27話 コーラル村への道
気合の入った声で、魔獣の首に刃を押し当てる。滑らす様に剣を引き抜き大量の血を噴出しながら魔獣が倒れた。
「ふぅ~、こっちは終りました」
「私の方もすぐに終わります」
シャインは右手に持つ剣を魔獣に突き刺し止めを差した。ネルとシャインの周りには、5体の魔獣が動く事なく転がっている。
「本当にこの先に人が住む村があるのでしょうか?」
ネルは休憩を取りながら、地図を拡げシャインに問い掛けた。リプレースを出発したネル達は、10日を掛け一度街を経由し北西へ更に10日進んでいる。
「地図のとおりなら、今日か明日には到着出来るでしょう」
シャインの言葉に頷くネルであったが、周りの景色を見渡して不安げな表情は拭いきれていなかった。
一応、馬車道はあるが人通りが全く無く、他の街道では殆んど見る事の無い魔獣と頻繁に遭遇していた。
「普通の人や商人は、どうやって往き来しているのかな?」
ネルは色々と考えている様であった。2人はそのまま奥へと進んでいく。
「シャインさん、魔獣の死体があります。凄いひどい状態です。この辺りには、危険な魔獣がいるのかもしれません。先を急ぎましょう」
その後急いで移動を行ったが日は落ち、その日の夜は野宿となる。二人で火を囲み食事を取っていた。
いつもの様に2人並んで火の光を見つめていたが、突然シャインが立ち上がり、ネルに警戒を促す。
「高速で接近する物体があります。後方からで距離は50m、すぐに此処に来ます!」
ネル達は剣を抜き、構えを取る。そして互いの背中を合わせ周囲を警戒する。
「相手はこちらの様子を伺っている様です。このまま待っているだけでは、時間も掛かります。こちらから仕掛けませんか?」
シャインの提案にネルが頷き了承する。
「解りました。シャインさんにお任せします。何時で仕掛けて下さい」
ネルの言葉を聞き、シャインは前方に走りだした。すると闇の中から、魔獣の唸り声と共に1つの大きな影がシャインに襲い掛かる。
シャインは左足を地面に蹴りつけ、直角に曲がり紙一重で影をかわす。
ネルは足元に置いてあったカバンの中から魔法石を取り出し、詠唱を唱えながら周囲に投げていく。投げられたのは光魔法石で周囲は明るくなっていく。
「これで相手の姿が見えるはずだ」
ネルは周囲に注意を向ける。光に照らされ、魔獣の姿が露となる。
燃える様な赤い瞳に、全身の模様も炎の様に黒い毛で描かれている。それ以外の部分は真っ白である。
4本足で歩行しており手足には鋭い爪がある。
体長は約4mあり、幅は2mと大きく力も強そうであった。一撃でも体に受ければ、鎧は引き裂かれ死亡するのが容易に想像できた。
一番恐ろしい事は、頭が2つある事だろう。首の根元部分で2つに別れており、それぞれの頭が意思を持っている様であった。口には鋭い牙があり、餌を前に興奮しているのだろう。口からは涎が垂れ続けている。
「この魔獣は一体……」
ネルの顔が驚愕へと変わっている。魔獣はネルを最初の餌と決めた様で、ネルの正面で身を低く構え突撃の準備を整える。
その時、後方からナイフが飛んでくる。ナイフは魔獣の首に当るが、突き刺さる事無く弾かれてしまった。魔獣が後方へ一度向きを変える。その間にシャインはネルの傍へと寄った。
「ネルさん、あの魔獣はファイアーサーベルと思われます。以前、本で読んだ特長に似ています。
ですが本の情報は、頭は1つしかなく体長も半分程度だと書いてありました。かなりの確率で変種だと思います。気をつけて下さい」
ネルはシャインの説明を受け、魔獣ファイアーサーベルを見据えた。
「解りました。僕は一度、剣が通るのか試してみます。シャインさんは相手の注意を引いてください」
シャインは頷き魔獣へと突っ込んで行く、目の前でジャンプを行い頭から斬り付け様とする。だが魔獣もシャインに合わせ飛びつき、鋭い前足の爪で引き裂こうとする。剣と詰めが接触する。結果はシャインが弾き飛ばされる事となった。シャインは空中で一回転を行い地面に着地する。
その間にネルはテレポートで魔獣の頭上に移動し、重力と体重を利用した強烈な一撃を叩き込んだ。
悲鳴の様な声が上がり、すぐさま斬られていない頭がネルに向かって牙を向いた。だが、瞬時にテレポートで離脱を行っており。牙は空を切っていた。
「牙や爪以外なら、何とか剣は通るみたいです。ですが斬られた頭の方もまだ動いています」
「解りました、では私がこのまま注意を引き続けますので、ネルさんが攻撃を与えて下さい」
作戦が決まると、2人は行動へと移す。シャインは投石を行い、注意を向けさせる。時には突っ込み鋭い牙や爪を掻い潜り斬り付ける。
一方ネルは、シャインの動きに合わせ、死角から攻撃を加え続ける。ネルは魔獣の片方のみを集中的に攻め続けていく。
そして、シャインの頭上からの攻撃に2つの頭が上を向いた瞬間ネルは下から剣を突き上げた。魔獣の顎を貫く。大きな叫び声を上げながら、1つの頭が地面へと落ちていった。
「シャインさん、残り1つです。このまま一気に行きましょう」
魔獣は動かなくなった頭が邪魔で当初の様な機敏な動きが出来ないでいた。その後2人に翻弄され続け、遂には力尽き倒れて行く。
「何とか倒せましたが、時間がかなり掛かりました」
ネルはそう言うとその場に腰を落した。シャインは魔獣を警戒しつつ、ネルへ近づく。
「ナーガの変種より格段に強かったですね。変種が出現するとはこの辺りに鉱山でもあるのでしょうか?」
2人は答えの出ないまま、朝を迎えた。ネル達は朝食を食べコーラルの村へと近づいていく。
「そろそろ地図では村にたどり着くはずなのですが……」
ネルは周りをキョロキョロと見回しながら、村を探している。
突然、前方を歩いていたシャインが声を上げた。
「ネルさん、北西方向で、子供の叫び声が聞こえます」
「すぐ、向かいましょう」
シャインが走り、ネルが後を追う。200m程走った時、馬車道から森へ少し入った所に子供が2人、抱き合っている姿が見えた。凄く怯えている様子であった。子供達と10m程離れた所には動物が子供達に対して威嚇をしていた。今にも突進しそうな感じであった。
「シャインさんは子供達を! 僕は動物を止めます」
シャインは木々を走り抜け、子供達の元へ駆け寄る。泣きながら抱き合う子供を両脇に抱かかえそのまま走っていった。
ネルはテレポートを2連続使って一気に動物の頭上へ飛ぶと、一撃で動きを止めていた。
シャインは泣き叫ぶ子供達を地面に降ろし「大丈夫?」と声を掛けていた。
ネルもシャインの元へ駆け寄り、子供の様子を伺う。アリスと同じ位だろう。10歳には達して居ないと思われた。1人は男の子でもう1人は女の子であった。
「君達、怪我は無い?」
ネルも声を掛けた。少しずつ落着いてきたのだろう。ネル達の質問に男の子が答える。
「大丈夫です。助けてくれて、ありがとございます」
頭を下げ、礼を述べる。女の子もそれに続いて頭を下げてきた。
「君達はもしかしたら、コーラル村の子かな?」
「そうです。薬草を探していました。村の近くなら魔獣は出ないと思っていたのですが……」
「僕達もコーラル村へ向かっている途中だったから。良ければ案内してくれないかな?」
「はい、村はこの近くです。でもこの古い道を通って来る人が居るのですね。僕初めて見ました」
「この馬車道使う人いないの?」
ネルは男の子に問いかけた。
「この馬車道の先に危険な魔獣が現れ出して、今はみんな別の道を通っている様ですよ」
ネルは昨日の変種の事を思い出していた。
「2人の子供に案内され、村へと辿り着く」
その村は自然の要塞であった。
「コーラルは大河に守られた村だったのか……」
ネルは見た光景をそのまま口にしていた




