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26話 シャインの義手

 オルスマンからの連絡を受け、ネルとシャインは工房へと足を運んでいる。ネルはシャインの義手を見られるとあって、朝から浮かれている様であった。

 工房に到着すると入口のドアをノックし2人は中へと入っていく。中には弟子の男が店番をしていた。


「お久しぶりです。オルスマンさんは居ますか?」


「ネルさん、シャインさん、お久しぶりです。親方は今奥の作業場にいますので、呼んで来ますね」


 弟子は番台奥のドアを開き奥へと消えていった。その後、すぐにオルスマンが奥から姿を現す。


「おう、祝賀会ぶりだな。元気にしていたか?」


「オルスマンさん、お久しぶりです。義手が出来たと聞いたので早速やって来ました」


「出来ているぞ! 今、奥で用意させている所だ。少し待っていてくれ」


 そう言って応接間へ案内を行う。ソファーに座らせお茶を出した所で、弟子がオルスマンに声を掛けた。


「親方ー! 準備が出来ました。何時でもいけますよ」


「おう。解った、今からそっち行く」


 オルスマンは、ネル達を作業場へと案内する。作業場の中にはテーブルが設置されており、その上には真新しい義手が置かれていた。鉱石の配合で起こった現象だろう白色に見えるその義手は日の光に照らされ、眩しい位に光っていた。

 形状としては、全身鎧でよく見るガントレットの様であった。指の1本1本まで再現されており。内側手首の少し下に何か部品が取り付けられていた。もし同色の全身鎧を身に付けていれば、義手とは解らないだろう。


「綺麗ですね。光っている……」


「おいおい、感心するのはそこじゃないぞ! シャインは腕を出してくれ。石膏を取った時と同じ様に皮布を巻いたままで大丈夫だ」


 義手作製が決まった時に、シャインは石膏で腕の型を取っていた。ネル達はシャインの正体がバレても、仕方ないと思っていたが石膏の型取り作業は皮布の上から行われ、腕を直接見せる事は無かった。

 シャインは指示どおり左腕をマントから差し出した。その腕にオルスマンは義手を被せる。

 義手に2箇所ネジが付いており、それを回す事によって義手内部にある金属帯で義手が被っている部分を締め上げ、腕に義手を固定する。

 しっかりと固定された義手を見ながら、オルスマンはシャインに状況を確認する。


「違和感とか無いか? 金属帯の締めすぎで、痛みとかは無いか? それと重さはどうだ、頑丈に作っているから、重いだろう?」


「いえ、大丈夫です。外れない様にもっと強く締めてください」


「最初はこの位にしておく方がいいだろう。締め過ぎで後から痛みが出てくる事もあるからな。緩そうなら、後でネルに頼んで締めて貰ってくれ」


「では、義手の使い方を説明するぞ。まず義手中央部分に腕と平行に設置している、棒状の金具を肘側へ回すと手刀の形になる。逆に反対へ回すと握り拳の形になる。

 次に棒金具の回し過ぎを防止する為に当止め金具が飛び出ているだろ、それを押し込むと中の歯車が外れ、自由に指先や手首を動かせる状態になる。好きな形を作ってから、反対側に飛び出した当止め金具を押し戻し、作った形を固定する。この三種類を使い分けてもらう事になる。

 まずは、手刀の形を試そう」


 シャインは右手で金具を操作し、義手を手刀へと変えてみる。


「うん、動作はスムーズだな! 次は握り拳を作ってくれ」


 シャインはオルスマンの指示に従い金具を操作する。


 手が閉じて行き、握り拳が出来る。


「握る力はどの程度でしょうか?」


 シャインがオルスマンに質問する。


「そうだな。剣や盾は持てるぞ。その状態だと手首が自由に動かないから、盾かナイフが良いだろう。 一度試してみろ」


 オルスマンはシャインに手刀の状態にさせ、手の平を上に向けさせた。そして小指側に刃を持って行き逆手に握らせた。


「強く握るには、歯車の力を使って握り拳を作る方がいい。だがその状態だと手首が動かないから、ナイフの場合は逆手持ちが使いやすいだろう」


 シャインに説明していく。そして工場に置いている厚み10cm程度の薪をテーブルの上に立てた。


「斬り付けて見てくれ。握る力が弱い場合、ナイフが手から落ちるだろう」


 シャインは頷き、腰を落して構えを取る、そして腰を回転させながら薪を斬り付けた。薪は真っ二つに引き裂かれる。


「まてまて、お前おかしいだろ! 何故ナイフで薪が切断できる?」


「おかしいのは貴方です。腰と回転させ、肘を使い切り込み角度を計算すれば、誰でも出来ますよ」


 シャインは当然という顔で答えていた。

 オルスマンが顔を紅潮させ他にも色々と突っ込んでいたが、すぐに落着きを取り戻しシャインに感想を聞いた。


「俺はもう、お前が何をやっても驚かん。それで義手の方はどうだ?」


「そうですね、ナイフで斬り付けた後もしっかりと固定されています。大丈夫でしょう」


  オルスマンは次々とシャインに指示を出し、シャインはそれに従い義手を操作していく。


「それじゃ、これが最後だ! 以前お前が貫いた鉄板と同じ物を用意させている。義手の手刀で貫いてみてくれ!

 今回の義手はこの国で一番硬い鉱石と逆に柔らかい鉱石を混ぜ合わせて、固さと柔らかさを兼ね備えている。幾つも試作の金属を作って貰い、一番結果の良い金属で作ってある」


 弟子の男が1枚の鉄板を持ってきてシャインに渡す。シャインは頷くと右手で鉄板を放り投げ、落ちてきた所へ左手で突きを放った。


「バキッ!」


 鉄板は左手に貫かれていた。その光景にオルスマンも満足そうに頷いていた。


「よし、それじゃあこれで説明は終わりだ。最後にやって置かないといけない事がある」


 オルスマンは弟子に2つの椅子を用意させた。1つをシャインに座らせ、もう1つにオルスマンが座る。


「最後の仕上げに、俺の魔法で義手と腕を接着させる。ありったけの精神力を注ぐから並大抵の事では外れないと思う。だが義手は引っ張られる力には弱いから気を付けろよ」


 そう言うとシャインの左腕を持つ、精神を集中させ詠唱を開始する。


 【全ての存在に告げる。その状態を保ち続けろ! ハンドバンカー】


「ふ~これで大丈夫だ。もし外れてもまた着けてやるよ。これからもお前達は無茶をしていくのだろう? 義手が役立つといいな。俺は疲れたからもう休むわ! がんばれよ」


 そう言うと、弟子に肩を借りて部屋の奥へと向かうオルスマンに、終始無言で、見つめていたネルがお礼の声を掛けた。


「本当にありがとうございます」


 お礼を言うネルの瞳には涙が溜まっていた。オルスマンは振り返る事無く、片手を上げ左右に振りながら部屋を出て行った。


 その日は追加の備品購入や警備隊に別れの挨拶を行い。翌日の朝、コーラルへ向け2人は旅立って行った。

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