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20話 アイン・オルスマンの義肢

 目の前には、少年と少女が理由を聞いてくる。俺の目を逸らさず。真剣な気持ちである事が伝わってくる。俺はそれに応えなければならない。

 フィルターの手紙には彼の名前をネル・ダブルと書いてあった。 ネルは昔の俺に似ているのか? 何故かそんな事を考えてしまった。


「俺の義肢を使用している人の内、何人か倒れている。今は原因が解ってない。理由が判明するまで、俺は義肢を作る事が出来ない」


「それは最近の事ですか?」


 オルスマンの告白にネルは問いかける。


「そうだな、半年位の間に製作した50個で10人程度が倒れている。今迄と同じ材料、同じ工法で作っているがこんな事は初めてだ」


「一度、工房の中を見せてもらっても良いですか?」


 そう問いかけたのはシャインであった。


「別に構わんが、本職の俺が解らなかった事だぞ。何も知らないお前達に解るとも思えんが……」


 そう言いながらも工房奥へ2人を案内していく。

 作業場は義肢が綺麗に並べられており、種類も金属製や木製などあり、部位の箇所も様々作られていた。


「凄い数ですね。オルスマンさん、教えて下さい。金属製と木製の違いは何ですか?」


 ネルは質問を投げ掛けた。


「それはな、金属製が合う人と木製が合う人に分かれる。合わない義肢を使うと体調を崩したり、体が赤く痒くなったりしてしまう。それと両方の材料が大丈夫な人には、それぞれの良い所と悪い所を説明して決めてもらっている」


「もし良ければ、その良い所と悪い所を教えて貰ってもいいですか?」


「おういいぞ! まずは木製の良い所は、手足の肉質を忠実に再現する事が可能だ、足の場合は長めの靴を履かせ、手や腕の場合は服や手袋を付けると、結構解らなくなったりする。それに着色魔法で人の肌に近づければもっと解らなくなるぞ。だから、見た目を気にする女性などにはお勧めだ。

 悪い所は、木製だから、すぐに調子が悪くなる。磨り減りも激しいから手入れが多く必要になる。

 次に金属製だが、とにかく丈夫である事だな、余り重く出来ないから薄い金属を筒状にしている場合が多いが、意外と手入れは必要ない。見た目がちょっと悪いのが欠点だな」


「そうなのですね。それで、今回倒れた人はどちらの材料を使っている人が多かったですか?」


「それが…… 全員金属製の義肢を使った人だ……」


「じゃあ、それが原因って普通は思いますよね?」


「俺もそれを考えて今までの金属と比べてみたが、色も硬さも重さも全く同じだった。仕入れ店にも聞いてみたが、ずっと同じ品を入れていますって言われている。途中で一度仕入先も変えてみたんだが、同じ結果が出てしまった訳だ」


「解りました。一度仕入れた金属板と昔作った義肢を見比べてもいいですか?」


「構わんが、それで何か解るのか?」


 オルスマンは2人の前に金属板と1年前に作った義肢を差し出した。


「シャインさん、この2つを調べて貰えますか?」


 シャインはオルスマンから金属板と義肢を受け取り、見比べてみる。


「どうですか? シャインさん何か解りましたか?」


「はいスキャンの結果、金属板と義肢に使われている金属は大きな違いが発見されました。今回の金属板には、少量ですが人に影響のある有害な金属が含まれています。この金属をずっと身につけていれば、体の弱い人なら体調も崩すと思われます」


「おい! それは本当か? 何故そんな事が解るんだ?」


 オルスマンは血相を変えてシャインへ詰め寄ってくる。


「何ですか貴方は? そんな物、見れば解ります」


「普通は解る訳がない! ずっと使ってきた店で買っているんだぞ! それに一度仕入先も変えてもいる。それだったら他の店からも倒れる人が出ている筈だ!」


 オルスマンは押し倒す勢いでシャインの両肩に手を掛けようとした、だがとっさに脚を払われ床に叩きつけられる。


 「ぐぅ!」一瞬息が出来なかったのだろう。小さいうめき声を上げた。


「落着きなさい! 私の予想では貴方は誰かの標的にされています。貴方自身を殺す為に仕組んだ事なのか? それとも評判を落す為にやったのか? 今は解りませんが。貴方に対して悪意を持っている者が居るのは確実です」


 シャインはそう言ってのけた。今まで咳き込んでいたオルスマンはシャインを睨み付ける。


「だから、どうやってお前が言っている事が正しいと証明するんだ? 適当な事言っているんじゃね~よ!」


「私とネルさんは術士です。それでは説明になりませんか?」


 シャインはネルの方を向き片目を瞑ってそう言いのけた。オルスマンは少し考えた素振りを見せ、シャインに問いかける。


「本当に術士なのか? なら1つ試させてもらう。 ここにある義肢の内、最近買った金属板で作られた物が5つだけ残っている。それを全部俺の前に並べて貰おう。もし1つでも間違ったら俺は信用しない」


 作業場には30近い金属製の義肢が並んでいた、普通なら全部当てるのは不可能と思われる。

 だがシャインは何も語らず、オルスマンの前に1ずつ並べて行く。全て並べるのにそう時間は掛からなかった。オルスマンの額に汗が滲む、それを拭いゆっくり立ち上りシャインの前で頭を下げた。


「疑って悪かった!」


 下げた頭を上げる事無く、オルスマンはシャインの返事を待っている。


「頭を上げてください。解って貰えたので、何とも思っていません」


 その返事を聞きオルスマンは頭を戻した。


 今は3人が応接間で向かい合っている。今後をどうするか話し合う為である。


「オルスマンさんを狙っている者を捕まえるのが一番早い解決方法だと思う。僕に考えがあります。聞いてくれますか?」


 ネルは自分の考えている作戦を2人に伝えた。

 翌日の昼過ぎ、オルスマンはいつも仕入れている鍛冶屋の前にいた。入口のドアを開け中へ入っていく。


「いらっしゃい! オルスマンさんじゃないですか? お久しぶりです」


 受付の男がそう言ってきた。


「ああ、急な仕事が入ってな! 今は金が余り無いから必要な分だけ買っていくわ。いつもの金属板3枚持ってきてくれ!」


「ありがとうございます」


 そう言って、受付の男は見せの中へと消えていく。その後、手袋を嵌め金属板を三枚重ねた状態で戻って来た。


「3枚で金貨1枚になります」


 オルスマンが手を上げてそれに応える。その時にネルとシャインが店の中から出てくる。


「どうだった?」


 オルスマンはネル達に尋ねる。


「同じ金属板が並べられているのに、わざわざ毛布を掛けられて奥に隠してある板を出してきました。たぶん、彼も一味の1人だと思います」


 ネルの言葉に受付の男が振り向き声を荒げる。


「君達は何処から入ってきた。不法に侵入しているなら警備隊を呼ぶぞ!」


「魔法の力で進入しました。貴方の行動も全て見ていましたよ。汗の量が凄いですね。それに鼓動も早い。今かなり動揺していますね」


 シャインが的確に受付の心境を伝える。


「オルスマンさんの知り合いですか? 彼等を黙らせて下さい。貴方の顔があるので、今回の事は無かった事にします」


「俺も残念だよ。お前も俺の敵だったんだな? 白状してくれ、誰に頼まれてこんな事をしているんだ?」


「オルスマンさんが何を言っているのか俺には全然解りませんよ」


「じゃあ、この金属板が何なのか知らないんだな?」


 オルスマンが凄みを帯びた声で受付の男に問いかけた。男は凄みに負けて一歩下がる。

 その時、入口のドアが開く、入ってきたのは衛兵とバッカスであった。受付の男は衛兵の姿を確認すると声を荒げた。


「衛兵さん、助けてください。この3人に脅されています」


 だが衛兵はその言葉を無視し、建っているだけであった。受付の男は尚も助けを求める。


「何をしているのですか? この状況が見えてないのですか? こいつらを捕まえて下さい」


 その言葉に返事を返したのはバッカスであった。


「私は警備隊本部隊長のバッカスと言います。今回、此方の方から通報があり駆けつけました。貴方はこの金属板がどの様な物かご存知ですか?」


「俺は知らない、この金属板が何なのかしらない。店の商品をただ売っただけだ!」


「それじゃ、俺が本当に知らないのか確かめてやろう。おいネル、悪いがこいつの上着を脱がして、この金属板を当ててやってくれ」


 その指示にネルは従ってみせた。


「やめろ! 何をする」


 男は暴れようとしたが、ネルが押さえ込み、うつ伏せの状態で上から金属板を当てられる。オルスマンはその状態で男に手を当てる。


「お前達に見せるのは初めてだな。これが俺の魔法だ。【全ての存在に告げる、その状態を保ち続けろ! ハンドバンカー】」


 オルスマンが詠唱を行うと、金属板と男が離れなくなっていた。


「俺の魔法は、接着魔法だ。いつもは義肢と欠損部分を繋げるのに使っているが、こういう使い方も出来る」


 男は身動きが取れずに呻いていた。


「この人、ずっとくっついたままですか?」


 質問したのはネルであった。


「俺が魔法を解除するか、強い力で引っ張っても取れるぞ! あくまで注いだ精神力の分だけ接着しているだけだからな。ちなみに俺の魔法は接着する対象を触ってからの詠唱になる、実践的ではないから戦闘には期待するなよ」


 そんな会話をしている間も男は脱出を試みている。シャインは男の傍に寄り語り掛ける。


「貴方そんな事をするより、早く白状しなしさい。自分でも解っている筈です。その大きさの金属板が長時間皮膚に触れていれば自分がどうなるかを!」


 男は終に観念する事となる。そしてバッカス達の問に素直に答えていった。

 ネルの予想通り、彼は金を渡されて協力していた。犯罪者仲間の一味であった。オルスマンを貶めようとしていたのは、街で2番人気の義肢職人であった。

 衛兵達が受付の男を連行した後、バッカスがネルの傍へ近づいてきた。


「今回は通報を感謝する。余りにも悪質な事件が明るみになった。後の事は我々が対応するので安心してくれ」


 ネルは「よろしくお願いします」と頭を下げた。

 それから数日が経過した。今回の事件に関連した者は全員検挙された。オルスマンの工房をずっと監視していた者が居たらしく、その者が違う鍛冶屋にも金を渡して居た様であった。警備隊から街全体に今回の事件の全容が発表された。オルスマンは被害者で罪は無い事も明記されている。

 倒れた人達も義肢を外し、回復魔法を受ける事によって順調に回復していると教えて貰った。


 そして今日はオルスマンに呼び出されて2人は工房に来ている。

 工房で出迎えたのは、オルスマンの弟子であった。今回の事件で休暇を出されていたと聞いた、仕事が再開出来て嬉しそうである。

 今は応接間の椅子に座りオルスマンを待っている。その後奥から現れたオルスマンは作業服に身を包み髭も綺麗に剃られていた。ネル達の前の椅子に座り話し出す。


「俺がまた義肢を作る事が出来るのもお前達のお陰だ。俺はお前達に命を救われたと言っていい。今回はフィルターからの要望もあるが、それで義手を作るだけじゃまだ足りないと俺は思う。どんな義手がいいか、詳しく説明してくれ! どんな要望の義手でも俺の全てをつぎ込んで作ってやる!」


 オルスマンの言葉に喜ぶネルであった。

 一方シャインは突然立ち上り工房の中へ入っていく。出てきた時には分厚い金属板を持っている。


「オルスマン、見ていなさい!」


 そう言うと空中に板を投げ落ちてきた所を手刀で貫いた。唖然とする残された者たちであったが、シャインは気に止める素振り見せずに要望を述べる。


「先ほどの攻撃を放っても壊れない義手をお願いします。私の望みはネルさんの敵をなぎ払う事ですから……」


「お前は一体何者なんだ?」


 オルスマンの言葉にシャインは上機嫌でお決まりの言葉を放つ。


「私とネルさんは術士ですから。出来ない事など何もありません」


 ネルはその言葉を聞き、頭を抱えていた。   

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