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14話 魔法石

 壁には風景画が飾ってある。街の情景を書いたものだ。本当にその場所にいるかの様に引き込まれてしまう。座っているソファーはお尻の半分ほど沈みこむ程の弾力性がある。お茶がテーブルに置かれているが、そのテーブルは木製で漆黒の色が塗られ、表面がつやつやして上品な雰囲気が出ていた。普通の塗料であればツヤなど出ない。ネルは興味津々にテーブルの上を指でなぞっていく。


「シャインさん、見てみてテーブルがスベスベしている」


 見たことの無いテーブルに興奮しているようであった。


「分析しましたが表面の色を何かで保護しているようですね、何かと言うのはまだ解りません」


 シャインは自分の考えを述べる。


「そのテーブルがお気に召しましたか? それは着色魔法で色を塗ってあるテーブルです。この度はお越し頂きありがとうございます」


 その声と共に現れたのはコウキ・フィルターであった。彼は部屋の奥に設置されている扉から姿を現し、ネルの方へ近づいた。

そして深々と腰を折り、再度お礼を述べていった。その真摯な対応にネルも恐縮するばかりであった。

 そしてコウキは服のポケットからベルを取り出すと、2度音をならす。その後すぐにジートが現れる。コウキは食事の準備をする様に伝えた。ネルが「もう軽く食べたので大丈夫です」と告げたが、「気になった品のみ食べてくれたらいいですから」と押し切られてしまった。


 食事が次々に運ばれて来る。絢爛豪華な料理がテーブル一杯に並べられた。ネルはパンを食べたはずなのだが、料理を見るとお腹が空いてきたのか、取り皿に料理を盛っていった。


 ネルは料理を食べならが、昨日の出来事を報告していく。シャインは相槌を打つ程度であった。コウキはそれを真剣な眼差しで口を挟む事無く、聴いていた。

 全てを聴き終えると、もう一度頭を下げる。


「ネル様。シャイン様。2人が命を懸けて娘を守ってくれた事を再度感謝いたします。

 本当はアリスも同席させるつもりでいましたが、家に着いてすぐに眠ってしまいまして。お気を悪くしないで下さい」


 ネルは恐縮してしまう。シャインはそこで話題を変るかの如く質問を返した。


「衛兵に引き渡した、2人組みは術士でした。魔法を使って逃亡の可能性もあると思いますが?」


 それにコウキは答える。


「それは心配ないと思われます。牢に入れば魔法は使えませんから」


 コウキの答えは、ネルとシャインの気を引く十分な素材となった。


「興味深いお話ですね。詳しく教えて貰う事は出来ますか?」


 シャインは尋ねる。その横でネルも首を上下に振って聴きたそうにしていた。


「 余り一般の人に話す事では無いですが、恩人である2人には説明しましょう。

 魔法石は大陸中で利用されています。 魔法を使えない人であっても魔法の力の恩恵をうける事が出来るので生活は向上しました。 でも皆さんが知っている魔法石の情報は、ごく一部にしか過ぎません」


 そこで一旦言葉を区切り、コウキはお茶に口をつける。


「 水が出る魔法石があるとします。 使い方は誰でも知っている様に石に定められている。呪文を詠唱する事です。止める時も同じです。 だか、作り方は誰も深くは気にしていません。

 魔法石には各属性が在ります。水には水の火なら火の属性です。属性以外の魔法は閉じ込める事が出来ません。だが、量は少ないですが、どの種類の魔法でも閉じ込める事が出来る石が存在します。

 それが無属性の石です。無属性の石はどの力も吸取りますが、閉じ込めた力を解放する事が出来ません。その理由はまだ解っていませんが、消えてしまうのです。1日経つとまた、空の状態に戻ります。

 牢屋には無属性の魔法石を仕込んでいるので、魔法を使われる心配がありません」


 コウキの説明にシャインが説明を求める。


「フィルターさんの説明で無属性の事は解りました。では無属性の魔法石の許容を上回る魔法を使用した場合はどうなりますか?それと兵器の一部、例えば盾や剣に石を埋め込んだ場合はどうでしょう?」


「シャインさんが質問される事を説明しますと。それには幾つか事情が御座いまして、まず許容量ですが、一般の商店などで売られている魔法石は全てが低級品となります。

 低級、中級、上級という様に容量に対して分類されています。普通の術士で一日に魔法を詰める事の出来る数は低級石で平均100個です。無属性の魔法石はその全てが上級に分類されます。同じ大きさの魔法石の場合ですが、上級石1個と低級石100個が大体同じ容量です。牢屋に収容できる人の数以上の魔法石を設置しておけば大丈夫と言う訳です。

 次に兵器に使用するとの事ですが、それは難しいかと思われます。理由は石の質量が違います。同じ石大きさの魔法石で比べると無属性の石の方が100倍重たくなっています。

 最後に加工できる大きさです。魔法石は加工しなければ仕様できません。今の最高の技術を持ってしても20cm四方が最小となっています。ですから鎧や盾などに使用しても扱える人がまずいません」


「ご説明ありがとう御座います。大変理解できました。それにしてもフィルター氏は詳しいですね」


 シャインがたずねた。


「はい、私は商人をしております。特に魔法石の取り扱いが最も多く、今の財は魔法石関連の商売で築きました。私が所有する鉱山には魔法石が多く取れます。少量ですが無属性の石も取れます。無属性は全て国に卸しますので、一般には見ることは無いでしょう。フィルター商会は、サマン国一の魔法石加工技術を持っていると自負しています」


 そのコウキはその言葉は自身に満ちていた。だが続く言葉は逆に力が無かった。


「ですが今回アリスがさらわれたのも、魔法石が原因です。

 最近、私の鉱山から新種の無属性の石が発見されました。まだ、その石がどのような性能を持っているかは解っていません。それを狙っての犯行だと思います。

 この屋敷を入った時にお気づきだと思いますが、警備は常時行っていました。ですが警備をなぎ払って今回アリスはさらわれてしまった」


 コウキは語りながら、右手を強く握る。


「今後は警備の質を上げ二度と同じ事を繰り返さない様にします。

 それで、2人にお礼を考えています。何か欲しい物とかはありませんか?私も商人をやっておりますので、金品であれば有る程度の物は揃えられます」


 ネルはコウキがどれ程、今回の事件を教訓にしているのかを悟った。


「フィルターさん、アリスさんを救えた事は僕にとっても大きな意味がありました。自分が決めた事を最後まで貫き通す事ができ、大きな自信となりました。これから目標へ向かって心折れず頑張っていけます。ですから、お礼などは結構です」


 フィルターとネルは互いに目を逸らさずにいた。


「ふ~! ネルさん貴方は強い意志をお持ちの人のようですね。貴方ほどの人が目標にしている事を、是非お聞かせ下さいませんか?」


 ネルは少し悩んでいたが、後ろからシャインが「私の事は気にする事はありませんよ」と声を掛けてくる。ネルはシャインへ頷き、自分が目指している事を話していく。


「僕はシャインさんを治せる術士か魔法士を探しています」


 そう伝えると、シャインがネルの横へ移動し、いつも着ているマントの中から左手を出して見せた。シャインの左手は皮の布を巻かれているが、肘より先が無い状態であった。


「左腕の欠損…… ですか」


 コウキはシャインの左腕を見て、何やら真剣に考えている様であった。少しの間右手を口元に当て何やら考えていたコウキはその手を下ろし、ネルに語りかけた。


「ネルさんに残念な事かも知れませんが、シャインさんの手を復元する事は難しいと思います。私も仕事柄、様々な人や術士とも交流がございますが、今まで回復魔法で欠損を復元させたと言う話は聞いた事がございません。国専属の回復魔法士でもシャインさんの腕は治せないと思います」


 コウキの告げる現実は、ネルの表情は曇らせ、力を失わせた。そしてネルは反論する。


「そんな事はない、きっと何処かにいるはずです。僕がきっと見つけてみます。ぼくが……」


 今にも泣きそうな顔になりながら、ネルは希望だけを口にし、力を落していく。シャインはネルの姿をただ見つめていた。


「ネルさん、どうかお気を落さないで下さい。目標である腕の復元は難しいのは確かです。ですが、まずは義手を手に入れてみてはどうでしょう?」


「義手ですか?」


 ネルは落していた頭を上げ、コウキを見る。


「はい、義手です。私の古い知人に義手の技術者がいます。さらに彼は術士であり、彼が作る義手はこの国一番と言われています。

 私も彼の技術が本当にどの位かは解りませんが、シャインさんの力になってくれる事は確実です。まずは義手を手に入れ、不自由を減らし、その後に欠損を回復させる方法を探すのです」


 コウキの考えを聞き、ネルの顔に赤みが戻っていく。目には涙を浮かべていた。


「彼は違う地区の街にいます。私が紹介状を書きますので、一度お尋ね下さい。

 そして、義手作成に掛かる費用は全て私が持ちます。それがお礼と言う事でどうでしょうか?」


 コウキはそう言うと、ネルへ笑顔をみせた。ネルは「費用まで出して貰う訳にはいかない」と言っていたが、「ネルさんには紹介状を書く事! そしてシャインさんへは費用を提供する事がお礼です」と強く言われた。ネルはシャインを見て何度も目を擦りながら笑っていた。


 コウキとネルがその後も会談を進めていると、部屋にジートが入ってきた。


「旦那様、会食中失礼します。早急にお伝えする事がございます」


 ネル達に一礼をし、要件を伝える。


「ジートどうした?」


 ジートはコウキの耳元で小さな声で用件を伝えた。コウキは目を見開き、額から汗が流れ落ちていた。ネルはコウキの姿に異常を感じ、たずねてみる。


「フィルターさん、どうしました?」


「いえ、たいした事では御座いません。ネルさんはお気になさらず」


 その時、ネルの横で黙っていた、シャインが口をひらいた。


「ネルさん、鉱山に魔獣の変種が生まれたそうです。かなり危険な状態な様です」


 シャインの言葉に、コウキとジートが驚く。


「シャインさんは何故その事を……?」


「簡潔に申しますと、私の力という事になります」


 その言葉にジートが頷いた。


「旦那さま、2人が昨日捉えた誘拐犯は2人共術士で御座いました。一般の人が決して敵う相手では御座いません。ネル様とシャイン様もきっと術士でございましょう。私も思慮が足らず2人の前で報告してしまい、申し訳ありません」


 ジートの説明で、コウキも理解し知られてしまった事に気付き、事態を話す事となった。


「鉱山には様々な魔法石が採られています。今、魔法石はどんなに小さくても20cm四方の大きさですので、人の口にする事はまずありません。魔法石を食べた人は今まで全員亡くなっています。

 だが人よりも強靭な魔獣の場合、稀では在りますが魔法石を食べて死なない事があります。死ななかった魔獣は力を変異させ、より強靭にそして凶暴になって暴れるのです。今回鉱山に配置している傭兵を倒し、中へ進入した魔獣が変異した模様です。今は幸い鉱山内部から出ておりませんので被害は出ておりません。私はすぐに討伐隊を結成し対応しなければなりません。

 今日はこれで失礼します。後はジートに宿へ送らせて頂きますのでゆっくりしていって下さい」


 そう告げると、コウキは椅子から立ち上がり、部屋を出ようとした。それをネルが引き止めた。


「フィルターさん、待ってください。その討伐を僕達にも手伝わせてくれませんか?」


「娘の命まで救ってくれた恩人に、そこまで頼る事は出来ません。気持ちだけ受け取っておきます」


「確かにお節介かもしれません。ですが僕に救いの手を差し伸べてくれた人が困っている状況を知りながら無視する様な事は出来ません。

 自分に手伝える力があるのなら、その力を出し惜しみする気もありません。どうか僕達も連れて行ってください」


 コウキは困惑し、迷っている様子であった。そこでジートが助け船をだした。


「旦那様、ネル様達に依頼を出してみては如何でしょうか?あくまで契約に基づき履行する。恩を返す、返されるとかではありません。

 ネル様達は一級品の実力の持ち主と推測されます。昨日の誘拐犯は当家の護衛5名を倒していますが、その内2名は術士でございました。他の3名の実力も私が確認しています。戦力増強にはネル様は必要かと思います」


 その言葉にコウキは思案し、ネルに協力を依頼する事を決める。


「ネルさん、シャインさん、本当に宜しいですか?魔獣の変種は本当に危険ですよ」


「僕は大丈夫です。シャインさんも大丈夫ですね?」


「ネルさん、それは愚問ですよ。魔獣がいかに凶暴かは知りませんが、私とネルさんで倒せない生物は存在しません。討伐隊など経費の無駄ですね」


 堂々と言いのけるシャインであった。

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