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21話 剣術大会(本大会)その1

 オルスマンがシャインの義手作製に取り掛かって2週間が経っていた。彼は製作に1ヶ月~2ヶ月間程掛かると言っていた。2人はその間、この巨大な街を少しずつ観光しながら日々を過ごしている。

 今日も2人で知らない商店や観光名所を回っていた。ネルは魔法石屋を好み見つけるとすぐに入ってしまう。一方シャインは他の街では見当たらなかった、国家書庫館と言う建物が気に入った様で何度も2人で訪れている。

 国家書庫館とは国が公表しても良い書籍を一つの建物に保管し、有料にて建物内で閲覧できる場所であった。情報も豊富にあり、この数日でシャインはこの世界について、知識を深めていった。 


「シャインさん、最近自分の力を表に出しすぎではないですか? 【私は術士です】と言って余り無茶をしていると、悪い人に目を付けられますよ」


 ネルはオルスマンとのやり取りを思い出し、シャインへ忠告する。


「この世界には魔法という素晴らしい物が存在します。理解できない現象は魔法という言葉で全ては片が付きます。使わない手はございません」


 シャインは悪びれもなく、ネルに自分の意見を言ってのけた。

 今、2人は1区の商店街を歩いている。周囲に並ぶ店舗にネルは興味を示しながらも、その気持ちをグッと堪えた様子で目的地を目指している。目的地は警備隊本部詰所であった。

 詰所に到着したネル達は、入口の衛兵に名前を明かし中へ通してもらう。


「ネルさん、シャインさん良く来てくれました。今日はお呼び立てしまして申し訳ありません」


 そう声を掛けたのは総大将のサートンである。


「サートンさん、お久し振りです。何かあったのですか?」


 2人は軽く挨拶を行い、サートンの方へ近付いていく。サートンは2人を応接室の椅子に座る様促し自身は正面に座った。

 実は先日、所用でファーストブルグに行ってきました。そこでフィルター氏とお会いしました。

 その時に貴方達の事を聞かれたので、オルスマン工房の事件を伝えておきました。ずいぶん気にしている様子でした。 フィルター氏より手紙を2通預かっています。両方ともネルさん宛の様です。受け取ってださい」


 サートンは袋から手紙を取りだしテーブルの上に置いた。ネルは手紙を手に取る。


「フィルターさんとアリスさんからの手紙です。此処で読んでいいですか?」


 ネルはサートンに断りを入れた。


「どうぞ、私の事は気になさらず」


 了解を得てネルは手紙の封を切った。最初読み出したのはフィルターの手紙である。


 ネルさん、シャインさん、リプレースの生活はどうですか? サートン大将から、オルスマン事件の報告を受け驚いています。

 私の家族だけではなく友人まで救って頂き感謝しています。この御恩は別の形で返したいと思っています。

 最近私は仕事の関係でパニートの街を訪れてきました。そこでネルさんのお父様のジルダ・ダブル様を訪れ、アリスを救って頂いたお礼を述べさせて頂きました。その後、食事をしている際にネルさんのお兄様が剣術大会の本選に出場する事を聞きました。私も来賓の1人として招待されています。関係者は私の馬車で御送りさせて頂けるようお願いしました。大変恐縮されていましたが、最後には了承して下さいました。

 大会の3日の前に到着予定です。私が責任を持って、親族の皆様を御送りしますので安心して下さい。

 それと、街に着きましたら、アリスとも会ってあげて下さい。


 アリスは貴方に会えるのを楽しみにしています。


 ネルはフィルターの手紙を読み終え、一息を付いた。そして次にアリスの手紙の封を切った。


 ネルへ

 アリスはお父様と剣術大会を見に行きます。食事をしましょう。

 アリスは勉強も運動も頑張っています。

 ネルに早く会いたいです。


 二人の手紙を読み終えた。


 ネルはシャインに向かって、伝える。


「エル兄さんが、父さんが、フィルターさんが、アリスがこの街にやってきます」


 ネルの顔は実に嬉しそうであった。

 二人は、その後もサートンと色々と話し、その話題の中で剣術大会は15日後に開かれると教えてもらった。

 ネル達は詰所からの帰り道、度重なる戦いで傷んでいた装備品を新調する事を話し合って決めた。父達にボロボロに傷んでいる装備を見られて心配させない為である。

 資金は7年貯めた分とフィルターの依頼報酬で十分に買い揃えられる金額を所有していた。

 街には武器屋も多数あり、二人は幾つもの店を、日を掛けて巡り、お得な品を揃えていった。全てがシャインのコーディネートでネルの装備は一新された。以前と同じ軽装であったが、青一色に統一され以前の姿より引き締まってみえた。

 シャインも赤一色の装備に身を包み、マントも新調していた。二人が並んで歩いていると、美男美女も相まって誰もが振り返りため息をついていた。


 そして街全体が剣術大会と言う祭りの雰囲気に包まれ出した頃、エル達が街に到着する日を迎える。ネルは朝から詰所に待機しており、到着を心待ちにしていた。

 昼を過ぎた頃、遠くから一台の馬車が近づいてくるのが見えた。距離が近くになるに連れて、馬車の姿がハッキリと見えてくる。豪華な飾り付けが施された馬車は詰所の前で停車する。馬車の両脇には馬に乗った護衛が1人ずつ配置されていた。

 御者がドアを開け、一番に降りてきたのはアリスだった。真っ白なドレスに身を包み、色白の肌と金色の髪がアリスの可愛さを引き立てていた。

 アリスはネルの前まで歩いて来ると、ネルに飛び付いてきた。


「アリスちゃん、元気そうだね」


 アリスを受け止めてネルはそう声を掛けた。


「ネル、大きくなった?」


「そうかな? 解んないや。僕もまだまだ成長しているのかな。」


 次に降りてきたのはエル兄さんであった。ネルは手を振って声を掛けた。


「エル兄さん!」


「ネル! 元気だったか? おお、少し見ない間に顔つきも男らしくなったな。今回は応援よろしく頼むぞ!」


 ネルの頭に手を置き、髪をクシャクシャにしながらエルは楽しそうにしていた。

 その次に降りてきたのは傭兵のダンであった。そして父親と母親そしてフィルターが順番に馬車から降りてゆく。順番にネルは挨拶を交わしていく。シャインは少し距離を置き、各々に一礼をしていた。


 その後フィルターの馬車に全員が乗り込み、大会期間中に使用する宿へと到着する。ネル達がいつも使っている宿より高級感があり、入口には門番まで配置されている。


「凄い宿ですね。父さん達も此処に泊まるのですか?」


 ネルは父親に尋ねる。


「ああ、今回の費用は全てフィルター氏が提供してくれている。サウスバーク州の代表である。エルを応援したいと申し出てくれたのだ。最初は断ったのだが、一向に引いてくれなくてな……」


 父親の返事を受けて、ネルはフィルターの元へ駆け寄っていった。


「今回はありがとう御座います。色々とお世話になりまして」


「いえいえ、私達が受けた恩に比べたらまだまだ足りません。気にしないで下さい」


 一度宿に全員が入り、夕食までの間に寛ぐ事になった。兄は試合で使う刃引きの剣を磨いている。母は豪華な部屋を満喫していた。ネルと父親のジルダはフィルターの部屋へ呼ばれていた。

 訪れた部屋にはダンと他2名の傭兵も待機してネル達を待っていた。一礼をして中に入りフィルターの前の椅子に座る。そしてフィルターは2人を呼んだ理由を説明していく。


「お疲れの所、お呼び立て致しまして申し訳ありません。今回、お2人に話して置きたい事が御座います。選手であるエル様と女性である。お母様には気苦労を与える訳にもいかないので、除外させて頂きました。

 私は毎年剣術大会の来賓として招待されています。この大会は国で一番盛り上がる大会であります。参加者の名誉、各州の名誉も関わり、裏の顔では賭けで多くの金銭が動いています。

 純粋な試合のみでしたら心配も無いのですが、そういった事情で試合でない所で不祥事が発生しています。有能な剣士が試合外で襲われ、怪我をおったせいで試合に出られなくなった事もありますし、応援の親族が誘拐されたと聞いた事もあります。

 今回、ダブル夫妻には傭兵を2名付けさせて頂きます。そして私にはダンさんに護衛をお願いします。ネルさん貴方にはアリスを守って頂きたい。

 お兄様であるエルさんには極力宿を出ない様にしてもらえば大丈夫かと思います。あくまでも保険と言う事にはなります。最初は街などを見物して貰っても大丈夫だと思います。賭け事が関係してくるのは後半戦です。順調に勝ち進んだ場合はお気をつけ下さい」 


 フィルターの説明の後、後ろに控えていた傭兵2名が頭を下げた。ジルダも頭を下げる。


「剣術大会がこれだけ危険だと思っていませんでした」


 ネルは率直な思いを口にする。


「人が集まり、見得や金銭が絡めばどんな事が起きても不思議ではありません……」


 フィルターの返事に2人は絶句していた。部屋を後にしたネルとジルダは母さんやエルにはフィルターの話を気付かれない様に、注意し合うと決め部屋へと戻っていく。

 その後ネルはシャインにだけフィルターとのやり取りを伝える。


「可能性は十分に考えられます。何処の世界でも人が考える事は同じです」


 シャインの言葉を聞き、ネルは寂しそうな顔になっていた。だがその顔も一瞬だけで、ネルは自分に活を入れた。


「僕はエル兄さんが何の気兼ねも無く試合に望める様に全力を尽くします。シャインさんも協力をお願いします」


「了解しました。私も全力を尽くします」

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