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15話 ライト鉱山の魔獣

 総勢20名が、小隊が列を組み歩いている。目指す場所はファーストブルグの街から北へ一日程度歩いた場所で、フィルター所有のライト鉱山だ。列の中央は馬車が配置されており、前方に6名、後方に6名、両脇に2名ずつ配置し進んでいる。ネルとシャインは進行方向から右側の警戒に当たっている。誰もが警戒でピリリとした緊張感があった。だが数名はそれとは違う感情を抱いていた。

 馬車の小窓からコウキが顔を出し、ネル達に何か言っている様であった。ネルは少し笑っている風にも見える。


「チッ! あいつら気にいらねぇ」


 悪態を付いたのは、討伐隊副隊長であるダンである。彼は後方に配置されているが周囲警戒よりもネル達を観察している様子である。

 ダンとネル達が出会ったのは今日の朝であった。


「ジョーイ隊長。今日は魔獣討伐ですね」


「ああ、昨日話した通り魔法組合から、術士も来てくれている。

 1隊を4人体制で組んで行く。4隊編成だ。フィルター氏の護衛で1隊付けるから、3隊で捜索、討伐を行う。お前は今回、副隊長だ。くれぐれも迂闊な行動はとるなよ」


「わかっていますよ。安心してください」


 ジョーイとダンはフィルター邸の応接室へ向かっている。


「失礼します」


 ジョーイはドアをノックし待機する。


「どうぞ中へ入って下さい」


 ジートがドアを開き、声をかけた。ジョーイ達は中へ入り、フィルターの前に移動する。ジョーイは普通だがダンは緊張している様子であった。


「討伐の準備が出来ました」


 ジョーイがフィルターに討伐準備完了を告げる。


「ジョーイさん今回はよろしくお願いします。それとご紹介したい人がいます。私の横にいる人はネル・ダブルさんとシャインさんです。お二人とも私の友人ですが、今回の討伐に参加して戴く事になりました」


「ネル・ダブルです。よろしくお願いします」


「シャインです」


 ジョーイは特に語る事なく二人を見定めている。


「フィルターさん、魔獣討伐は遊びではございません。見物人を同行させる余裕はありません」


「実はネルさんとシャインさんはアリスを助けてくれた人です。誘拐犯も殺さずに衛兵に引き渡しています。実力は十分にあるといえます」


 フィルターの言葉を聞いたジョーイは、少し驚いたようであった。

 アリス誘拐時に倒された護衛にジョーイの部下も含まれていた。剣の腕が立つ者だったので、アリス嬢誘拐犯はかなりの強者と考えられていた。


「その話が本当であるなら、実力は十分あると思います。だが、今回討伐隊は各隊のバランスを考えて配置しております。実力も解らない者を隊に入れると、連系が上手くいかないでしょう」


 ジョーイが正論を放つ。


「ネルさんと私は2人で行動しますので、隊に入らなくて構いません。それに捜索や討伐の際に邪魔や横槍は入れない様にします。私達の事は考える必要はありません」


「そこまで言われるのなら、同行を認めない訳にはいきません。出発は次の鐘が鳴った時です。遅れませんよう宜しくお願いします」


 シャインの言葉を受けジョーイが同行を認めた。その横でダンは面白く無い顔をし続けていた。


「ネル…… いる?」


 ドアを半分だけ開けて中を除いていたのはアリスであった。


「アリスちゃん! ここにいるよ」


 ネルが手を挙げて合図を送る。アリスはそれに気付きネルの元へ近づいていく。


「ネル…… お父様を助けてあげてね」


 懇願する様にネルにお願いする。アリスの頭に手を置きネルは笑いかけながら答える。


「ああ、大丈夫だよ。お父さんは僕達が守るから」


 そして、ジョーイが準備の為、退出していった。


「ジョーイ隊長。何ですか?あのガキと女は、魔獣討伐はお遊戯会じゃないですよ?同行も認めなかったら良かったんですよ」


 ダンはジョーイの横を歩きながら、ぶつぶつと文句を言っていた。


「ダン! 余計な事は考えるな。俺たちは俺たちの仕事をやればいいんだ。それに誘拐犯を捕らえたと言うのが本当なら、実力は本物だ。余計な事はするなよ」


「俺はあの2人が誘拐犯を捕まえたって話も、信用していませんけどね。ネルって言うガキより俺の方が絶対に強いです」


 そしてジョーイとダンは集合場所へと向かっていく。



 20人がライト鉱山入口に到着したのは、次の日であった。入口近くに見張りが2名待機していた。話を聞くと、まだ魔獣は出てきていないとの事であった。それを確認すると早速ジョーイが指示を出していく。


「まずは各隊の隊長は坑内地図を受け取ってくれ。坑内を手分けして魔獣を探す。見つけた隊は手を出さずに場所を知らせて欲しい。捜索は1番隊から3番隊が行う。4番隊はフィルター氏の護衛についてくれ」


「ジョーイ隊長! 俺の隊も捜索に入れて下さい」


 そう訴えてきたのは、4番隊のダンであった。


「ダン! お前がフィルター氏を守れ。もしも俺に何かあったら、指示を出すのはお前だ。それは解るな? それにフィルター氏は誰が守る?」


「ジョーイ隊長が言っている事も解ります。でも、俺も参加したい! フィルター氏はあの2人に任せて置けばいいじゃないですか?」


 そう言ったダンの頬に平手が飛んでくる。


「あの2人よりお前の方が強いのだろ?自分より弱い者に雇い主を守らせてどうするのだ! それにあの2人は数に入れない事になっているのは、お前も知っているだろ! 俺たちの中から選出するのが筋だ。解ったな?」


 ダンは殴られた頬に手を当てて頷く。


「解ったなら任務に戻れ! ではこれから坑内の捜索を開始する。隊形を維持しながら進め! 危険があったら無理はするな」


 捜索隊は中へ進入した。坑内は縦横3m程度の幅があり。壁には光魔法石が点々と吊るされている。魔法石の発する光により坑内は明るく視野も良かった。内部通路は枝道が多数あり。その1つ1つを確認していく作業であった。


「ネルさん、私達も行きましょうか?」


「行きましょう。シャインさん」


 捜索隊が入ってから少し時間がたった頃、2人は行動を開始する。坑内へネル達が入ろうとした時、誰かが声を掛けてきた。


「待てよ! お前達はくれぐれもジョーイ隊長の足を引っ張るなよ!」


 声を掛けて来たのは、ダンであった。


「解りました気をつけます」


 ネルはそう言って中へ入っていく。坑内へ入ったネルは好奇心に火を付けていた。


「すごく明るい。これが光の魔法石! それに壁に所々光っている層があります。これが魔法石の原石なのでしょうか?」


 ネルはそんな事を言いながら奥へと進んでいった。


「ぎゃぁ~!」


 奥から叫び声が聞こえてくる。ネルとシャインは顔を見合わせ、声の方へと走り出した。途中、枝道からジョーイが現れる。ネルと同じで声を聞きつけてやってきたようであった。


「君達か、さきほどの声はこの先でいいのか?」


 ジョーイの問にシャインが頷いた。


「君達は私達の後について来なさい。では行くぞ」


 走り出したジョーイの後をネル達は付いていく。そしてまもなくジョーイが立ち止まる。ネルが見たものは前方に人を丸呑みしている魔獣の姿であった。


「ナーガの変種なのか……」


 ジョーイが額から汗を流し言葉にする。ネルの横にいたシャインもナーガを目にしていた。


「大蛇の様ですね」


 シャインが呟いた。


 目の前にいたナーガは直径が1.5m程、長さが7m程も在りそうな紐の様な魔獣であった。表面は硬そうな鱗に覆われている。今人を丸呑みして脚だけが口から出ている状態である。


「助けなきゃ!」


 ネルは叫んでいた。その声に素早く反応したシャインは目に付かない程の速度で近づき顔へ剣を振るった。しかし剣は弾かれてしまう。しかし怒りをあらわにしたナーガは体を上げ大きく口をあける、そして威嚇の声をあげた。口に含まれていた人は口から滑り落ちシャインが受け止めた。すぐさまジョーイの元へ連れて行き指示をだす。


「この人の処置をお願いします、鎧ごと噛み砕かれています。危険な状況と推測されます」


 一連の行動に唖然とする。隊のメンバーであったが、ジョーイは直ぐに気持ちを切り替えて、指示を飛ばしていく。


「2番隊員! 残りのメンバーは彼を外へ運び救護に当ってくれ! その時外にいる者にナーガの変種の事を伝えろ。その場から離れる様促してくれ。

 1番隊と3番隊で奴を食い止める。絶対に外へ出すな!

 前衛は防御のみ考えろ。奴が口を開いたら坑道一杯まで広がると考えておけ、術士は最大火力の攻撃魔法を放つ準備に入れ、前衛を襲う為に開いた口の中へ魔法を叩き込め!」


 指示を受けた、傭兵達は行動へと移していく。前衛はナーガの前に盾を突き出し、様子を伺う。その間も後方で術士が詠唱をはじめて行く。

 ナーガは体をくねらせ威嚇していく。

 くねらせていた体を弓の弦の様に引っ張っていきギリギリまで貯められた力が一気に解き放たれた。ナーガはジョーイの予想通り、口を坑道一杯まで広げ丸呑みする気であった。前衛は盾をその場の土に突き立て、自身は下がって剣を前へ構える。そして前衛の後ろから魔法が放たれていく。魔法はナーガの口の中へ吸い込まれていった。轟音と共に雄叫びを上げ、動き出す。


「直撃だったぞ、効いていないのか!?」


 ジョーイが驚愕の顔へと変わる。ナーガはお構いなしに次の攻撃態勢へと入っていく。


「一度引け! 体制を立て直す」


 その言葉に従って、各自後退を開始する。だが2名程その場から動かない者がいた。


「何をしている。死にたいのか?」


 ジョーイが大声で叫ぶ。


「僕達がやります。皆さんは一度引いてください!」


 ネルとシャインは横に並びナーガの行く手を阻んでいる。


「なんだと? たった2人で何ができる? 死ぬぞ、引け!」


「ネルさんと私で倒せない生物は存在しません。命が大切なら引きなさい」


 シャインが強気に言い返す。その言葉にジョーイは足を止め2人を見ていた。


「シャインさん、先ほどの打合せ通りでいいですね?」


「結構です。タイミングはお任せします。さっさと終わらせましょう!」


 2人は互いに、声を掛け行動を開始する。

 ネルが最初にナーガへと突っ込んでいく、それを確認したナーガは丸呑みしようと口を大きく開け突っ込んできた。ネルは喰われる前にテレポートをする。とんだ場所はナーガの首の上であった。


「たとえ表面が鱗で覆われて剣が効かなくても、紐の様に柔らかい体を伸ばした時に限り、鱗の間に隙間が出来ます」


 ネルは鱗と鱗の間に件を突き刺し切り裂いた。ナーガが痛みでうねり上がる。ネルは弾き飛ばされる前にテレポートにて後方に離脱する。ナーガは後方にいるネルの方へ体をくねらせていく。


「前には私が居ますよ」


 狙いをネルに定めたナーガに向かってシャインは突っ込み、体を曲げている箇所へ攻撃を加える。体を大きく、くねらせている場所も鱗の間に隙間ができ、剣での攻撃が通っていた。

 2人は互いを囮として、ナーガに攻撃を重ねていく。ナーガの表面は見る見る血に染まっていき動きが鈍くなっていく。頃合とみたネルがシャインへ声を掛けた。


「シャインさん! 次で終わらせます」


「解りました」


 ナーガはシャインへ向かって、大きな口を開き喰らいつこうとしていた。

 ネルはナーガの目の前に飛ぶと、すかさず目に剣を突き刺す。まばたきが間に合わず、剣が深々と突き刺さる。荒れ狂うナーガを横目にシャインは最大加速にて接近し壁をけり付け、方向転換を行う。そのまま突き刺さった剣へ蹴りを放った。

 剣は目の中をつき抜け脳へと達する。その瞬間ナーガが崩れ落ちる。


「やりました。シャインさん」

 「いえ、ネルさんのお陰です」


 互いに、称え合う2人を遠くから見ていた、ジョーイが驚愕に震えていた。


「彼らは一体何者だ?」


 その後、坑外へと出て行った。ジョーイ達にダンが駆け寄ってくる。


「ジョーイ隊長! 大丈夫ですか?ナーガは?」


 ジョーイは晴れやかな顔をしながら、有りのまま伝えた。


「ナーガの討伐は完了した!」


 その返事に顔を赤くして興奮気味にはしゃぐダンに、ジョーイが言葉を続ける。


「ダン! 討伐したのは、あの2人だ! 俺達は何も出来なかった……。それが真実だ」


 ジョーイの告白に唖然とするダンであった。


 そして、最後に坑外へ出てきた2人は、いつもの様に寄り添っていた。

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