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25話 次の目的

 ロックの辞退による繰り上げ優勝であった為、式典は開かれなかったので、フィルター主催の小さな祝賀会が開かれた。

 ダンがエルを崇拝してしまい。酒を飲みつつ剣術談義に花を咲かせていた。ネルはシャインとアリスを引き連れてテーブルに並べられている料理に舌鼓を打っている。

 サウスバーク州出身の商人や職人、州長などフィルターの関係者も幾人か参加しており、エルに賛辞を送った。

 もちろん、アイン・オルスマンも参加している。ネルはオルスマンを見つけると近づき声を掛けた。


「オルスマンさん、お久しぶりです」


「おっ! ネルか元気しているか? 兄弟で凄い一家だな。他の兄弟も同じ様に凄いのか?」


「エル兄さんは剣術の稽古を頑張っていましたからね。他の兄弟は剣術をしていませんけど、色々頑張っていますよ」


「親父さんも鼻が高いだろうな…… ああ、それと義手の方だがもう少しで完成するぞ! また宿に連絡を入れるから、その時は工房に寄ってくれ」


「ありがとうございます。僕もシャインさんも楽しみに待っています」


「義手製作に取り掛かって直ぐにフィルターに確認したが、金は幾ら掛かってもいいから良い義手を作ってくれと言われたよ。期待していてくれ」


 2人は義手について話し合っていた。それから少しの間会食の時間が過ぎ、フィルターが挨拶を行う事になった。


「エル・ダブルさん、剣術大会優勝おめでとう御座います。サウスバーク州に住む者全員が祝福しております。

 本年は変化の年だと思っています。私の所有する鉱山から新しい種類の魔法石が少量ですが発掘されました。今まで一回戦止まりであったサウスバーク州代表が剣術大会で優勝をしています。少し前には国が調査隊を組織し、大陸中央にそびえるアスリカ山の山頂を目指しています。

 今この国は大きく変わってきています。サウスバーク州もこの変化の時に取り残されない様、州民全員で盛り上げていきましょう」


 フィルターの挨拶に参加者全員が大きな拍手を送る。次にエル挨拶が始まった。


「みなさん、応援ありがとう御座いました。今回は諸事情により俺の優勝となりましたが、自分自身には全てを受け入れている訳ではありません。ロック・スレイヤ氏は2連覇を成し遂げています。俺は3連覇を目指し是からも訓練に励んで行きたいと思っています。その目標を達成した時は胸を張って最強の名前を受け入れたいと思います。今後も応援よろしくお願いします」


 エルの挨拶の後、盛大な拍手が送られた。その後、少し経った所で鐘が鳴り祝賀会は閉会となった。

 その間ネルとシャインはフィルターと何やら話し込んでいた。


 次の日、パニートへ帰るために、馬車に乗り込む父達を、ネルは城門前で見送っていた。


「それでは、父さん、母さん、エル兄さんお気をつけて」


「ああ、ネルの方も無理はするなよ」


 父の忠告にネルは頷いていた。エルもネルに近づき別れの言葉を投げる。


「ネル、俺は今回優勝する事が出来たが、お前との約束は果たせていない。3連覇した暁に、俺はお前との約束を果たすよ」


「エル兄さん僕は約束なんてした覚え無いですよ」


「俺が勝手にやっているだけだ。お前は気にするな」


 エルはそう言い残すと馬車へと乗り込んでいった。


 母親は、ネルでは無くシャインへ声を掛けていた。


「シャインちゃん、ネルは嫌いな野菜が在るから、残さない様に見張っていてね。それと、眠る前には歯を磨くように言ってね」


「あっ! はい。 解りました」


 母親も馬車へ乗り窓から顔を出し、手を振っている。ネル達も手を振り返していた。

 フィルター達は一足早くに街へと向かっていた。護衛の内1人をダブル家の為に残してくれた様であった。エルと護衛がいれば、ある程度の脅威は取り除かれると思われた。


「ネルさま、この後はフィルター氏の情報の場所へ行かれるのですか?」


「はい、そのつもりです」


 2人はエル達を見送った後、街へと戻っていった。

 ネルが向かった先は、王城に隣接されている。王直轄部隊の詰所であった。


 サマン国には王国軍と王直轄部隊があり王国軍は他国から自国を守るため、国境の要所などに砦を作り守護している。最も兵の数が多い軍である。

 一方、王直轄部隊は、命令系統は王国軍とは違い王が直接命令を下す。主に魔獣の討伐や災害復旧など国内の問題を処理しており、警備隊が対応出来ない、魔術師関連の事件でも動く事がある。

 最後は警備隊で主要な街の治安を守っている。この3つの部隊で国を維持しており、互いの部隊が連携を取って問題に対応する事もある。


 門番にネルは声を掛ける。


「すみません。ネル・ダブルと言います。隊長さんに話があって来ました」


「なんだ? 隊長は今忙しい、また別の機会に来てくれ」


「何時なら面会できますか?」


「隊長は色々立て込んでいるからな、少しの間は難しいぞ」


 ネルとシャインは出直す事を話し合い、頭を下げ入口から離れようとした時、入口の方から声が聞こえた。


「待ってください。貴方は、エル・ダブル氏の身内の方では?」


 その声にネル達は振り返る。そこには謝罪の際に隊長が同行させていた副隊長の女性が立っていた。


「エル・ダブルの弟、ネル・ダブルと言います。この前は挨拶もせず、すみません」


「それは構いませんが、本日はどの様なご用件で?」


 副隊長は、ネルの様子を伺いながら用件を確認する。


「僕の知人の商人が教えてくれたのですが、ハイネ・クラッツさんの居場所を教えて貰おうと思って来ました。隊長さんが知り合いだと教えてくれました」


 ネルの返事に副隊長は顔をしかめていた。


「確かにクラッツ氏と隊長は知人ですが、何処からその情報を手に入れたのか…… 隊長に貴方が来た事を伝えて来ます。エル・ダブル氏の事もありますし、面会の時間も取れると思います。応接室に案内します。そこで少し待っていて下さい」


 そう言って敷地内の建物へと2人を案内していく。詰め所の敷地内は3階建ての横長い詰所が一番奥に建築されている。500人程度は寝泊りできそうであった。詰所の前には模擬訓練が行われており、20人規模の隊が互いに指揮官の命令に従い行動をしている。


「シャインさん、やはり王直轄部隊ともなると凄いですね」


「そうですね、あの規模と戦闘になった場合は、指揮官を最初に潰すのが有効ですよ」


「シャインさん、僕はそんな返事を期待していた訳じゃないです……」


 ネルは少し呆れ、副隊長は笑っていた。そんな2人の様子を模擬戦待機中の別の兵達が指を差し何やら言っているようである。


「では、ここで少しお待ちを」


 副隊長はネル達にお茶を出し、部屋を退室していった。それから少し時間が経った頃、ロック・スレイヤが部屋へとやって来た。ロックはネル達の正面のソファーに座り声を掛ける。


「ネル・ダブル君だったな。最初にもう一お兄さんの件はすまなかった。事件を起こした者は除隊処分として、これから罪を償う事になるだろう。それで君の用件は副隊長から聞いている。クラッツに会って何をする気だ? クラッツは大事な友人だ。つまらない用で彼を困らせる事はしたくない」


 ネルもロックがクラッツを大事に思っているのを察し、言葉を選び返事を返した。


「知人の商人からクラッツさんの事を聞きました。精霊の研究をしている人だと聞いています。

 僕は精霊が人に魔法を与える仕組みを教えて貰いたいと思っています。術士の場合ですと、精霊が魔法を決める。だが魔法士の場合だと人が使う魔法を決める事ができる、と本に書いてあります。

 それは何処までが事実で、本当にどのような魔法でも望めば手に入るのか? それを聞いてみたいと思います。」


「聞いてどうする? さっきから君は魔法を自分で手に入れる様に言っているが。そんなに簡単な事ではないよ。魔法士もこの国には、そんなに数はいない。なりたいからと言ってなれるものでもないぞ。それに魔法士になってから君は何を望む? 強くなりたいなら術士でも剣士でも方法は幾らでもあるだろ」


「まず、僕とシャインさんは既に魔法士です。そして僕の望む物は彼女の腕を治す事……」


 そしてネルはシャインへ目で合図を送った。シャインもそれに答え、マントから左腕を出した。


「腕の欠損か…… 確かに回復魔法じゃ治せないな。 それにしても2人とも魔法士って言うのは事実か?」


 ネルはそれに頷く。ロックは椅子の後ろで待機をしていた、副隊長と顔を見合わせていた。


「信じない訳では無いが、魔法を見せて貰えないか?」


「僕の方でいいですか?」


「ああ、とりあえず魔法士と言うのを確認したい君の魔法を見せてくれ」


「では、今からロックさんの横へ移動します」


 その声が終わると共に、ネルの姿が消えロックの横に座っていた。2人は驚いている様子であった。


「確かに詠唱も聴こえなかった…… 実際目の前で見せられたら信じるしかないな」


 ロックは頭をかきながらネルに告げた。


「君は魔法士で彼女の腕を治す為に、新しい魔法を手に入れたい。俺から見ても君の魔法は実用性のある有益な魔法だ。いかなる時でもその力を発揮するだろう。だが、彼女を治す魔法は人々には喜ばれるが、戦闘では役に立たないと思うぞ。それでもその魔法が欲しいのか?」


 ネルは強く「はい」と答えた。ロックは泣き真似の格好をしながら、副隊長に声をかけた。


「なぁ、ニコラ! いい話だな。彼は男だ。エル・ダブルが彼に負けたと聞いたときは信じられなかったが、今の魔法と心意気を見て俺は納得したぞ」


「隊長が言う通りですね。ネル・ダブルさんは心の優しい人のようです。クラッツ氏を紹介しても大丈夫でしょう」


 ロックがニコラの意見に賛成をする。ニコラは「地図を取ってきます」と言って部屋を退室して行った。ロックはネルに正面に座るように促し、クラッツについて話し出した。


「ネル君、聞いて欲しい。クラッツには紹介状を書くが、彼は過去に色々あってから、余り人を信用していない所がある。俺からは事情を話す訳には行かない、聞きたいのなら自分で聞いてくれ。会う時は気を使ってやって欲しい。クラッツ自身も魔法士だが戦闘向きでは無い、君なら大丈夫だと思うが手荒な事はしないでやって欲しい」


「ロック隊長、ありがとうございます」


 ネルはロックに頭を下げる。その時、部屋にニコラが戻ってくる手には地図を持っていた。その地図を広げ、ロックがネルへ説明を行う。


「クラッツが今いる場所は、アスリカ山の麓にコーラルと言う村がある。そこから少し離れたこの場所に居住を構えている」


 地図には丸印が入っており、クラッツの居場所がわかる様になっている。ロックはその後、手紙を書き地図と共にネルへ手渡した。


「クラッツに会ったら、俺がたまには遊びに来い、と言っていると伝えてくれ」


「解りました、必ず伝えます」


「今は事件の為、立て込んでいるから無理だが、いずれ手合わせをしよう。私も魔法士だ、互いに魔法込みでいいぞ」


 ネルはその言葉に誤魔化す感じで「機会があれば……」と逃げていた。

 それから数日を掛けネルとシャインはコーラル村に向かう準備を整えていく。

 オルスマンから連絡が入ったのは、丁度準備を終えた頃であった。

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