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31話 タニアとシャインの密談 その2(タニア視点)

 父は私が物心のつく頃には亡くなっており、母さんと二人で毎日を必死に生きていた。食堂に務め朝早くから、夜遅くまで働いてくれた。かなり無理をしていたせいか、30才前後の母は年齢よりも老けてみえた。それでも、いつでも笑顔を見せてくる母が大好きだった。

 第2期リプレース拡張工事が完成した頃は工事に携わった職人家族もそのまま移住し、街は人で溢れ返り飽和状態となっていた。その為にあらゆる所で犯罪事件が多発していた。

 そして私が10歳の時である。母の仕事中に家から出た所で、見知らぬ男にさらわれた。

 当時、人攫いの事件は多く発生していた。金持ちや売春宿に売られて、他の街へ連れて行かれるらしい。

 つれて行かれた場所は一軒の家屋であった。まだ整備前の土地に数件建てられている内の1つである。

 家屋の中には地下に部屋が作られており、一室に子供が何人も閉じ込められていた。どの子も元気が無く、顔や腕に殴られた後が青く残っていた。

 部屋に放り投げられた私はそのまま殴られた。


「もし大声をだしたり、逃げ出そうとしたら。こんな程度じゃすまさねぇからな!」


 私は殴られた頬を押さえ、震える事しかできなかった……。

 私の周りの子供達も同じ様に怯えていた。その後、男が部屋から出て行き、先にさらわれていた女の子に色々教えて貰った。


 何日も少ない食料しか貰えず。暴れられなくなるまで、弱らせてから部屋から連れていかれる様であった。移動中に逃げられない様にする為だと教えてくれた。

 逃げ出さなければ、殴られないので大人しくするしか無いと言われた。

 その日の夜は、膝を抱え小さな声で、母さんの名前を呼び続ける事しか出来なかった。

 それからは毎日2人位連れて行かれて、2人位新しい子供が入ってくる。大体ここに居られるのは4~5日程度であった。

 明日は私の番かもしれない……。それだけを考え怯えていた。

 そんな時、上の部屋で騒がしい音がする。激しく揉みあっているのか? 騒ぐ声や椅子やテーブルが倒れる音がした。

 それから沈黙が訪れ、部屋のドアが開いていく。私は恐怖で目をつぶり、体を縮こまらせていた。


「大丈夫? 怪我は無い?」


 顔をあげた私の目に映っていたのは、優しく手を差し伸べてくれているクラッツだった……。

 すぐ後にロックも大きな声で「助けにきたぞ~!」と言いながら部屋に入ってきて、子供達を抱えて外へ連れ出していた。

 私はクラッツに抱かかえられ母の元へ送り届けられ、母と再会する事が出来た。私は何度も謝り、母と抱き合いながら泣き続けていた。


 彼等は当時17歳で王直轄部隊に入隊しており有望株と言われていたらしい。他の事件を捜査中にクラッツの魔法でこのアジトを見つけたと、事件の経緯を後で教えて貰った。

 その後この事件に関わっていた者はどんどん捕まっていく、数名であるが地位のある者もその中に含まれていた。事件後は衛兵の巡回人数も多くなり、治安も徐々に向上していった。


 それから元気を取り戻した私は、大通りを抜け日々通い詰めている場所へと向かう。その場所は王直轄部隊の詰所だ。

 国民の信頼を得る為に、警備隊や王直轄部隊などは訓練状況などを公開する時があった。その日になると私は欠かす事無く訪れる。お目当てはクラッツだ。

 クラッツの訓練を眺めながら、いつか隣で困っている人を助けるのが私の夢となっていた。

 その5年後の15歳の時に精霊と出会い術士となった私は1人で魔法の訓練を行い、彼等と同じ17歳の時に王直轄部隊の入隊試験を受けた。女性と言う事で相手にされなかったが、模擬戦で魔法だけで剣を振るう事無く相手を行動不能にした事が評価され。入隊する事ができた。


 入隊後クラッツと廊下ですれ違った時に呼び止め助けて貰ったお礼を伝えた。

 才能があると何人かに言われていた私は、クラッツを守る為だけに鍛え続け2年経った頃にはクラッツよりも剣術が上達していた。

 クラッツ自身は剣の素質は余り無く、模擬戦で私に敗れてロックに笑われている事が何度もあった。

 だからロックは嫌いだ。あいつを倒そうと何度か挑んでみたが全て返り討ちにあってしまった。

 クラッツは剣術の腕は無くても、聡明で後輩からも好かれており、魔法を惜しみなく使い様々な事件を解決していった。その姿を間近で見るうちに、私は今まで以上にクラッツに惹かれていった。


 その後クラッツはある事件をきっかけに隊を辞め街から出て行く。もちろん私も同行する事にした。

 クラッツは拒否していたが、殆ど押しかけ状態でくっついていった。

 それからクラッツは以前より興味のあった精霊について、研究を始めたんだ。

 5年経った今でもクラッツへの想いは変わっていない。


「私とクラッツの出会いは解ったか?」


 私の問いにシャインは頷いて見せてくれた。それを確認した私は唾を飲み込み、心に決めた決意を報告する。


 「今回、クラッツは瀕死の重傷を負った……。 死んでいたかもしれない…… もし死んでいたなら私は自分の想いを相手に伝える事無く後を追っていたと思う……。 

 だから私は決めた! 村へ帰ったら、この想いをクラッツに伝える。それで断れても構わない、私は自分の想いに悔いは残したくない。

 シャインにはその時傍に居て欲しい……。私の気持ちを話した相手はシャインが初めてだよ。同じ様に1人の男性に尽くし続ける者として、傍にいて欲しい。どうだろう?」


 シャインは黙っていたが、少しの沈黙の後に口を開き私の気持ちを理解してくれた。


「……解りました。私も傍にいます」


「ありがとうシャイン」


 私が差し出した手をシャインは掴んでくれた。それから少し話した所でネルが部屋に戻って来た。


「すいません! 夢中になってしまって……」


 恐縮するネルに私は「大丈夫だよ。一度村へ戻ろう!」と、言葉をかけた。

 荷物を袋にまとめ、研究所から村へ向かっている。村へ近づくにつれ緊張しているのが自分でも解ってしまう。

 村へ到着すると、真っ先にクラッツの元へと向かう。家へ入りクラッツの様子を見てみる。


「起きてるよ、どうしよう……」


 クラッツは起きていた。こちらに気付いた様子で片手を上げてくれた。傍に近寄った私達にクラッツは登山用具について聞いてきた。


「タニア、ネル君達に道具は渡せましたか?」


「大丈夫だ。大きさも丁度いい感じだった……」


「ネル君ちょっといいかい? 山へ登るときは急いでは駄目だ。ゆっくりと登って欲しい。洞窟とかがあったら、中の安全を確認し食事や休憩を取る事。時間を掛け山に体を馴染ませる事が大切だ」


「解りました。ありがとう御座います」


 私は2人のやり取りを見ている間に、ドンドン鼓動が早くなっていく。額から汗も噴出してきた。

 そんな状況を察したのか? シャインが手を握ってくれた……。

 それで落着く事ができた。私は覚悟を決め、クラッツに話しかけた。



「クラッツ……。ちょっといいか?」


「構わないよ、話したい事があるなら言ってくれ」


 


「私は……クラッツの事が……好きなんだ……。 私はクラッツが死に掛けたのを見て私も死んでしまうかと思った…… お願いだから……私を1人にしないで……」


 私の告白はもう告白ではなくなっていた。目に涙を浮かべ死なないでと懇願していた。


「……」


 流れる沈黙が重く、息が出来なくなりそうだった。


「タニアの好意には以前から気付いていた……。 でも僕は君よりもかなり年上だ、君には僕よりもっと素晴らしい人が現れると思っていた」


「そんな人要らない、クラッツ以外必要ないよぉ……」


 涙が溢れてくる。顔を伏せ、この先に続く言葉を想像しただけで怖くなった。


「魔獣に襲われた時、僕は君を助ける事だけを考えていた……。僕にとってもタニアは大切な人だから……」


「え?」


 私は伏せていた顔をあげた。クラッツの顔は私を救ってくれた時と同じ優しい顔をしていた。

 私はクラッツに抱きついていた。


「ぐぅ!」


 クラッツが一瞬苦痛の表情を浮かべた。私はとっさに離れる。


「ごめんなさい……」


 クラッツの腕の怪我を忘れて飛びついていた。


「大丈夫だ……。でも今後は衝動的な行動は抑えてくれると助かる……」


 クラッツは額に汗を滲ませ、そう言ってくれた。その後、私はシャインに抱きついた、腰に手を回し周りに聞こえない様な小さな声で気持ちを伝えた。


「シャインのお陰だ、本当に嬉しい……。 次はシャインの番だな」


 離れ際にシャインは、小さく頷いている様に見えた。

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