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19話 オルスマン工房

 街の入場口へ馬車が到着する。辺りは入場受付を待つ人で長蛇の列となっている。今見る限りでも100人以上はすぐに確認出来るほどであった。ネルは受付の列へ並ぶ為、馬車から降りる準備を始める。


「2人共、もう少し馬車に乗っていてください」


 サートンはネル達にそう声を掛けた。ネルは首をかしげたが、彼の指示に従った。馬車は一般入場口とは別の扉の前で停止する。ここにはサートンの馬車以外並んでいない。入口横で立っていた衛兵が駆け寄ってくる。サートンは小窓を全開に開け顔を出し手を上げた。


「サートン様、御戻りになられましたか。どうぞお入り下さい」


 衛兵は城壁上に配置されている兵に合図を送る。するとドアが開いていく。それを確認したサートンが衛兵に声をかけた。


「任務ご苦労様です。今は私とバッカス以外にも知人を2名乗せています。後でバッカスに知人の入場書類を運ばせますので、それを確認して下さい」


「了解いたしました!」


 衛兵は敬礼を行い。馬車の入場を見守っていた。

 そのやり取りを見ていたネルとシャインは小声で話をしていた。


「シャインさん、サートンさんってかなり地位の高い人みたいですね」


「そのようですね。それと護衛の方も私が見ている間、一度もスキを見せていません。かなりの強者だと思われます」


 2人が話しているとサートンがこの街の説明を始めた。


「この街は円の形をしています。そして中心に国を代表する王城が建設されています。 当初の街から2度拡張工事が行われ、城壁を残したまま街を大きくしてきました。先ほど入ってこられたのが3つ目の城壁となっています。王城がある場所を1区、次に一度目の拡張工事で出来た場所を2区、最後に今馬車で走っている所を3区と分けています。

 ネルさんが探しているオルスマン工房は、2区の北側にあったと記憶しています」


「サートンさん、説明ありがとうございます。それで今は何処に向かわれているのですか?」


 ネルは馬車が走り続けている理由を聞いた。


「私の職場へ向かっています。もし良ければお茶を付き合って頂きたい。大丈夫ですか?」


「少し位なら大丈夫ですが、宿も決めなければいけませんので長時間は難しいです」


「なに、そんな長い時間拘束しようとは思っていません」


 サートンはにこやかに答え、馬車を走らせていく。


 到着したのは、大きな建物の前であった。入口には衛兵が2名配置されており。入口横の看板には【警備隊詰所】と書かれていた。ネル達は中へ案内され、応接間の椅子に座っていた。


「警備隊の関係者だったのですか?」


 ネルが、サートンに問いただす。


「説明が遅れて申し訳ありません。私は警備隊総大将をやっています。バッカスは警備隊本部の隊長を務めています。最初に言って警戒されるのも嫌だったので、黙っていました。ですが私達は貴方達に敵意はありません。逆に感謝しています」


「僕はサートンさんに感謝される様な事をやった覚えはありませんが?」


「ファーストブルグの街で、犯罪者を捕らえていますね。それも術士が全員で6名、これは普通の事ではありません。

 精霊が人を選んで術士にしている訳ではありませんので、やはり邪な考えを持つ者が術士となる事が多々あります。彼等は強大な力を背に重犯罪を繰り返しています。一般の人に彼等を止めるのは不可能です。

 ファーストブルグの警備団で術士は隊長のみでした。傭兵団や魔法組合には何人か術士はいる様でしたが、我々だけで6人の術士を捕らえるのは難しい。

 今回、犯罪者を捕らえた報告を受け、私はファーストブルグに赴き詳しい話を聞きに行ったのです。そこでネルさんとシャインさんの事を教えてもらいました。 

 その帰りにネルさん達を見つけました。特徴を聞いていたのですぐに御2人だと解りました。私達の馬車が雨漏りをしていたのは本当ですが、濡れて帰るつもりでした。だがそれを口実として2人の人となりを確かめたかったのが接触した理由になります。

 騙す様な事をして本当に申し訳ない。だが貴方達は本当に悪意の無い人であると確認できました。もしこの街にいる間に、何かあれば何でも言ってください力にならせて貰います。

 ファーストブルグの街を犯罪者の危険から守って頂いた事に感謝します」


 そう言ってサートンは2人に頭をさげた。


「いえいえ、大丈夫です。僕達は気にしていませんから」


 ネルは焦ったのだろう、サートンより多い回数頭を下げていた。そして話題を変える様に質問を行う。


「それにしても、ファーストブルグから連絡を受けて、向かうまでの速度が速い気がしますが。何か方法があったのですか?」


「ああ、それは警備団で秘密の連絡方法がございます。教える事は出来ませんが。それを使ってネルさん達が犯罪者を捕まえた翌日には連絡を受けていました」


 その後、会話も進み日も落ちていく時間になっていた。


「それでは、僕達はそろそろ宿を探しに行きます。サートンさん、ありがとうございました。」


「たいした事はしていませんよ」


 そしてサートンはバッカスへ目で合図を送る。合図を確認したバッカスがネルに地図を渡して来た。


「そこに示されている場所にオルスマン工房があります。街は広いですので迷わない様に注意して下さい」


「サートンさん、バッカスさん、色々お世話になりました」


 そう言ってネル達は詰所を後にした。


「シャインさん、サートンさん達をどう思います?」


「様子を伺っていましたが、怪しい動きもありませんでしたし、嘘をついた時に生じる、体温変化や鼓動の乱れもありませんでしたので、言っている事は事実だと思います」


「そうですか。シャインさんが言うのなら間違いは無さそうですね。言っていた事が本当であるなら特に心配する事も無さそうですし、宿を探しましょうか」


 それから2人は工房がある第2区で宿を見つけ、本日はそのまま宿でゆっくりと過ごす事と決めた。

 深夜ネルはベッドで横になっている。その近くにはテーブル付きの椅子に腰をかけ、目をつぶり動かないシャインがいる。ネルはシャインが起きているかの様に声をかけてみた。


「シャインさん、眠っていますか?」


 シャンはすぐに目を開けネルの傍へ寄っていく。


「ネルさん、どうかしましたか?」


「明日、いよいよ工房へ行きます。シャインさんの義手が出来ると思うと色々考えて寝付けなくなってしまって。

 シャインさんはこういう義手がいいとか要望はありますか?」


「私は今のままでも大丈夫ですが、要望と聞かれますと…… そうですね、ネルさんを守る為に壊れない丈夫な腕がいいですね」


 シャインはネルにそう語った。ネルは少しだけムッとした顔をして言葉を返した。


「シャインさん、僕ももう14歳ですし、剣術も少しずつ上達しています。1人でも自分の身は守れます。新しい腕は僕を守るためじゃなく、もっとシャインさん自身の為になる様に考えてください」


 シャインはネルに叱咤され、少し困惑してしまう。


「解りました。考えてみます。それで明日は朝から工房へ向かわれる予定ですか?」


「そのつもりです。この街は広いので、朝から出ても到着するのは昼を過ぎてしまうと思うので」


「それではネルさん、明日も早いので今日は休みましょう」


「そうですね。僕ももう寝ます」


 そう言ってネルは目を閉じそのまま深い眠りに落ちていった。

 翌日は日が上がる頃から2人は宿を出て行く。2区の幅は約10kmありその幅が1区を囲うように続いている。大通りの道幅は広く設計されており。目的地に移動する為に利用する馬車屋がいたる所に待機している。

 ネル達も工房へ向かう為に馬車屋へ声を掛け、目的地を伝えた。


「すみません。2区北側にあるオルスマン工房へお願いできますか?」


「ああ、オルスマン工房なら場所を知っている。銀貨1枚掛かるが良いか?」


「大丈夫です。お願いします」


 馬車は2人を乗せ走り出した。馬車と言っても、荷台に簡易な雨よけと椅子が取り付けられている程度であり。転落防止の柵の隙間から街の風景も楽しむ事が出来た。

 最初走り出した所からすぐに住居が建ち並ぶ場所へ入った。家と家の間に隙間が殆ど無く、人が1人通るのが限界の様であった。


「凄い家の数ですね。これだけ並べて建っていたら、火事の時はどうなるのでしょう?」


 ネルが馬車屋に声を掛ける。


「その時は隣の家を壊して横へ広がらない様にするのが一般的だな。それとどの家も粘土を固めて作った材料で作られているから、基本的に火には強い」


 馬車屋の説明を受け、ネルは何度も頷き感心している様子であった。

 それから9の鐘が過ぎ10の鐘が鳴った時に目的地であるオルスマン工房に到着出来た。2人は礼を言ってから馬車から飛び降りた。

 工房は閉まっていた。客用と思われるドアが正面にあり。建物の横に正面よりも一回り小さいドアが見受けられた。正面ドアから声を掛けてみたが、反応は無い。 


「誰も居ないのでしょうか?」


 ネルはシャインへ問いかけた。


「いえ、中には1人居るようです。私は熱感知が出来ます。居留守など無意味です。横のドアから呼び出しましょう」


 そう言うとシャインは横のドアへ移動し、ドアを叩き出した。少しの間、普通にノックをしているが反応は返って来なかった。

 シャインはドアを叩く威力を少しずつ上げていく。


 コン、コン、コン…… ドン、ドン、ドン…… ドゴン、ドゴン、バキッ!


「ドアを壊す気か!」


 中から飛び出して来たのは、40前後の男性であった。顔は整っており、体も無駄な脂肪などは見受けられないガッシリした体型である。ただ、髭の手入れを幾日も行っていない様子であり。その為、不衛生的な印象を受けた。


「何の用だ! おいドアの建て付けがおかしくなっているじゃね~か! 弁償できるのかよ?」


「客が来ているのに、無視をする人が悪いのです」


 シャインが悪びれもせず言いのけた。


「客? 見ての通り、店は休みだ。悪いが他の店でも行ってくれ!」


 その言葉を聞き、ネルは用件だけを男性に伝えた。


「僕達はファーストブルグのフィルター氏の紹介で此処を訪れました。貴方がオルスマン氏でしたら。お話だけでも聞いて貰えませんか?」


「フィルターの紹介か…… 仕方ない話は聞こう。だが余り期待しないで欲しい」


 その後、応接間に案内されたネル達はフィルターからの手紙を手渡す。オルスマンは手紙の文面に目を通す。テーブルに置かれているお茶を一度飲みネル達に話しかける。


「確かにこれはフィルターの手紙だ! お前達に義手を作ってくれと書かれているが、誰が使う?」


「僕の隣にいる彼女はシャインといいます。彼女の腕を作って頂きたい」


 オルスマンはネルの説明を受け、シャインを凝視する。少しすると首を振りシャインから目を離す。


「やはり駄目だろう…… 最初に言っておく! 俺の義肢(ぎし)は使用者を殺す。だから俺は義肢を作らないと決めた」


 驚きの発言にネルとシャインは驚いている様であった。


「それは一体どう言う事なのですか? 諦めるにしても、詳しい理由が知りたい。話してくれませんか?」


 オルスマンは話したく無さそうであったが、少しの沈黙の後に重い口を開け話しだした。

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