「シャインさんはそれで良いかも知れませんが、僕はシャインさんの力になれないのか? と思って

情けない気持ちになってしまいます」


「そんな事はありません。ネルさんは十分に実力を持っています。今回は私事なので迷惑を掛けたくなかったので……。 すみません、今度からは相談させて頂きます……それでいいですか?」


「はい、僕も何かあれば相談します。シャインさんも相談してください。今回の事はそれで水に流します」


 余り責めるとシャインが萎縮してしまう。と思ったのかネルは顔を笑顔にして、この話題に区切りをつけた。

 色々話している間に交代の時間となり、ネル達は次の見張り役に声を掛けた後そのまま休みを取った。

 次の日の昼過ぎに調査隊がいる洞穴へと到着する。一度中へ入りロックに現状を確認してもらう。


「確かに調査隊の死体だな。シャイン、こいつらを殺した奴がこの近くにいるんだな?」


「洞穴を出て大河の方へ進んだ先にいます。本当に危険な魔獣なので気を引き締めてください」


 各自その言葉に頷き、気合の入った表情を見せていく。その後、大河の傍まで7名は到着する。


「おい! 魔獣居ないじゃないか? 移動したのか?」


 ダンは周りをキョロキョロ見回しながらシャインに声を掛けた。


「黙りなさい。魔獣はまだいます」


 シャインは大河の傍にそびえたつ、けわしい崖の頂上を指差し全員に伝える。


「魔獣はこの崖の上にいます。この崖を登れば到着です」


「シャイン、何言っているんだ? 道具も無くてどうやってこの崖を登るんだ?」


「根性の無い男ですね。私もネルさんもこの崖を上りましたよ」


「なっ!」 「ええ!」


 シャインの発言にその場にいる全員が驚いている。男達は互いに顔を見合いって、登るかどうか考えているようだった。

 その時タニアが手をあげ皆に提案を行う。


「シャイン、この崖の上って結構広いだろ? 私はクラッツと共にそこへ行った事がある。私達の通った経路なら台車も運べる、少し遠回りになるがそこを通って行かないか?」


「それでも構いませんが、時間が掛り夜の戦闘になる位なら明日にした方がいいと思います」


 シャインの返答にタニアは首を左右に振っている。


「大丈夫だ。ここからなら、1鐘位の時間で回れる筈だ」


 タニアの提案に全員が賛成し彼女に先導されながら1鐘後に魔獣の元に辿りついた。

 岩陰に全員が隠れ魔獣の様子を確認していく。ネルが見た時と同じ様に魔獣は大河の傍にいた。尾の部分を大河に浸し動いていない。


 「あの魔獣何やっている?」


 言葉を発したのはロックであったが誰もがそれを考えていたであろう。その答えを見つけるのにそう時間は掛らなかった。


 「皆さん見てください。魔獣の尾を堺に上流側と下流側の水位が明らかに違います」


 ネルは指を差し驚愕の事実を全員に伝えた。


 「本当だ。ネルが言っている通りだ。あの魔獣が水を吸い取っているのか?」


 ロックは意味が解らない様子であった。普通の魔獣が飲む量を遥に凌駕し、しかも口すら付けずにやっているのだ、誰もがロックと同じ意見だろう。

 その答えを示したのはシャインであった。


 「クラッツさんが言っていました。『魔獣ドウラの変異種がいる』と、変異種は魔獣と精霊が契約した時点で起きる変化であるようです。普通なら持ち得ない力を手にすると教えられました。私は一度、このドウラの変異種と戦っています。その時魔獣は口から火を吐きました。たぶんそれが精霊と契約した時に得た力だと思われます。

 なら、水を吸っている訳は何かと言うと、推測でしか有りませんがドウラの頭の上に載っている金属生命体……あれも意思を持っています。もしその生命体が精霊と契約した時に得た魔法だとしたら、辻褄は合って来ると思います」


「頭上の金属生命体……? あれは一体何だ、魔獣なのか?」


 ダンがシャインへ確認してくる。シャインは昨日の夜、アイゼンについて何処まで話せばいいか相談していた。


「あの金属生命体はアイゼンといい。人類を滅ぼす為に行動している筈です。今回も水を絶たせ一気に人々を殺す積もりでしょう。私はこの素晴らしい世界を守る為アイゼンを倒さなければいけません」


「シャイン、お前は一体何者だよ?」


 ダンが発言しているが、ロックもバッカスも他の者達もその答えに興味をもっている素振りであった。


「ネルさん以外に答える気はありません。答えなければ協力しないと言うなら帰ってもらって結構です」


 シャインは昨日言われたように、正直に話すが言いたくない事は言わなくて良いと聞いていた。だがネルは冷たく返すシャインを呆れた様子で見ることしかできなかった。

 沈黙が続く中、舵を切り出したのはロックであった。


「このまま水不足が続けば必ず争いが起きる。さらに乾きによる死亡者も大量に出てくるだろう……。シャインの言うように2体の魔獣が水を吸い取っている事実には変わりは無い。俺達はここで魔獣を倒す必要があると思うが他の者はどうだ?」


 ロックの提案に全員頷き魔獣を倒す作戦を練る。最初にシャインが敵の特性を全員に伝えていく。


「魔獣ドウラは力が強く、敵が近ければ爪や長い首を伸ばして喰い殺しにきます。逆に敵が遠ければ火を吐き焼き払いに来るでしょう。皮膚は非常に硬く、私の剣で切り裂く事はできませんでした。ロック隊長の魔法であれば切ることが出来る筈です。

 次にドウラの頭上に乗っているアイゼンですが、個別で攻撃を仕掛けてきます。頭から離れる事は無かったですが、ドウラと違う動きをしてくると思っていて下さい。私が知っているアイゼンは雷の魔法をはなってきます。現在も放てるかは確認できていません」


 各自、シャインの情報を頭に叩き込み、次は役割分担について決めていく。そして話し合いの結果、次の通りとなった。


 遊撃は敵の注意を引き絶えず攻撃目標を自分に引き付ける。それにはシャイン、ネル、ダンと決まった。

 主力は敵を確実に倒す。それをロック担当する。

 援護は遠距離攻撃や遊撃、主力の援護を行う。それにはタニアと何故かバッカスが担当する。

 最後に救護として、ニコラが担当する事できまった。


 そして戦闘を前に持ってきている武器の説明や作戦を決めていく。


「おし、それじゃ打合せ通りに頼む。魔獣の変異種は本当に危険だ。危ないと思ったら各自分の判断で退避してくれ。くれぐれも無茶をやるんじゃない。自分の精神力に相談しながら役割を果たしてくれ」


 ロックは現役の隊長であることからこの作戦の指揮を任される事となった。

 そしてロックの号令と共に7名の術士が走り出して行った。

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