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22話 剣術大会(本大会)その2

 大会を明日に控えネル達は全員で夕食を取っていた。エルにも緊張の色が伺えており、食べる量も何時もより少なく感じた。ネルは少しでもエルの緊張をほぐす為に色々話しかけていた。


「エル兄さん、明日の大会は何名の選手が出場するのですか?」


「ネルは知らないのか? 本大会は16名が出場する。一回戦を勝てれば残り8名になる。2回戦を勝てれば残りが4名だな。全部で4回勝てば優勝だ。

 それと、16名は各州の予選を勝ってきた者だが、州の人口の多さによって出場者数に違いがある。サウスバーク州は1名で、首都があるサウスカバル州は3名出場できる」


「そうだったのですね。全然知りませんでした。エル兄さん、大会は何日間開催されていますか?」


「大会は3日間で行われる。初日が1回戦、2日目は朝が2回戦、昼から3回戦が行われる。そして最終日の昼に決勝戦がある」


 エルの説明をネルは頭に叩き込んでいる様であった

 大会当日は、街は朝から熱気に包まれていた。

 試合会場である闘技場に続く道には朝から人の波が出来ており。自由席の中でも良い席に座るために早くから行動に移している

 フィルターとアリスは来賓席で観覧となっている。ジルダ夫妻やネル達はフィルターが指定席券を事前購入していたので席が無くなる事が無い。ゆっくりと準備が出来る状態であった。


「それでは出発します。御者の掛け声で全員を乗せた馬車が出発する」


 闘技場に到着した馬車は衛兵に来賓専用入口に案内される。

 来賓者には護衛が1人だけ同行が認められており、フィルター、アリス、ダンの3人とは此処で別れる事となる。

 すこし通路を歩くと、選手控え室の文字を見つける。エルとも此処で分かれる事になった。最初は父と母がエルに激励の言葉を掛けていく。その後ネルが声を掛けた。


「それでは、エル兄さん頑張って下さい。僕達は観客席から応援します」


「ネル、しっかり見ていてくれ。街を出て行く条件だったあの試合の約束を俺は忘れていない。俺が優勝して、お前を国一の剣士だって皆に教えてやる!」


 そして2人は握手をして別れる。その後ネル達は指定席を探して、闘技場内を歩いている。闘技場は円形の形をしており、中央に15m角の壇上が設置されている。それを円形に囲う様にして、観客席が配置されている。

自由席は、円形に横長い階段状の椅子に座る感じだが、指定席は座る場所に手摺が儲けられており、手摺に番号が記載されている。座るスペースも幅広く設定されており、体格の大きな人でも窮屈に感じる事は無いと思われた。

 フィルターが用意した席は全員が横一列に並ぶ形であった。父と母が座り2人を挟む様に護衛が座る。ネルとシャインは、護衛の横に並んで座った。

 そして大会の開始を知らせる鐘の音が鳴り響く。壇上に1人の男が上がり。挨拶を行う。


「只今より、剣術大会を開催します」


 壇上の司会の声は、会場全体に響き淀みなく聞き取る事が出来た。


「シャインさん、司会の人はもしかして術士でしょうか?」


「多分そうでしょ。本で音響魔法の記述を読んだ事があります。司会の彼がそれに該当すると思います」


 ネル達が話している間にも司会者は話を進めていく。


「それでは、選手の入場です」


 1人ずつ、入口から出てくる。入口から壇上に上がるまでの時間に、司会者は選手の説明を行っていく。

名前、出身地、職業、戦歴などを説明し、言葉に強弱や比喩を加え盛り上げる。

観客はその言葉の一つ一つに反応し歓声をあげた。

 出場選手の職業は様々であった。警備隊、傭兵、剣術道場当主など参加していた。戦歴の方も魔獸討伐や戦役での活躍、前回の順位など、どれもが誇れる物ばかりであった。


 ネルはエルの登場を今か今かと待ちわびていた。


「続いての出場者は、サウス国最強の剣!」


 最初の説明だけで会場は耳を押さえる程の喚声に包まれた。


「ロック・スレイヤ選手です」


 入口から長身で全身鎧を身にまとった男が出てきた。赤い髪に赤い鎧を身に付け、頬には一筋の傷痕が見える。容姿は端麗であるが体格から察するに力押しが得意に思われた。王直轄部隊の隊長であり、2年連続で優勝している。


「あの人は強い!」


 ネルは唾を飲み込んだ。

 ロックは壇上で会場に向け手を振る。会場の盛り上りは最高潮となっていた。次はエルの番であった。現在壇上には15名の選手が上がっている。残すはエルのみであった。


「最後の選手を紹介します。今回が初出場の選手です」


 その説明を受け、会場は期待で大きな拍手に包まれた。


「エル・ダブル選手です」


 入口から出てきたエルは誰が見ても緊張しているのが分かる状態であった。歩き方もぎこちなかった。

 最初は大きな拍手で迎えられたエルだが、エルの緊張している様子、革で作られたボロボロに傷んだ装備、極め付けが司会者の説明だった。


「初出場のエル・ダブル選手は今回出場者の内最年少の23歳です。サウスバーク州のパニート出身であり、今は自警団で日々訓練に励んでいます」


 歓声がどんどん少なくなって行く。大きな街には警備隊の詰所があり、それなりに実力者で無いと入隊する事は出来ない。それに比べると自警団は小さな街で結成され、住民なら誰でも入る事が出来る。

 同じ住民の安全を守る仕事であっても、兵の質や対応する犯罪規模など格段に落ちると言える


 観客から落胆の声色で「大丈夫か?」や「サウスバーク州は自警団が予選を勝てるのか? それじゃ、兵の質が低いだろう」などと、声が聞こえてくる。それらの言葉を聞きながらネルは歯を食い縛っている。


「シャインさん、僕は悔しいです」


 ネルの登呂にシャインは声を掛ける。


「お兄様は、他の選手より劣っている訳ではありません。私が見るにむしろ上回っていると思います。それを一番解っているのは、試合をしたネルさん貴方だと私は思っています。お兄様を信じて応援しましょう」


 シャインの意見を受けネルも強く頷いて見せた。

 最後に、壇上に兵士4名に囲われた少年がやってくる。一列に整列している16名の選手が一斉に肩膝を付き、頭を垂れる。司会者は親指と人差し指で輪を作り、少年の口の前に差し出した。


「私は皇太子のアキレス・サウスです。この大会は、日頃から研磨した技や力を国民に披露する場です。力を出し切り正々堂々と戦って欲しい。決勝戦には国王がご観覧に来ます。勝ち残った者が、国王の前で素晴らしい試合を見せて頂けると期待しています」


 司会者の指の輪を通した声は、司会者と同じ様に大音量になり。挨拶を終えた後、観客大きな拍手を皇太子に捧げた。


 いよいよ第1試合の開始である。ネルは試合の予定表に目を通す。


「あのロック・スレイヤ隊長が出るのか……」


 ネルは興味津々と言った感じであった。ネルは予定表の裏に記載されている規則事項を確認する。

 1つ、今回の試合は、刃引きしている武器を使用する。

 1つ、選手は鎧を装備して試合を行い、どの部位を切られても試合が出来る状態ならそのまま続行する事が可能。

 1つ、首と額に武器を寸止めされると負けとなる。それ以外は降参の合図を出すまで試合は続く。

 1つ、魔法の使用は禁止されている。壇上の周りに心眼魔法の術者が配置され監視を行い魔法の行使を確認した場合は反則負けとなる。


 壇上には1試合目の選手が上がっていた。ロックと相手選手であった。2人は一定の距離を置いて構える。お互い武器は剣であった。審判が合図の掛け声を上げて試合が開始される。

 最初に突っ込んで行ったのはロックの方であった。相手もタイミングを計り、上段を繰り出そうとするが、少し出だしが遅れ相手選手は中途半端で力の乗らない状態で切り付けに掛かる。ロックは相手の剣を軽々弾き飛ばし、勢いを殺さず肩で相手を吹き飛ばす。吹き飛ばされた男は右手を床に付き後ろに滑りながらも倒れていない。左手で剣を持ち切っ先を正面に向けロックを警戒する。

 だが相手の男はロックの姿を確認する事ができなかった。瞬時に左右を確認する。ロックは右側に回り込んでいた。体勢を崩さない様に右手を床についたのを確認していたのだ。男はロックの攻撃を剣で防ぐ事が出来ずに横払いの斬撃を右わき腹に受けた。「ぐぅぅ!」そのまま数m飛ばされ、切られた場所を押えたまま立ち上がる事が出来ないでいた。

 正に圧勝であった。観客も大いに盛り上がっている。ネルは前回優勝者の力量を肌で感じ冷や汗をかいていた。

 その後試合は順調に消化されていく、エルの試合は本日の最終試合であった。


「次がエル兄さんの試合です」


 ネルは緊張した表情で、壇上を見つめている。各選手が入場し壇上へと上がる。

 ネルの相手は全身に鎧を纏った、槍使いであった。エルを余裕の眼差しで見ている。少し笑っている素振りも見受けられた。

 一方エルの方は、開会式と同じ様に、ボロボロの皮の鎧であった。部位はネルと同様に必要な所だけ付けている。エルの表情は開会式の時とは打って変わって、落ち着きを取り戻し、瞳には力が感じられていた。


「エル兄さんがんばれー!」


 ネルが大声を出して応援をする。周りの観客は結果が見えているのか、雑談をする者が目立ち真剣に試合を見ている者は少ないと思われた。その状況でのネルの声援はエルに届きエルは右手を挙げる事でネルの声援に答える。

 2人は距離を置き互いに構える。


「それでは、はじめ!」


 審判の掛け声の後、互いが気合を入った声をだす。


 「エイイィ!」


 「ハッ!」


 その声こそが開始の合図の様に、エルが突っ込んでいく。槍の男はエルの動きを見据え、顔に向かって突きを放つ。エルは踏み出した足を軸にして回転する事で、それをかわした。

 槍の男はすかさず槍を引き戻し第2撃目を放つ。今度は胴を狙っていた。エルは横飛びで突きを交わす。

 男は槍の中央部分を握り頭の上で回転を始める。上段から振り下ろすのか、それとも胴や脚払いを狙い横払いしてくるのか選択肢は幾つか考えられる。

 エルは相手に向かって真直ぐ突っ込んで行く。すると上段から槍が叩きつけられた。それを身体半分だけ横へずらし槍をかわした。槍は空を切り地面を叩き付ける。

 すぐさま、槍を引き抜こうとするが、一瞬の間、引き戻すことが出来ない。男の顔に焦りがみえた。槍をエルが踏み付けていたのだ、すぐさま足を離し、男の懐へ潜って行く。そして首を狙っての一撃が男を襲う。足から開放された槍を地面に突き刺し槍を垂直に立て横払いの斬撃を防ぐ体制を取る。槍と剣が接触する。

 男は身体ごと飛ばされ、尻餅を付いてしまった。顔を上げたときにはエルの剣が目の前にあった。


 予想を裏切る結末に会場は大いに沸いた。ネルの両親も両手を上げて喜んでいた。

 本日の試合はこれで全て終了し、ダブル家の面々は宿へと帰っていた。祝賀会は宿で行う事となった。フィルターの大きな部屋には多くの食事が並べられており。それを囲むように各自座っていた。


「エル・ダブルさん、1回戦突破おめでとう! 明日は午前と午後に試合があります。今日は大いに食べて明日の活力にして下さい」


 フィルターの挨拶に参加者が拍手を行い、食事へと移っていく。誰もが、食事を食べながら今日の話題で嬉しそうであった。ネルもエルに質問をしていた。


「エル兄さんは今まで使っていた鎧ですよね? 結構痛んでいる様に思えます。他の選手は皆さん新調した鎧を使っていましたが、何故ですか?」


「フィルター氏にも鎧を買うように勧められたが、着慣れていない鎧を使って動きが悪くなるのが嫌だった。だからボロボロだが着慣れた鎧で試合にでる事にした」


「そうだったのですね。明日は2試合あります。頑張ってください」


 ネルの激励にエルは頷いて答えた。

 次の日はエルの才能が観客を驚かせる事となった。

 2回戦の相手は他の州で剣術道場を開いている者であった。2人は正面から打ち合う事となる。超至近距離で互いに剣を振り合う。体格的に殆ど差異は無く、力と技がぶつかり合っていた。


「シャインさん、エル兄さんのあの型って……」


「はい、あれはネルさんを参考にしていると思います。小さな軌道でも間接を上手く使って力を乗せています。振りが小さい分、剣速が速くなっています。2人の試合は互いに成長させていた様ですね」


 シャインは優しくネルに気持ちを伝えた。

 その後エルの一撃が相手の肩に食い込む。そこで相手が降参しエルの勝利が決まった。

 手に汗握る戦いにネルは興奮しっぱなしで合った。


 3回戦は前回の準優勝者であった。2回戦で細かい傷を多く負っていたエルは、苦戦をしいられていた。だが、粘り強く攻撃を与え続け、相手の手から剣が飛び去る。そして首元に剣を当て勝利を掴んだ。

 観客は自警団の躍進で大盛り上がりであった。勝利宣言を受け退場口に帰るまでの間、拍手は鳴り止む事は無かった。決勝の相手は前回の優勝者である。ロック・スレイヤである。


 しかし誰もが祝福するその中で悪態を付く者達がいた。


「立場が解っていない田舎者が調子に乗ってやがる。明日はロックさんとの試合だ、負けるとは思わないが王直轄部隊が自警団風情に舐められてたまるか! ロックさんが手を出すまでも無い、俺達が田舎者に躾をしてやろうぜ! なぁ~みんな!」


「おう!!!」


 怪しい言葉を放つ者達は試合を観戦し家路へ帰る人波に紛れて消えていった。

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